2019年04月14日
家族の木 THE FIRST STORY 真一と梨花 <前の男>
「あいつ誰なんだ?」少し強い声になった。梨花は「あの人、前に付き合ってた人。でも、もう別れたんよ。今はホントに何にもないねんよ。」といった。
「裏切者ってどういう意味だ?」僕は詰問していた。梨花は「好きやったから付き合ったし、付き合ってるときには愛してるっていうやんか。でも、はっきり、ほかに好きな人ができたって話したんよ。」と弁解したが顔が青ざめていた。
「真ちゃんの部屋へ初めて行ったとき殺風景でびっくりした。めっちゃ大きなテーブルと椅子が置かれてて小さい観葉植物あって自転車が家の廊下に置かれてて、冷蔵庫からっぽで」梨花が言った。
僕は、少し卑屈になっていた。「そりゃ、僕は貧乏だよ!」というと、梨花が「真ちゃん貧乏じゃないやん。聡の普段着見たらわかるでしょ。安いもんしか着てないやん。自分の給料で買えるもんって、あんなんやし、それで充分やん。真ちゃん、同年代の人の中では収入多い方と思うよ。自分の力で稼いでるやんか。そんな人の部屋へ初めて行って夢中になって、いかんかった?」最後は怒り口調になっていた。
梨花は「自分で生きてきた人の部屋ってこんなんやなあって思ったら、なんか、お坊ちゃんのスタイリッシュな部屋がアホらしくなってきたの。あの人の部屋には、お母さんが買った大型のソファーがあって、イタリア製のセンターテーブルがあって。親の会社の専務さんやって。アホらしくなったんよ。」と言った。僕は話の流れがつかめなくなっていた。
「真ちゃんの部屋の冷蔵庫に私が買った牛乳やチーズが入って、真ちゃんの部屋の小さいチェストに私が買った風邪薬が入って、あのチェストに私の買った靴下やら下着入れたいと思ったんよ。それで、あの人とは別れたんよ。前に付き合ってた人のこと報告せなあかんかった?」梨花にちょっと嫌味な感じで聞かれた。
僕は「いや、そんなことはないけど。なんで襲うほど恨んでるんだ?」と、また詰問口調になった。
「そんなこと私にわかるわけないやないの。どっちにしてもホントにごめん。真ちゃんの子供、危ない目に合わせて。あの時、真ちゃんが突進してけえへんかったら危なかった。」梨花はまた泣き出してしまった。
僕はしまったと気が付いて今度はなだめなければならなかった。「僕はどんなことをしても、君と子供は守るんだけど、それには条件があるんだ。」というと、梨花はびっくりして僕を見た。
「あの男にした時よりも、もっともっと優しくしてもらわないと割に合わないよ。」と梨花の耳元で言った。「もっと優しくって、どういうこと?私は、真ちゃんに優しくするために生まれてきたんよ。」梨花も耳元でささやいてきた。
まただ、この殺し文句はいったいどこから出てくるのだろう?「そういうセリフ、あの男にも言った?」「言うわけないやん。私が本気で一緒に死にたいのんは真ちゃんだけよ。」 僕は、この時点でうまく丸め込まれてしまった。
「この続きは生まれてから。子供がびっくりしたらいけないからね。」ということでその日は幕引きだった。
ああいうセリフを言った女が他の男と結婚すれば、僕だって裏切者と言いたくなる。嫉妬心や猜疑心は、これから時間をかけて梨花に鎮めてもらわなくてはならなかった。
続く
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