2019年05月20日
4.基底核疾患のメカニズムA
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
4.基底核疾患のメカニズムA
4―1;パーキンソン病
(3)筋固縮(Muscular rigidity)
パーキンソン病の筋固縮は,
他動的に関節を屈曲伸展させると鉛様の抵抗があるため鉛様固縮(Lead pipe rigidity)であるとか,
歯車を回す際のガタガタという抵抗を生じることから歯車様固縮(Cogwheel rigidity)などと表現される.
α運動細胞の活動亢進[41]や
静的γ運動細胞の興奮性増加に伴う緊張性伸張反射の亢進[42]により
筋固縮が誘発される.
α運動細胞やγ運動細胞の興奮性の異常は,
先に記述した筋緊張抑制系と促通系のアンバランスにより誘発される.
筋緊張の抑制には抑制性Ib介在細胞が関与する[19].
パーキンソン病では抑制性Ib介在細胞の活動が低下しており,
これにより運動細胞の興奮性は増加して,筋緊張が亢進している可能性がある[43].
(4)姿勢反射障害(Postural disturbances)
パーキンソン病では体幹筋の運動も障害されて,
特徴的な姿勢異常と姿勢反射障害が出現する.
また立ち直り反射が強く障害される.
前方から前胸部を押すと後方に転倒し易くなり,後方突進現象が出現することもある.
病状が進行すると,その場で丸太のように転倒することもある.
体幹筋の機能障害により寝返りも困難となる.
これは姿勢反射障害と相まって,
この疾患の長期経過で日常生活上の困難をきたす最大の要因となる.
姿勢反射の基本的な神経機構は脳幹に存在するので,
運動系ループと基底核―脳幹系の異常が姿勢反射障害に関与すると思われる.
進行したパーキンソン病では脳幹網様体のニューロンも変性する[44]ため,
これが姿勢反射障害に直接関与している可能性もある.
(5)高次脳機能や精神機能の障害
パーキンソン病では,認知機能,手続き記憶,学習などの高次脳機能障害[45]や,
思考の遅延や抑うつ傾向,幻覚などの精神症状も出現する[46].
病状が進行すると知能障害も出現する[47].
高次脳機能障害や精神障害には,
大脳皮質─基底核ループの障害に加えて,ドーパミン欠乏そのものが関与する.
病状の進行に伴って腹側被蓋野のドーパミン細胞も変性・脱落するため,
前頭前野や辺縁系の機能も低下する.
進行したパーキンソン病では,
脳幹内のコリン作動系(脚橋被蓋核),
ノルアドレナリン作動系(青斑核),
セロトニン作動系(縫線核)のニューロンも脱落する[44].
その結果,不眠やレム睡眠の減少,
レム睡眠時異常行動症候群(REM behavioral disorders;RBD)などの
睡眠障害が誘発されると考えられている[48].
神経伝達物質の低下は覚醒レベルの低下や抑うつ状態,周囲に対する関心や注意機能も低下させる.
外界からの情報取得や大脳皮質連合野における情報処理過程の障害も,
この疾患における高次脳機能障害や精神機能障害の背景に存在し,
皮質下痴呆あるいは偽痴呆と呼ばれる状態を誘発すると推測される.
【引用文献】
大脳基底核の機能;パーキンソン病との関連において
旭川医科大学 生理学第二講座
高草木 薫
参考文献
19.Takakusaki K, Kohyama J, Matsuyama K & Mori S : Medullary reticulospinal tract mediation of generalized motor inhibition in cats : Parallel inhibitory mechanisms acting on motoneurons and on interneuronal transmission in reflex pathways. Neurosci 103, 511― 527, 2001.
41.Marsden CD : The mysterious motor function of the basal ganglia : The Robert Wartenberg Lecture. Neurology 32 : 514― 539, 1982.
42.Shimazu H, Hongo T & Kubota K : Two types of central influences on gamma motor system. J Neuro
physiol 25, 309― 323, 1962.
43.Delwaide PJ, Pepin JL & Maertens de Noordhout A : Short latency autogenic inhibition in patient with
parkinsonian rigidity. Ann Neurol 30 : 83― 89, 1991.
44.水谷俊雄:病理形態.In:Parkinson病-update.Clinical Neurosci 12 : 1002― 1005, 1994.
45.Graybiel AM : Building action repertoires : memory and learning functions of the basal ganglia. Curr Opin
Neurobiol 5 : 733― 741, 1995.
46.Mellers JD, Quinn NP & Ron MA : Psychotic and depressive symptoms in Parkinson’s disease. A study of
the growth hormone response to apomorphine. Br J Psychiatry 167 : 522― 526, 1995.
47.Giladi N, Treves TA, Paleacu D, Shabtai H, Orlov Y, Kandinov B, Simon ES & Korczyn AD : Risk factor
for dementia, depression and psychosis in longstanding Parkinson’s disease. J Neural Transm 107 : 59― 71,
2000.
48.Arnulf I, Bonnet AM, Damier P, Bejjani BP, Seilhean D, Derenne JP & Agid Y : Hallucinations, REM sleep,
and Parkinson’s disease : a medical hypothesis. Neurology 55 : 281― 288, 2000.
4.基底核疾患のメカニズムA
4―1;パーキンソン病
(3)筋固縮(Muscular rigidity)
パーキンソン病の筋固縮は,
他動的に関節を屈曲伸展させると鉛様の抵抗があるため鉛様固縮(Lead pipe rigidity)であるとか,
歯車を回す際のガタガタという抵抗を生じることから歯車様固縮(Cogwheel rigidity)などと表現される.
α運動細胞の活動亢進[41]や
静的γ運動細胞の興奮性増加に伴う緊張性伸張反射の亢進[42]により
筋固縮が誘発される.
α運動細胞やγ運動細胞の興奮性の異常は,
先に記述した筋緊張抑制系と促通系のアンバランスにより誘発される.
筋緊張の抑制には抑制性Ib介在細胞が関与する[19].
パーキンソン病では抑制性Ib介在細胞の活動が低下しており,
これにより運動細胞の興奮性は増加して,筋緊張が亢進している可能性がある[43].
(4)姿勢反射障害(Postural disturbances)
パーキンソン病では体幹筋の運動も障害されて,
特徴的な姿勢異常と姿勢反射障害が出現する.
また立ち直り反射が強く障害される.
前方から前胸部を押すと後方に転倒し易くなり,後方突進現象が出現することもある.
病状が進行すると,その場で丸太のように転倒することもある.
体幹筋の機能障害により寝返りも困難となる.
これは姿勢反射障害と相まって,
この疾患の長期経過で日常生活上の困難をきたす最大の要因となる.
姿勢反射の基本的な神経機構は脳幹に存在するので,
運動系ループと基底核―脳幹系の異常が姿勢反射障害に関与すると思われる.
進行したパーキンソン病では脳幹網様体のニューロンも変性する[44]ため,
これが姿勢反射障害に直接関与している可能性もある.
(5)高次脳機能や精神機能の障害
パーキンソン病では,認知機能,手続き記憶,学習などの高次脳機能障害[45]や,
思考の遅延や抑うつ傾向,幻覚などの精神症状も出現する[46].
病状が進行すると知能障害も出現する[47].
高次脳機能障害や精神障害には,
大脳皮質─基底核ループの障害に加えて,ドーパミン欠乏そのものが関与する.
病状の進行に伴って腹側被蓋野のドーパミン細胞も変性・脱落するため,
前頭前野や辺縁系の機能も低下する.
進行したパーキンソン病では,
脳幹内のコリン作動系(脚橋被蓋核),
ノルアドレナリン作動系(青斑核),
セロトニン作動系(縫線核)のニューロンも脱落する[44].
その結果,不眠やレム睡眠の減少,
レム睡眠時異常行動症候群(REM behavioral disorders;RBD)などの
睡眠障害が誘発されると考えられている[48].
神経伝達物質の低下は覚醒レベルの低下や抑うつ状態,周囲に対する関心や注意機能も低下させる.
外界からの情報取得や大脳皮質連合野における情報処理過程の障害も,
この疾患における高次脳機能障害や精神機能障害の背景に存在し,
皮質下痴呆あるいは偽痴呆と呼ばれる状態を誘発すると推測される.
【引用文献】
大脳基底核の機能;パーキンソン病との関連において
旭川医科大学 生理学第二講座
高草木 薫
参考文献
19.Takakusaki K, Kohyama J, Matsuyama K & Mori S : Medullary reticulospinal tract mediation of generalized motor inhibition in cats : Parallel inhibitory mechanisms acting on motoneurons and on interneuronal transmission in reflex pathways. Neurosci 103, 511― 527, 2001.
41.Marsden CD : The mysterious motor function of the basal ganglia : The Robert Wartenberg Lecture. Neurology 32 : 514― 539, 1982.
42.Shimazu H, Hongo T & Kubota K : Two types of central influences on gamma motor system. J Neuro
physiol 25, 309― 323, 1962.
43.Delwaide PJ, Pepin JL & Maertens de Noordhout A : Short latency autogenic inhibition in patient with
parkinsonian rigidity. Ann Neurol 30 : 83― 89, 1991.
44.水谷俊雄:病理形態.In:Parkinson病-update.Clinical Neurosci 12 : 1002― 1005, 1994.
45.Graybiel AM : Building action repertoires : memory and learning functions of the basal ganglia. Curr Opin
Neurobiol 5 : 733― 741, 1995.
46.Mellers JD, Quinn NP & Ron MA : Psychotic and depressive symptoms in Parkinson’s disease. A study of
the growth hormone response to apomorphine. Br J Psychiatry 167 : 522― 526, 1995.
47.Giladi N, Treves TA, Paleacu D, Shabtai H, Orlov Y, Kandinov B, Simon ES & Korczyn AD : Risk factor
for dementia, depression and psychosis in longstanding Parkinson’s disease. J Neural Transm 107 : 59― 71,
2000.
48.Arnulf I, Bonnet AM, Damier P, Bejjani BP, Seilhean D, Derenne JP & Agid Y : Hallucinations, REM sleep,
and Parkinson’s disease : a medical hypothesis. Neurology 55 : 281― 288, 2000.
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