これを受けて、両親と姉、弟の家族全員が見舞いに来てくれた。そして、今後について僕は家族と話し合った。
おもに僕と両親での会話が多く、その横で弟は、椅子に座りながら、いつものように黙って携帯電話をいじっていた。
当時、中学2年生の弟は思春期のまっただなかで、仲が悪かったわけではないが、どこか僕に対してよそよそしさがあった。
だが、両親との話の内容が僕の今後のことについて及んだとき、弟は携帯電話をいじりながらも聞き耳を立てているように見えた。
「俺、サッカー選手を続けていいかどうか、正直迷っているんだ」
僕がこのとき抱いていた本音を両親にぶつけたときだった。母が「もちろん史哉の気持ちが大事だし、今は治療に専念したほうがいいよ」と答えると、弟が口を開いた。
「俺は……サッカーをしている姿をもう一度見てみたいな」
驚いた。弟は誰に話しかけるでもなく、ボソッとそうつぶやいたのだった。そのあとは変わらない表情で携帯電話をいじり続けていた。
この言葉は僕の心に響いた。普段あまり会話をしない弟が僕にぶつけてくれた本音だと思った。弟は僕の後を追うようにサッカーをしていた。プレーもそうだが、Jリーグや日本代表、海外サッカーがものすごく好きで、アルビレックスの試合もよく観に行っていたし、当然、僕がプロとしてプレーしている姿を観に来てくれていた。
言葉は交わさずとも、僕を兄として、サッカー選手として尊敬してくれていることは十分に伝わっていた。だからこそ、彼の一言は僕のなかにものすごく刺さった。
「俺はもう一度頑張らないといけないな」
このとき、僕は弟から大きな勇気をもらった。
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