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2017年10月07日

自覚症状なく進行 危険な糖尿病網膜症

自覚症状なく進行 危険な糖尿病網膜症
視覚障害原因の第2位
 我が国では、全国規模の視覚障害原因疾患調査が過去3回行われています。18歳以上の視覚障害者の主原因を調べたものです。糖尿病の合併症で最悪の場合は失明することもある糖尿病網膜症は、1988年の調査で第1位(18.3%)、2001〜04年(19.0%)、07〜10年(15.6%)はいずれも緑内障に続いて第2位の割合を占めました。
 糖尿病患者のうち15.0〜23.0%が糖尿病網膜症に罹患(りかん)していると報告されています。罹患者の多くは症状を自覚することがない初期段階ですが、急激な視力低下で眼科を受診したところ、糖尿病網膜症であることが分かり、初めて糖尿病と診断される方もいます。自覚症状が出るのはかなり進行した段階です。
初めの3段階は無症状
 糖尿病患者の血液はグルコースの濃度が高く(高血糖)、網膜の毛細血管が高血糖にさらされてダメージを受けることで糖尿病網膜症は発症します。糖尿病網膜症の進行段階の分類はさまざまなものがありますが、日本でよく用いられている分類(改変Davis分類)によると、(1)無網膜症(2)単純網膜症(3)前増殖網膜症(4)増殖網膜症−−の4段階で進行します(図1)。
 無網膜症は、糖尿病にかかってはいるけれども、網膜の状態を調べる眼底検査で何も異変が見つからない状態です。血糖コントロールの状態によりますが、一般的に糖尿病を発症してから10年ほどで、単純網膜症を発症します。この時期には眼底検査で、毛細血管の壁が傷んで起こる点状の網膜内出血や血管の壁のこぶ(毛細血管瘤<りゅう>)が見られます。さらに病気が進むと、毛細血管の血流が低下して機能しなくなり、毛細血管そのものが消失します。蛍光物質を点滴で静脈内に注射する蛍光眼底造影検査を行い、毛細血管が消失した部分(無血管野)が確認されると、前増殖網膜症と診断されます。ここまでは多くの場合、視覚に異常が表れません。
最終段階で起こる急激な視力低下
 無血管野が網膜の広い範囲に広がると、網膜は酸素や栄養素が不足します。それを補うために新たな血管が発生します。新たに発生した血管を新生血管と呼び、眼底検査で新生血管が確認された状態が、最終段階の増殖網膜症です。新生血管は異常で未熟な血管であり、本来血管内にとどまるべき血液の成分が漏れ出てしまいます。そのため、網膜の表面にかさぶたのような膜(増殖膜)ができ、それが原因で網膜がはがれてしまう網膜剥離を引き起こす場合があります。また簡単に破れ、眼内へ出血(硝子体出血)することで急激な視力低下を引き起こします。これらは、直接失明につながります(図2)。
 この4段階の進行とは別に、単純網膜症以降どの段階においても、毛細血管瘤ができて血液中の成分が漏れ出すなどし、網膜中心の黄斑部にむくみをもたらす糖尿病黄斑浮腫(図3)が発生する可能性があります。黄斑浮腫はさまざまな程度の視力低下を引き起こします。
進行予防と治療方法
 無網膜症、単純網膜症の段階での治療は原則、血糖コントロールです。厳格な血糖コントロールにより、網膜症の進行を抑制できることが証明されています。また降圧剤や高脂血症治療薬の一部は、血糖コントロールに加えて網膜症の進行を防ぐことが報告されています。
 前増殖網膜症の段階に至ると、失明を引き起こす可能性がある増殖網膜症へ移行するのを食い止めるために、レーザー治療を行うことがあります。無血管野にある網膜の細胞をレーザーで焼くことでその機能を奪い、新生血管の発生を防ぎます。このため、レーザー治療を行うことで少し視野が狭くなったり、暗がりで物を見る機能(暗所視)が落ちたり、目が慣れるのに時間がかかったりするようになることがあります。
 これらの治療をしても増殖期に進んでしまった場合は、網膜剥離の原因となる増殖膜や硝子体出血の部分を取り除くために、手術が必要となることがあります。また、黄斑浮腫に対しては、血液成分の漏れの原因となる毛細血管瘤への直接レーザー照射や、炎症を抑え血管から血液の成分が漏れ出すのを抑制するためにステロイド薬を眼球の表面へ注射する方法がこれまで行われてきました。
糖尿病網膜症進行の原因分子VEGF
 糖尿病網膜症の治療方法として現在注目されているのが、抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬による治療です。VEGFは1983年に米ハーバード大学のハロルド・ドボラック博士らによって発見されました。当初、血液の漏れを促す物質としてVPF(血管透過性亢進因子)と名付けられました。しかし、後に米国のバイオ企業ジェネンテック社のナポレオン・フェラーラ博士らが遺伝子配列を解読した血管新生を促すVEGFと同じものであることが分かり、以降VEGFと呼ばれています。
 フェラーラ博士らは93年、VEGFを抑制する抗体を開発したことを発表し、現在臨床で用いられている抗VEGF薬の先駆けとなりました。94年には、ハーバード大学のロイド・ポール・アイエロ博士らが増殖網膜症患者の眼内でVEGF濃度が高まっていることを報告し、他の基礎・臨床研究と併せて糖尿病網膜症の進行にVEGFが大きく関わっていることが分かりました。なお彼の父親であるロイド・M・アイエロ博士はレーザーが糖尿病網膜症を治療できることを証明した大規模な臨床試験の責任者であり、親子2代にわたって糖尿病網膜症の治療開発に大きく貢献しています。
抗VEGF薬で変わる糖尿病網膜症の治療
 米国では2012年に、日本では14年に糖尿病黄斑浮腫に対して行う抗VEGF薬の眼の中への注射が保険適用の認可を受け、治療が大きく変わりました。さらに、これまで増殖網膜症に対して標準的に行われてきたレーザー治療についても抗VEGF薬による治療で代替できる可能性が議論されており、糖尿病網膜症の治療法は変わっていく可能性があります。
 ただ、治療方法に進展がみられるとはいっても、最も重要なのは、糖尿病網膜症を発症させないこと、進行させないことです。糖尿病網膜症に罹患しているかどうかは、眼底写真を撮影すれば判断できます。糖尿病とその合併症に関しての健康診断をきちんと受け、糖尿病にかかってしまった場合は血糖コントロールにしっかりと取り組んでいただきたいと思います。
2017年10月5日   毎日新聞
posted by tiryousyoku at 22:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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