2019年05月09日
家族の木 THE FIRST STORY 真一と梨花 <58 俊也と真梨>
俊也と真梨
真梨は大学へ通うようになっていた。東京では名の知れた私立大学だった。難しいと思っていた大学へ入ってくれて親としては少し自慢がましい気持ちもあった。これには家庭教師として3年間頑張ってくれた俊也の努力も無視できなかった。意外にも児童心理学に興味を持って一生懸命勉強した。
俊也は4歳の時に依子さんの連れ子として田原家に入った。聡の養子になって田原家の長男として暮らした。しかし依子さんは田原家に気を使って常に俊也を二の次にした
俊也はなんとなく大阪の家に居づらさを感じていたのか大学は東京しか見ていなかった。連れ子として、いつも何か気兼ねしながら育った子供だった。それでも、ママや聡に愛されて将来有望な青年に育っていた。依子さんによく似て目鼻立ちのはっきりした青年だった。
皆、俊也は大学院へ行って経営者としての勉強をすると思っていたが、大学を4年で卒業するとすぐに外資系のコンサルタント会社に就職してしまった。昨今、仕事のキツさと給料の良さで話題に上るアメリカの企業だった。日本でも、この会社から転身した若い経営者がたくさんいて皆成功を収めていた。
真梨が大学に入学したころから俊也はあまり家に来なくなった。もう十分に役目は果たしたということなのだろう。僕は俊也を真梨の婿として大いに期待していた。
しかし、俊也は真梨にはあまり興味がなさそうだった。真梨はといえば恋愛などはまだまだ眼中にない子供のようなものだった。俊也が真梨を物足りなく感じるのは理解できた。微妙にすれ違い始めてきた二人に寂しい気がしていた。
ある夜、真梨は深夜1時を過ぎても戻ってこなかった。真梨は酒を飲まないので、いつもは遅くなっても11時頃には帰ってきていた。時々は男友達に誘われてデートみたいなこともするようだが真梨はあまり楽しくなさそうだった。僕は、真梨はまだ子供で夜遅くなれば家が恋しくなるんだろうと本気で思っていた。
その真梨が日付が変わっても帰ってこないのだから気が気ではない。心配といら立ちが交互にやってきて、じっとしていられなかった。梨花も心配していたが友人に確認するにしても、この夜中だ、電話をかけるのがはばかられた。
2時ごろになって真梨の呑気そうな「ただいま~。」という声が聞こえた。声の調子から何事もなかったと感じてほっとした。真梨がリビングに入ってきて驚いたのは俊也が一緒に来たことだった。怒りが爆発した。「どこをほっつき歩いていた!」と俊也の襟首をつかんだ。俊也は、あきらめたような情けないような、ふてくされたような顔で無抵抗に立っていた。
その時真梨が「パパ違う!お兄ちゃんはトカゲから真梨を守ってくれたの!家まで連れて帰ってきてくれたのよ!」と大きな声を出した。
僕は突然昔のことを思いだした。そうだ、この男はいつも理不尽に怒られていた。今度も自分が怒られて、ことを治めようとしていると感じた。
真梨の話では、女友達に誘われて軽い気持ちで行った会合がガラの悪い連中が集まる会合だったらしい。真梨は騙されて強い酒を飲まされたようだ。その席に俊也もいて真梨を見つけて連れだしてくれたということだった。
女学生が友達をだまして悪い会合へ引っ張り込むなど、僕たちの時代には考えられないようなことだった。それでも酒を飲まされただけで済んだのは俊也のおかげだった。俊也が真梨を見つけてくれなかったら、真梨はとんでもない目にあっていたかもしれない。
僕は俊也と真莉から聞いた友達の名前を親友の新聞記者に教えた。彼も今は偉くなって、こんなしょうもないネタには載ってくれないと思っていた。しかし、名門大学の学生の犯罪はすでに話題になっていたらしい。直ぐに調査にかかってくれた。
結果的には大きな事件になって新聞や週刊誌の大きな記事になった。テレビでもとらえられたが我が家ではそのテレビは見なかった。真梨が深く傷つくような内容が派手に報じられていた。もしも俊也がいなかったらと思うと今でもぞっとする。
真梨はこの事件をきっかけに学校に行けなくなった。何度か俊也に真梨を連れ出してもらった。あわよくば二人が恋に落ちてくれればいいと思っていた。梨花も同じだった。何かと俊也を呼び出しては真梨との接点を作った。しかし、この作戦はあまり効果がなかった。
親から見れば真梨は頭も性格も容姿もいい娘だった。多くの人に愛されて育って人を愛する方法を知っていた。幸福な家庭を築くすべを知っているはずだった。俊也のように子供の時から気兼ねしながら育った男を幸福にできる資質を持っているはずだ。
僕は時々自分と俊也を重ねてしまうときがある。4歳の時、一人ぼっちで田原の家に預けられた少年は母と同居するようになってからも母の愛情を独占することは無かった。彼の母親はいつも俊也を二の次にした。幸薄そうに見える俊也を幸福な家庭人にしてやりたかった。
しかし俊也は田原の家を抜けたいというのが本音のようだ。真梨のお守りにも少し疲れているように見える。
続く
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俊也は4歳の時に依子さんの連れ子として田原家に入った。聡の養子になって田原家の長男として暮らした。しかし依子さんは田原家に気を使って常に俊也を二の次にした
俊也はなんとなく大阪の家に居づらさを感じていたのか大学は東京しか見ていなかった。連れ子として、いつも何か気兼ねしながら育った子供だった。それでも、ママや聡に愛されて将来有望な青年に育っていた。依子さんによく似て目鼻立ちのはっきりした青年だった。
皆、俊也は大学院へ行って経営者としての勉強をすると思っていたが、大学を4年で卒業するとすぐに外資系のコンサルタント会社に就職してしまった。昨今、仕事のキツさと給料の良さで話題に上るアメリカの企業だった。日本でも、この会社から転身した若い経営者がたくさんいて皆成功を収めていた。
真梨が大学に入学したころから俊也はあまり家に来なくなった。もう十分に役目は果たしたということなのだろう。僕は俊也を真梨の婿として大いに期待していた。
しかし、俊也は真梨にはあまり興味がなさそうだった。真梨はといえば恋愛などはまだまだ眼中にない子供のようなものだった。俊也が真梨を物足りなく感じるのは理解できた。微妙にすれ違い始めてきた二人に寂しい気がしていた。
ある夜、真梨は深夜1時を過ぎても戻ってこなかった。真梨は酒を飲まないので、いつもは遅くなっても11時頃には帰ってきていた。時々は男友達に誘われてデートみたいなこともするようだが真梨はあまり楽しくなさそうだった。僕は、真梨はまだ子供で夜遅くなれば家が恋しくなるんだろうと本気で思っていた。
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親から見れば真梨は頭も性格も容姿もいい娘だった。多くの人に愛されて育って人を愛する方法を知っていた。幸福な家庭を築くすべを知っているはずだった。俊也のように子供の時から気兼ねしながら育った男を幸福にできる資質を持っているはずだ。
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