2015年07月11日
隣客を暴行死させ、ラーメン完食
【法廷から】
昨年9月、東京都北区のラーメン店で、ささいなトラブルから隣の男性客に暴行を加え死亡させたとして、傷害致死罪に問われた東京都足立区の無職、今西伸一郎被告(38)の裁判員裁判の判決が3月19日に東京地裁であり、懲役7年(求刑懲役10年)が言い渡された。犯行後も警察官が駆けつけるまでラーメンを追加注文してすすっていたという巨漢の男は、法廷では母の姿に何度も泣き崩れた。犯行時の粗暴さとは逆に、公判で明らかになったのは母親への思いなど別の一面だった。
■行きつけのフィリピンパブで深酒し…
黒色のスーツに青色のネクタイ、短めの髪をオールバックにして法廷に姿を見せた今西被告。傍聴席に座る母親など関係者を見つけて笑顔をみせたが、すぐに場違いだと気づいたのか、表情を引き締めた。
昨年9月の逮捕時は身長175センチで体重120キログラムだったというが、顎周りがすっきりするなど、かなり痩せた印象。証言台に立った被告は起訴状に対する認否を問われ、「間違いありません」とはっきりした口調で認めた。
起訴状などによると、今西被告は昨年9月27日、北区のラーメン店で、口論となった男性客=当時(49)=の襟をつかんで引き倒し、顔や腹を数回踏みつけて死亡させたとしている。
冒頭陳述や被告人質問などから、犯行に至るまでの詳細な経緯が明かされた。
昨年9月26日。今西被告は当時勤務していたネジ加工会社の仕事を終え、午後5時半ごろ足立区内の自宅にいったん帰宅。その後、月に1、2回通っていたという中野区にあるフィリピンパブに向かった。
午後7時ごろにパブの近くに着き、居酒屋でビールや焼酎を軽く飲んだ後、午後8時にパブに入店。3時間ほど滞在し、焼酎ボトルを3分の2ほど開けた。今西被告の法廷供述によると、「それ以上飲むとベロンベロンになり、記憶がなくなる一歩手前の状態」になり、翌日の仕事のために店を後にした。
自宅に帰るためJR田端駅に降りた際、駅近くのラーメン店が目についた。「帰ったらすぐ寝るだけだから、食事を済ませよう」と、犯行現場の店に向かった。
■犯行後、無銭飲食にならないよう会計を済ませていた
犯行はあっという間の出来事だった。
今西被告の供述によれば、日付が変わった27日午前0時すぎに店内に入店し、カウンターに座ったという。餃子と酎ハイを注文したところ、2つ右側の席に被害者が座った。被害者が2人の間の空いているいすにバッグを置いて引き寄せようとしたところ、このいすに足を掛けていた今西被告がバランスを崩した。
もう一度被害者がいすを引き寄せたので「何だよ」と言ったところ、「いいんじゃねえかよ」と言い返されたので、「けんかを売られていると思った。血が上った」と被害者の襟首をつかんで引き倒した。顔を2回踏み、その後腹を2回、靴を履いたまま踏みつけた。
被害者が動かなくなった様子を見て、「やり過ぎだな。大変なことになると思った」と振り返った。
カウンターの席に戻り、「従業員が110番、119番通報したと話したので、自分はやらなかった」と述べた。座った席から後ろを振り向くと、被害者が鼻と口から血が出ていて息ができなさそうにしていた。近寄って被害者の頭を持ち上げたところ、「別の客から『動かさない方がいい』といわれた」ので、元の状態に戻したという。
血が手に着いたのでトイレに行き、洗い流し再び席に戻った。「このまま捕まると、たぶんちゃんとした食べ物は取れなくなる」と考え、Dセット(850円)のみそラーメンと半チャーハンセットを追加注文。さらに、「捕まってしまうと無銭飲食になるかなと思った」と、先に会計も済ませていた。警察官が店に到着した際「犯人はどこか」と声を出した際も、カウンター席で食事を続けていたという。
■母の姿に被告は…
今西被告は事件について淡々と語っていたが、弁護人から傍聴席に母親が来ているか尋ねられると号泣。しばらく証言できなくなるほど泣き続けた。
証人尋問で母親も証人出廷。今西被告と2人暮らしで、同じ会社に勤務。昼は一度自宅に戻り一緒に食事するなど、基本は3食とも2人でとっていたという。家で酒を飲むことはなく、外に飲みに行くのも週1回程度だった。
給与は手取りで15万円ほどだったが、5万円を母親に渡していたという。「やさしくて、親思いで私にとってはすばらしい息子です」。母親の証言を聞く今西被告は、終始泣き続けていた。事件の知らせを受けたとき「驚きでどうしていいか分からなくなった」といい、事件後には42年間勤めた会社を辞め、体調を崩した。
母親は、「事件後に息子から何回も手紙が来て、『家族を巻き込んで申し訳ない。自分のことはいないものと考え縁を切ってほしい』という内容だった」と、涙ながらに語った。
被害者は身内がおらず、遺骨の引き取り手がいなかったという。「ショックで何かできないか」と、今西被告の母親は遺骨の引き取り先を探したが最終的に見つからず、一時保管されていた寺で供養をしたという。
証人尋問を終えて傍聴席に戻った母親は、その後もハンカチで目を押さえ続けていた。
■検察官が被告の認識の甘さを諭す“説教”も
「昔から体がでかく、手を出してはいけないと教えられてきた」と今西被告。事件について「被害者の人生を終わらせてしまったことに申し訳ございません」と謝罪。一方で、「なんで手を出したか、悪いことだという認識はあるが、いまだに分からない」とも振り返った。
犯行直前に、被害者がかけていたメガネを被告が外したという。「自分もメガネが割れてけがをしたことがあったから。(被害者の)失明などを考え、自分の手も切れると思ったから」と冷静な部分も証言した。
公判では、裁判長が検察官の質問の意図について「不明だ」と注意するなど、検察側の被告への追及不足の面も感じられた。ただ、被告の認識の甘さについて、検察官が強く諭す場面が印象的だった。
検察官「事件の原因として一番は酒だと思っているか」
被告「酒が入っていることも要因にある。後はストレスとか体の疲れとか」
検察官「他には」
被告「短気な性格だったのかなと今思う」
検察官「あなた、3番目に短気な性格を挙げたが、酒を飲んでいる人やストレスを抱えている人は、世の中にいくらでもいる。それでキレて暴力を働くのか。(短気な性格が)大事な原因だったのではないのか、その辺強く考えてくださいね」
検察官の迫力に、被告は素直に「はい」と答えた。
■ラーメン追加注文は量刑に考慮されず
判決では「体重120キログラムの被告が一方的に顔面や腹部を数回踏みつけ、重大な結果を引き起こす危険なのものであった」と指摘。その上で「危険な暴行を被害者のささいな言動に立腹して行ったもので、動機に非難の度合いを軽くする事情は見当たらない」とした。
一方で、犯行後に被害者が倒れた脇で料理を追加注文したことについて、「被告の行動について眉をひそめる向きもあるだろうが、被告を更生させて社会復帰を図るという刑罰の目的に照らし有意なものとはいえない」として、量刑に考慮すべきだとする検察側の主張を退けた。
さらに、「家族の支えはこれまで普通に社会生活を送ってきた被告の更生を期待させる事情として、一定程度考慮した」とした。
母親の証人尋問でのやりとりがどこまで判決に考慮されたかは分からないが、次の悲痛な思いは被告にどう響いただろうか。
「罪を償って帰ってくるのを待ちたい。あの子にとってウチしかいない。2人で一から出直してやっていきたいです」
昨年9月、東京都北区のラーメン店で、ささいなトラブルから隣の男性客に暴行を加え死亡させたとして、傷害致死罪に問われた東京都足立区の無職、今西伸一郎被告(38)の裁判員裁判の判決が3月19日に東京地裁であり、懲役7年(求刑懲役10年)が言い渡された。犯行後も警察官が駆けつけるまでラーメンを追加注文してすすっていたという巨漢の男は、法廷では母の姿に何度も泣き崩れた。犯行時の粗暴さとは逆に、公判で明らかになったのは母親への思いなど別の一面だった。
■行きつけのフィリピンパブで深酒し…
黒色のスーツに青色のネクタイ、短めの髪をオールバックにして法廷に姿を見せた今西被告。傍聴席に座る母親など関係者を見つけて笑顔をみせたが、すぐに場違いだと気づいたのか、表情を引き締めた。
昨年9月の逮捕時は身長175センチで体重120キログラムだったというが、顎周りがすっきりするなど、かなり痩せた印象。証言台に立った被告は起訴状に対する認否を問われ、「間違いありません」とはっきりした口調で認めた。
起訴状などによると、今西被告は昨年9月27日、北区のラーメン店で、口論となった男性客=当時(49)=の襟をつかんで引き倒し、顔や腹を数回踏みつけて死亡させたとしている。
冒頭陳述や被告人質問などから、犯行に至るまでの詳細な経緯が明かされた。
昨年9月26日。今西被告は当時勤務していたネジ加工会社の仕事を終え、午後5時半ごろ足立区内の自宅にいったん帰宅。その後、月に1、2回通っていたという中野区にあるフィリピンパブに向かった。
午後7時ごろにパブの近くに着き、居酒屋でビールや焼酎を軽く飲んだ後、午後8時にパブに入店。3時間ほど滞在し、焼酎ボトルを3分の2ほど開けた。今西被告の法廷供述によると、「それ以上飲むとベロンベロンになり、記憶がなくなる一歩手前の状態」になり、翌日の仕事のために店を後にした。
自宅に帰るためJR田端駅に降りた際、駅近くのラーメン店が目についた。「帰ったらすぐ寝るだけだから、食事を済ませよう」と、犯行現場の店に向かった。
■犯行後、無銭飲食にならないよう会計を済ませていた
犯行はあっという間の出来事だった。
今西被告の供述によれば、日付が変わった27日午前0時すぎに店内に入店し、カウンターに座ったという。餃子と酎ハイを注文したところ、2つ右側の席に被害者が座った。被害者が2人の間の空いているいすにバッグを置いて引き寄せようとしたところ、このいすに足を掛けていた今西被告がバランスを崩した。
もう一度被害者がいすを引き寄せたので「何だよ」と言ったところ、「いいんじゃねえかよ」と言い返されたので、「けんかを売られていると思った。血が上った」と被害者の襟首をつかんで引き倒した。顔を2回踏み、その後腹を2回、靴を履いたまま踏みつけた。
被害者が動かなくなった様子を見て、「やり過ぎだな。大変なことになると思った」と振り返った。
カウンターの席に戻り、「従業員が110番、119番通報したと話したので、自分はやらなかった」と述べた。座った席から後ろを振り向くと、被害者が鼻と口から血が出ていて息ができなさそうにしていた。近寄って被害者の頭を持ち上げたところ、「別の客から『動かさない方がいい』といわれた」ので、元の状態に戻したという。
血が手に着いたのでトイレに行き、洗い流し再び席に戻った。「このまま捕まると、たぶんちゃんとした食べ物は取れなくなる」と考え、Dセット(850円)のみそラーメンと半チャーハンセットを追加注文。さらに、「捕まってしまうと無銭飲食になるかなと思った」と、先に会計も済ませていた。警察官が店に到着した際「犯人はどこか」と声を出した際も、カウンター席で食事を続けていたという。
■母の姿に被告は…
今西被告は事件について淡々と語っていたが、弁護人から傍聴席に母親が来ているか尋ねられると号泣。しばらく証言できなくなるほど泣き続けた。
証人尋問で母親も証人出廷。今西被告と2人暮らしで、同じ会社に勤務。昼は一度自宅に戻り一緒に食事するなど、基本は3食とも2人でとっていたという。家で酒を飲むことはなく、外に飲みに行くのも週1回程度だった。
給与は手取りで15万円ほどだったが、5万円を母親に渡していたという。「やさしくて、親思いで私にとってはすばらしい息子です」。母親の証言を聞く今西被告は、終始泣き続けていた。事件の知らせを受けたとき「驚きでどうしていいか分からなくなった」といい、事件後には42年間勤めた会社を辞め、体調を崩した。
母親は、「事件後に息子から何回も手紙が来て、『家族を巻き込んで申し訳ない。自分のことはいないものと考え縁を切ってほしい』という内容だった」と、涙ながらに語った。
被害者は身内がおらず、遺骨の引き取り手がいなかったという。「ショックで何かできないか」と、今西被告の母親は遺骨の引き取り先を探したが最終的に見つからず、一時保管されていた寺で供養をしたという。
証人尋問を終えて傍聴席に戻った母親は、その後もハンカチで目を押さえ続けていた。
■検察官が被告の認識の甘さを諭す“説教”も
「昔から体がでかく、手を出してはいけないと教えられてきた」と今西被告。事件について「被害者の人生を終わらせてしまったことに申し訳ございません」と謝罪。一方で、「なんで手を出したか、悪いことだという認識はあるが、いまだに分からない」とも振り返った。
犯行直前に、被害者がかけていたメガネを被告が外したという。「自分もメガネが割れてけがをしたことがあったから。(被害者の)失明などを考え、自分の手も切れると思ったから」と冷静な部分も証言した。
公判では、裁判長が検察官の質問の意図について「不明だ」と注意するなど、検察側の被告への追及不足の面も感じられた。ただ、被告の認識の甘さについて、検察官が強く諭す場面が印象的だった。
検察官「事件の原因として一番は酒だと思っているか」
被告「酒が入っていることも要因にある。後はストレスとか体の疲れとか」
検察官「他には」
被告「短気な性格だったのかなと今思う」
検察官「あなた、3番目に短気な性格を挙げたが、酒を飲んでいる人やストレスを抱えている人は、世の中にいくらでもいる。それでキレて暴力を働くのか。(短気な性格が)大事な原因だったのではないのか、その辺強く考えてくださいね」
検察官の迫力に、被告は素直に「はい」と答えた。
■ラーメン追加注文は量刑に考慮されず
判決では「体重120キログラムの被告が一方的に顔面や腹部を数回踏みつけ、重大な結果を引き起こす危険なのものであった」と指摘。その上で「危険な暴行を被害者のささいな言動に立腹して行ったもので、動機に非難の度合いを軽くする事情は見当たらない」とした。
一方で、犯行後に被害者が倒れた脇で料理を追加注文したことについて、「被告の行動について眉をひそめる向きもあるだろうが、被告を更生させて社会復帰を図るという刑罰の目的に照らし有意なものとはいえない」として、量刑に考慮すべきだとする検察側の主張を退けた。
さらに、「家族の支えはこれまで普通に社会生活を送ってきた被告の更生を期待させる事情として、一定程度考慮した」とした。
母親の証人尋問でのやりとりがどこまで判決に考慮されたかは分からないが、次の悲痛な思いは被告にどう響いただろうか。
「罪を償って帰ってくるのを待ちたい。あの子にとってウチしかいない。2人で一から出直してやっていきたいです」
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