2019年05月18日
THE SECOND STORY 俊也と真梨 <4 叔父の怒り>
叔父の怒り
真梨の家のリビングに入ると叔父は見たこともないような顔をして待っていた。真梨は普段通りの甘えた声で「遅くなっちゃった。ごめんなさい。」と頭を下げたが叔父の表情は和らがなかった。
真梨ではなく僕を見据えていた。叔父の血相が変わっていた。僕は、また疑われて殴られる覚悟を決めていた。悔しい宿命だった。
叔父が僕の襟首をつかんだところで真梨が大きな声を出した。「トカゲさんが出てきて、真梨が勝手に転んだ。お兄ちゃんが助けてくれた。」真梨は幼いころと同じように僕をかばった。
叔父は一瞬面食らったような顔になって僕の襟を放した。叔母に「俊君、ややこしい、こういう時は真っ先に弁解しなさい!誤解されるような態度とったらあかん。話が無駄に長引くのよ。」と怒られた。
叔父は「そのトカゲどこにいる?」と聞いた。顔は青ざめて目が座っていた、声は普段の柔らかさを無くして本当にやくざ者のように思えた。
「いや、おじさん、大人数やし行っても危ないだけやから。」と止めたが止まらない。継父から叔父は休火山だと聞いていた。もう噴火していて止めようがなかった。大人数と聞いて余計に頭に血が上ってしまったようだった。
「赤坂だけど」僕はまた襟首をつかまれて、「連れていけ!」といわれたが必死で抵抗した。叔母が近づいてきたので、これで止まると思った。
しかし、あろうことか叔母は出刃包丁をタオルで包んでいた。「ぶった切ってやればいいのよ。」と叔父に渡したのだった。
叔父は、タオルにくるんだ出刃包丁を受け取って玄関まで行ったが、そこで止まった。2、3度首をかしげてからUターンして戻ってきた。
叔父が「梨花、これじゃこっちが逮捕されちゃう。」というと、叔母は「なんで、切ってやればいいのよ。そんなもんついてるから、悪いトカゲになるのよ。」と怒鳴った。叔父が「梨花、ちょっと違う。」といった。この時はもう、普段の叔父になって叔母の肩を抱いて優しくけん制した。
上品な叔母が怒りのあまり特大の天然ぼけをさく裂させたのだった。まあ、それで、叔父の噴火は落ち着いたのだが。叔母は知ってか知らずか「正しい噴火の鎮め方」を実践した。
「真梨、俊也に礼を言いなさい。かわいそうに、いいとばっちりだ。」僕は自分の正当性が認められて安心した。僕は弁解を聞いてもらえないことが多かった。黙ってむくれながら怒られるのが癖になっていた。これからは、真っ先に弁解しようと思った。
叔父は真梨に「パパにしっかりトカゲの説明をしてほしい。」といった。真梨は音楽サークルの友達に誘われて、よその大学の学生との交流会に参加した。酒を飲まないので、一次会で帰るつもりをしていた。
最後に友人に強く勧められたのでできるだけ弱いカクテルを飲んだ。それから足が立たなくなって無理にタクシーに乗せられたそうだ。記憶が飛んではっきり覚えていないらしい。
僕が見つけたときには泥酔状態だった。今酔いがさめているところを見ると、強い酒にごく軽い鎮静剤のようなものを混ぜられていたようだ。頃合いの量、足が立たなくなって動けなくなる、完全に失神しない程度の量だ。
叔父は「そうか、それじゃトカゲ退治をしなくちゃいけないね。」と言った。「とにかく着替えて来なさい。」と言われた真梨は二階へ引き上げた。叔母も真梨について二階に上がった。
叔父と二人きりになった時、叔父は僕に確かめた。「何もされていなかったか?」と聞かれた。僕は「服装は全然乱れてなかったから、その点は大丈夫です。」と答えた。叔父は少し落ち着いた様子で「落とし前はつけてやる。なめんなよ。」とつぶやいた。
叔母が二階から降りてきて、叔父に「大丈夫、お酒を飲まされただけで済んだみたい。俊君がいなかったら今頃どうなってたかわからへん。ホントにありがとう。よく、見つけてくれたねえ。どうも、女の子に騙されたみたいやね。また、泣き出してしもて。しばらく泣かしとかなしょうがないわ。」といった。
僕から見れば一番質が悪いのは真梨をだました女友達だ。この女を、このままにしておいてはいけないと思った。「そっちも落とし前を付けなければいけない。自分が何をしたかわからせてやればいい。」と思った。
叔父の怒りの怖さを思い知ったと同時に自分が叔父に似ていることに気が付いた。叔父は叔母や真梨を危険な目に合わせたものを許さない。僕も僕の大切な人を傷つけたものを許さないだろう。
僕は、僕を二次会に招待した男の名前と住所を叔父に報告した。真梨は自分をだました女友達の名前を父親に報告した。叔父は、その後、何カ月も何の連絡もしてこなかった。何か自分に対して依頼事の一つぐらいはあるかもしれないと思っていた。
何事もなかったのように数カ月が過ぎたころに医者の不良グループが逮捕された。その中の一人は麻酔医だった。同時に逮捕された女子大生の中には真梨をだました女も含まれていた。女は、2カ月前に20歳になったばかりだ。叔父は女が20歳に成るのを待っていたのだ。
逮捕の事実は新聞に比較的大きな見出しで報道された。逮捕者の名前、年齢、職業も記載された。その中で悪質と特筆されたのが麻酔医の存在だった。
翌週の週刊誌には「文科省の幹部の子息(麻酔医)が乱交パーティーを主催」と派手に書き立てられた。婦女暴行の事実も暴かれた。ここでも真梨をだました女の名前が記載された。
真梨はこの記事を見て「パパ!この人たち逮捕されてる。」と大騒ぎをした。叔父は「こんなことが、いつもでも続くわけないんだよ。悪いトカゲが退治されてよかったね。」といつものいいパパの話し方をした。叔母が新聞を引き裂いてこの話は終わった。
続く
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真梨の家のリビングに入ると叔父は見たこともないような顔をして待っていた。真梨は普段通りの甘えた声で「遅くなっちゃった。ごめんなさい。」と頭を下げたが叔父の表情は和らがなかった。
真梨ではなく僕を見据えていた。叔父の血相が変わっていた。僕は、また疑われて殴られる覚悟を決めていた。悔しい宿命だった。
叔父が僕の襟首をつかんだところで真梨が大きな声を出した。「トカゲさんが出てきて、真梨が勝手に転んだ。お兄ちゃんが助けてくれた。」真梨は幼いころと同じように僕をかばった。
叔父は一瞬面食らったような顔になって僕の襟を放した。叔母に「俊君、ややこしい、こういう時は真っ先に弁解しなさい!誤解されるような態度とったらあかん。話が無駄に長引くのよ。」と怒られた。
叔父は「そのトカゲどこにいる?」と聞いた。顔は青ざめて目が座っていた、声は普段の柔らかさを無くして本当にやくざ者のように思えた。
「いや、おじさん、大人数やし行っても危ないだけやから。」と止めたが止まらない。継父から叔父は休火山だと聞いていた。もう噴火していて止めようがなかった。大人数と聞いて余計に頭に血が上ってしまったようだった。
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僕が見つけたときには泥酔状態だった。今酔いがさめているところを見ると、強い酒にごく軽い鎮静剤のようなものを混ぜられていたようだ。頃合いの量、足が立たなくなって動けなくなる、完全に失神しない程度の量だ。
叔父は「そうか、それじゃトカゲ退治をしなくちゃいけないね。」と言った。「とにかく着替えて来なさい。」と言われた真梨は二階へ引き上げた。叔母も真梨について二階に上がった。
叔父と二人きりになった時、叔父は僕に確かめた。「何もされていなかったか?」と聞かれた。僕は「服装は全然乱れてなかったから、その点は大丈夫です。」と答えた。叔父は少し落ち着いた様子で「落とし前はつけてやる。なめんなよ。」とつぶやいた。
叔母が二階から降りてきて、叔父に「大丈夫、お酒を飲まされただけで済んだみたい。俊君がいなかったら今頃どうなってたかわからへん。ホントにありがとう。よく、見つけてくれたねえ。どうも、女の子に騙されたみたいやね。また、泣き出してしもて。しばらく泣かしとかなしょうがないわ。」といった。
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叔父の怒りの怖さを思い知ったと同時に自分が叔父に似ていることに気が付いた。叔父は叔母や真梨を危険な目に合わせたものを許さない。僕も僕の大切な人を傷つけたものを許さないだろう。
僕は、僕を二次会に招待した男の名前と住所を叔父に報告した。真梨は自分をだました女友達の名前を父親に報告した。叔父は、その後、何カ月も何の連絡もしてこなかった。何か自分に対して依頼事の一つぐらいはあるかもしれないと思っていた。
何事もなかったのように数カ月が過ぎたころに医者の不良グループが逮捕された。その中の一人は麻酔医だった。同時に逮捕された女子大生の中には真梨をだました女も含まれていた。女は、2カ月前に20歳になったばかりだ。叔父は女が20歳に成るのを待っていたのだ。
逮捕の事実は新聞に比較的大きな見出しで報道された。逮捕者の名前、年齢、職業も記載された。その中で悪質と特筆されたのが麻酔医の存在だった。
翌週の週刊誌には「文科省の幹部の子息(麻酔医)が乱交パーティーを主催」と派手に書き立てられた。婦女暴行の事実も暴かれた。ここでも真梨をだました女の名前が記載された。
真梨はこの記事を見て「パパ!この人たち逮捕されてる。」と大騒ぎをした。叔父は「こんなことが、いつもでも続くわけないんだよ。悪いトカゲが退治されてよかったね。」といつものいいパパの話し方をした。叔母が新聞を引き裂いてこの話は終わった。
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