2019年05月06日
ドラッグに翻弄される脳D
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
ドラッグに翻弄される脳D
辞めたいと思ってもやめられない依存症を引き起こし、再発しやすいのは
なぜだろう
実は薬物は脳の報酬系という神経回路を変えてしまう
しかもその変化は乱用を止めた後でも長期にわたって続くことがわかってきた
E. J. ネスラー(テキサス大学)/R. C. マレンカ(スタンフォード大学)
常習行動が生まれる
常習の初期段階では、耐性と依存が生じる。
耐性とは、繰り返し摂取するうちに薬物の効きが悪くなることをいう。
遊び半分で薬物を摂取しているうちに、いつもと同じ気分や集中力を得るために、薬物を多めに必要とするようになる。
この耐性が薬物使用をエスカレートさせ、それが依存を生み出していく。
依存は苦痛を伴う感情的反応で、薬物摂取を止められると身体的反応を引き起こすともある。
耐性も依存も、何度も薬物を使用した結果、脳の報酬回路の各部分が、皮肉にも抑制されることによって起こる。
この残酷な抑制の中心となっているのはCREB(サイクリックAMP応答配列結合タンパク質)という物質だ。
CREBは遺伝子のオン・オフを制御しているタンパク質で、遺伝子のオン・オフを通じてニューロンの働きを総合的にコントロールしている。
常習性のある薬物を摂取していると側坐核のドーパミン濃度が上昇し、サイクリックAMP(cAMP)という小さな分子が合成され始める。
これがCREBを活性化する。
活性化したCREBは一群の遺伝子に結合し、それらの遺伝子からタンパク質が作られ始める。
繰り返し薬物を使用するとCREBの活性が持続し、標的遺伝子からはどんどんタンパク質が作られる。
そのうちのいくつかが報酬回路を鈍らせる。
その1つが、アヘンに似た作用をする生体分子のダイノルフィンだ。ダイノルフィンは側坐核のニューロンの一部で合成され、VTA(腹側被蓋野)のニューロンの働きを抑える。
CREBによってダイノルフィンが作られると、脳の報酬回路が抑圧され、同じ量の薬物で得られる快感が少なくなる。
こうして耐性が出来上がる。
ダイノルフィンの増加は、依存も生む。
報酬回路が阻害されてしまうので、薬物が欠乏すると以前は楽しいと思っていた行為を楽しめなくなり、うつ状態に陥ってしまうからだ。
しかし、CREBだけでは全てを説明することはできない。
この転写因子は、薬物使用を止めると数日でスイッチがオフになるからだ。
何年も何十年も中断の後でさえ、薬物常習位戻ってしまうのは説明できない。
そうした再発が起きるのは、薬物に対しる感受性の高まりによるところが多い。
薬物の効果が強く感じられるようになるのだ。
意外に思えるかもしれないが、同じ薬物が耐性と感受性の高まりの両方を引き出す。
薬物を摂取するとすぐにCREB濃度が高くなり、耐性が出現する。
数日の間、薬物使用者は報酬回路を刺激しようと摂取量を増やすことになるだろう。
しかし、薬を断てばCREB活性は低下する。
この時点で耐性は終わりに近づき、感受性が高くなってくる。
感受性が高まると、薬を求める強い渇望感が生じる。
常習者は薬物が切れ始めると強い渇望感を感じて脅迫的な薬物探索行動を繰り返す。
薬物をほんのひと舐めしたり、摂取した記憶を呼び起こしただけでも、依存症に戻るきっかけとなる。
この容赦のない渇望感は、薬物を長期間にわたって断った後でもなかなか消えない。
何がどうやって感受性を高めているのかを知るには、数日間は元に戻らない分子的な変化を探す必要がある。
そうした候補の1つが転写因子のデルタFosB(ΔFosB)だ。
画像診断で見えてくること
コカイン依存患者の脳を画像診断装置で見ると、動物実験での結果と同じことが起きているとわかる。
薬物を摂取すると脳のいろいろな領域での活性が即座に変化する。
スキャンの間、被験者には薬物摂取後の爽快感と渇望感を0〜3点で点数化してもらった。
VTAと副レンズ伸長扁桃核がコカインによる急激な爽快感に重要であり、その後に訪れる渇望感には扁桃と側坐核が影響を与えていることが明らかになった。
依存性のない薬物を与えられた動物の側坐核にあるニューロンを顕微鏡で見ると、樹状突起にある棘(スパイン)という突出物の数は正常だ。
棘はシグナルを受け取る機能がある。
コカイン依存症の動物では余分な棘が生まれ、たくさんあるように見える。
おそらく、このように過剰に棘があることが、VTAなどからのシグナルにより敏感になり、薬物に対する感受性が変わる原因となっているのだろう。
最近の研究によるとデルタFosBが棘の成長に一段買っているらしい。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
ドラッグに翻弄される脳D
辞めたいと思ってもやめられない依存症を引き起こし、再発しやすいのは
なぜだろう
実は薬物は脳の報酬系という神経回路を変えてしまう
しかもその変化は乱用を止めた後でも長期にわたって続くことがわかってきた
E. J. ネスラー(テキサス大学)/R. C. マレンカ(スタンフォード大学)
常習行動が生まれる
常習の初期段階では、耐性と依存が生じる。
耐性とは、繰り返し摂取するうちに薬物の効きが悪くなることをいう。
遊び半分で薬物を摂取しているうちに、いつもと同じ気分や集中力を得るために、薬物を多めに必要とするようになる。
この耐性が薬物使用をエスカレートさせ、それが依存を生み出していく。
依存は苦痛を伴う感情的反応で、薬物摂取を止められると身体的反応を引き起こすともある。
耐性も依存も、何度も薬物を使用した結果、脳の報酬回路の各部分が、皮肉にも抑制されることによって起こる。
この残酷な抑制の中心となっているのはCREB(サイクリックAMP応答配列結合タンパク質)という物質だ。
CREBは遺伝子のオン・オフを制御しているタンパク質で、遺伝子のオン・オフを通じてニューロンの働きを総合的にコントロールしている。
常習性のある薬物を摂取していると側坐核のドーパミン濃度が上昇し、サイクリックAMP(cAMP)という小さな分子が合成され始める。
これがCREBを活性化する。
活性化したCREBは一群の遺伝子に結合し、それらの遺伝子からタンパク質が作られ始める。
繰り返し薬物を使用するとCREBの活性が持続し、標的遺伝子からはどんどんタンパク質が作られる。
そのうちのいくつかが報酬回路を鈍らせる。
その1つが、アヘンに似た作用をする生体分子のダイノルフィンだ。ダイノルフィンは側坐核のニューロンの一部で合成され、VTA(腹側被蓋野)のニューロンの働きを抑える。
CREBによってダイノルフィンが作られると、脳の報酬回路が抑圧され、同じ量の薬物で得られる快感が少なくなる。
こうして耐性が出来上がる。
ダイノルフィンの増加は、依存も生む。
報酬回路が阻害されてしまうので、薬物が欠乏すると以前は楽しいと思っていた行為を楽しめなくなり、うつ状態に陥ってしまうからだ。
しかし、CREBだけでは全てを説明することはできない。
この転写因子は、薬物使用を止めると数日でスイッチがオフになるからだ。
何年も何十年も中断の後でさえ、薬物常習位戻ってしまうのは説明できない。
そうした再発が起きるのは、薬物に対しる感受性の高まりによるところが多い。
薬物の効果が強く感じられるようになるのだ。
意外に思えるかもしれないが、同じ薬物が耐性と感受性の高まりの両方を引き出す。
薬物を摂取するとすぐにCREB濃度が高くなり、耐性が出現する。
数日の間、薬物使用者は報酬回路を刺激しようと摂取量を増やすことになるだろう。
しかし、薬を断てばCREB活性は低下する。
この時点で耐性は終わりに近づき、感受性が高くなってくる。
感受性が高まると、薬を求める強い渇望感が生じる。
常習者は薬物が切れ始めると強い渇望感を感じて脅迫的な薬物探索行動を繰り返す。
薬物をほんのひと舐めしたり、摂取した記憶を呼び起こしただけでも、依存症に戻るきっかけとなる。
この容赦のない渇望感は、薬物を長期間にわたって断った後でもなかなか消えない。
何がどうやって感受性を高めているのかを知るには、数日間は元に戻らない分子的な変化を探す必要がある。
そうした候補の1つが転写因子のデルタFosB(ΔFosB)だ。
画像診断で見えてくること
コカイン依存患者の脳を画像診断装置で見ると、動物実験での結果と同じことが起きているとわかる。
薬物を摂取すると脳のいろいろな領域での活性が即座に変化する。
スキャンの間、被験者には薬物摂取後の爽快感と渇望感を0〜3点で点数化してもらった。
VTAと副レンズ伸長扁桃核がコカインによる急激な爽快感に重要であり、その後に訪れる渇望感には扁桃と側坐核が影響を与えていることが明らかになった。
依存性のない薬物を与えられた動物の側坐核にあるニューロンを顕微鏡で見ると、樹状突起にある棘(スパイン)という突出物の数は正常だ。
棘はシグナルを受け取る機能がある。
コカイン依存症の動物では余分な棘が生まれ、たくさんあるように見える。
おそらく、このように過剰に棘があることが、VTAなどからのシグナルにより敏感になり、薬物に対する感受性が変わる原因となっているのだろう。
最近の研究によるとデルタFosBが棘の成長に一段買っているらしい。
参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
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