福岡地検専門部署、発足1年で117人支援
万引きなどの軽い罪を繰り返す高齢者や知的障害者らの再犯防止に取り組む福岡地検の専門部署「刑事政策推進室」の開設から1年が過ぎた。全国の検察が取り組む施策で、福祉の専門家らと連携し、罪を重ねる容疑者らを更生に導くのが狙いだ。福岡地検は3月末までの1年間で117人を支援し、就労支援センターや医療機関につなぐなどした。
法務省の犯罪白書によると、2016年の刑法犯の検挙者は戦後最少の22万6376人。うち再犯者は11万306人で、再犯者率は48・7%(前年比0・7ポイント増)だった。全体の検挙者が減少する一方、再犯者率は20年連続で増えている。
こうした現状を受け、各地の検察は万引きや無銭飲食など比較的軽い罪を繰り返す高齢者や知的障害者、生活困窮者らの社会復帰を支援する取り組みに力を入れている。
福岡地検では、刑務所での服役ではなく、社会復帰に向けた支援が必要とした容疑者については、不起訴(起訴猶予)にしたり、執行猶予付きの判決を想定したりして支援を検討。地検から面談の要請を受けた社会福祉士がアドバイザーとなって、生活状況を聞き取り、釈放後の受け入れ先などについて関係機関と調整している。
この結果、3月末までの1年間に支援した容疑者は117人。約8割の98人を不起訴にし、就労支援センターを介して仕事場を見つけたり、アルコール依存の治療を行う病院で治療を受けさせたりしている。残る約2割の人については公判請求したが、支援は引き続き行っているという。
このうち、自転車を盗んだとして送検されたホームレス男性(70歳代)は、社会福祉士と面談し、一時的な住まいを提供する自立準備ホームに入所できるようになった。社会福祉士が生活保護の受給手続きにも同行した。また、さい銭泥棒で送検された40歳代男性については、捜査段階で知能テストを受けてもらい、社会福祉士が就労先を探し、生活支援が受けられる障害者手帳の交付手続きを手伝うなどした。
一方、こうした福祉支援には強制力はなく、本人が支援を希望しないケースや、支援を受けていた機関からいなくなったり、再犯を繰り返したりすることもあるという。福岡地検と協定を結ぶ福岡県社会福祉士会の百枝孝泰副会長(43)は、「福祉は本人の納得の上に成り立つ。福祉支援と再犯防止の相乗効果を期待したい」と話す。
同地検の八沢健三郎次席検事は「司法と福祉をつないだ後、社会全体で見守ることが重要。自治体や民間と連携して社会復帰支援を進めていきたい」と述べた。
社会復帰の手助け、各地で
高齢者や知的障害者らによる再犯防止を巡っては、福祉的な支援で社会復帰を手助けする取り組みが進んでいる。
刑務所から出所後すぐに福祉サービスにつなげる「出口支援」。その役目を担うのが、地域生活定着支援センターだ。保護観察所や民間の福祉施設などが連携した取り組みで、2009年に初めて長崎県が設置し、社会福祉法人「南高愛隣会」が運営するセンターを手始めに全国に広まった。
これに対して、検察庁が捜査段階で福祉につなぐ取り組みは「入り口支援」と位置づけられる。13年以降、東京や大阪、広島など各地検で専門部署を設置。仙台や静岡などの地検では社会福祉士を非常勤職員として採用。東京や福岡では、心理検査や性格分析などを専門とする少年鑑別所の心理技官とも連携している。
2018年5月11日 読売新聞
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