埼玉医科大学が学生の授業に取り入れ、看護師だけでなく教授にも学んでもらい、さらに患者への退院指導にも取り入れている「力がいらない」「腰にやさしい」「感染リスクが抑えられる」新しいケアの技術をピックアップして紹介する。今回は、院内研修で実地にメソッドを学んだ専門医の評価を聞いてみよう。
前編記事:これで腰痛とはおさらば! 腰にやさしく楽にできる介護「5つのポイント」
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腰を守る確かな工夫がある身体介助の技術
鳥尾哲矢( 埼玉医科大学病院 整形外科・脊椎外科教授)
●なぜ介助で腰を痛めるのか
介助のなかでもとくに腰痛が起こりやすいのは、入浴介助と移乗介助です。これらはいずれも、「前屈位で、少し離れたところにあるものを持ち上げる動作」、つまり腰を曲げ、前屈みで利用者の体を持ち上げる「腰を支点とした動作」です。
前屈み姿勢が続くと、椎間板脊柱起立筋、大殿筋などに大きな負担がかかります。くり返しの負担により組織が傷ついて炎症が起こり、痛み(侵害受容性疼痛)が生じます。
一般に「ぎっくり腰」と呼ばれる急性腰痛の多くは、そのような原因で起こっています。また、前屈みになると、椎間板内部にかかる圧力(椎間板内圧)が上がることがわかっています。椎間板内圧は、立っているだけならそれほど高くないのですが、前屈みになると上がり、その姿勢のまま持ち上げる動作をすると、さらに上がります。
前屈みの持ち上げ動作により、椎間板のなかの「髄核」と呼ばれる柔らかい軟骨組織が押しつぶされて後方に膨らみ、神経を圧迫します。この神経への刺激も痛み(神経障害性疼痛)を起こし、腰だけでなく臀部にまで広がっていくこともあります。
●埼玉医大式にちりばめられた「工夫」
腰を支点とした介助は、急性腰痛だけでなく、坐骨神経痛や、複雑な治療が必要な慢性腰痛にもつながりかねない、リスクの高い動作ですが、埼玉医大式の介助技術には、介助者の腰を守る多くの工夫が随所にちりばめられています。
たとえば「寝返り介助」はベッド上に片膝をついて行いますが、これは動作の支点を腰から膝へ変えることで腰にかかる負担を軽減しています。「立ち上がり介助」では、介助者が足を一歩出すことで、利用者の自然な動作を引き出すきっかけをつくっています。私自身、根津先生の指導のもと実践してみて、体感できました。
習得の機会さえあれば、だれでもそのような技術を身につけられるのです。医療・介護関係者にとっては朗報です。ぜひ役立てていただきたいと思います。
なぜ「埼玉医大式」で介助が楽になるのか
篠田裕介(埼玉医科大学 医学部リハビリテーション科 教授)
●介助で最も力を要するのは
介助のとき、いちばん力が必要になるのは「起き上がって立つまで」の場面です。とりわけ、寝ている人を端座位(足をおろして腰かけた状態)まで導くのは大変です。相手を抱えて起こそうとすると大きな力が必要になり、とうてい動かせない場合もあります。
ところが埼玉医大式で介助を行うと、たとえ相手が体の大きな人であっても、あまり苦労せず体を起こすことができます。なぜこんなことができるのでしょうか。
●手の平の向きで働く筋肉が変わる
寝ている人をベッド上に起こすとき、介助者は必ず肘を曲げて要介護者の体を動かします。肘を曲げる筋肉には、上腕二頭筋と上腕筋、腕橈骨筋の3つがありますが、手の平を上(あるいは下)に向けて肘を曲げたときに働くのは、限られた筋肉だけです。
ところが、内腕刀をつくって下の図のように肘を曲げると、上腕二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋の3つの筋肉に加えて、大胸筋まで使うことができるのです。
上体が起きたら、あとは片方の座骨を支点に利用者の体をぐるりとまわすので、大きな力は必要なくなります。埼玉医大式の介助技術では、このように、力が必要な場面でより多くの筋肉を動員できるようになっています。根津先生の指導のもと、講習で試してみて気づかされました。
リハビリや介護の専門職は、それぞれ、その人なりの介助技術を持っているはずですが、埼玉医大式の介助技術から得るところも大きいと思います。各現場で、既存の技術と融合させながら使うといいかもしれません。
https://news.yahoo.co.jp/articles/4119c99dae0a8884592c530078520e1b36a9c9b9?fbclid=IwAR06rQIbRYQBDTy8YVvk0XId6pyotVP7koAxV1BUPbP-p6k9zgxQkhncS24
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