「どうもー、こんちはー」。昼近く、企業などに弁当の配達で訪ねる隆史(たかし)さんの声が響く。武雄市の社会福祉法人「ゆずり葉」が運営する弁当製造の福祉事業所「ゆめランチ」で働く。30代後半の彼は知的障害者。注文の弁当を、自転車で近くに配って回るのが役割だ◆「彼はどうもーって行くのが好きなんですよ」と「ゆずり葉」理事の梶川靖弘さん(53)は笑顔で語る。1人暮らしのお年寄りなどにも、何人かで手分けして届けている。それぞれできることをとの考えで、本人たちも仕事として責任感を持って取り組み、やりがいを生んでいる◆市内の新興商業地域である現地に、生活介護施設を併設して越してきたのはこの4月。あえて目立つところを選んだ。知的、精神、身体障害者34人が仲間だ。自閉症と知的の重複障害のある梶川さんの長男も通う◆相模原市の障害者殺傷事件から明日で1年。事件は障害者を取り巻く社会の有(あ)り様(よう)をも問うた。梶川さんは「障害者が暮らせる場所が、誰にとっても生きやすい社会のはず」と能力だけで価値を決めるのではなく、みんなが人間らしく生きられる仕組みの必要さを思う◆ただ手を差し伸べてもらうだけでなく、自分たちから街中に出て行き、知ってもらうことが大事−。知らない不安が差別や偏見を生む。梶川さんはそう考えている。(章)
2017年07月25日 佐賀新聞
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