2019年04月05日
家族の木 THE FIRST STORY 真一と梨花
順番違い
翌日は朝早く出かけた。10時には新大阪に着いて梨花に電話した。「真ちゃん、心配せんでいいよ。真ちゃんが喜んでくれるんやったらママなんてちょろいもんよ。」梨花は時々ものすごいオヤジ臭くなる。
11時過ぎには田原の家に着いた。ママは「真ちゃん、いらっしゃい。急用って何?なにかあったん?」と聞いた。「梨花ちゃんは?」と聞くと「調子悪くて部屋で寝てる。仕事も休んだんよ。鬼の霍乱やわ。もうご飯やから、お茶だけにしとくよ。」そう言ってリビングに入っていった。
ママの後ろからリビングに入ると梨花が真顔でソファに座っていた。顔が青ざめていた。「しんどかったら寝てなさい。風邪かな?」ママが言った。
「ママ、いやお義母さん、すみません。急な報告になってしまいますが。」と僕が口火を切った。「お母さん?どうしたん?あんた私のいとこやから、お母さんとはちがうよ。まあ年齢的にはお母さんの方が近いけど。」「あの〜、実は、」僕は次の言葉がなかなか出なかった。
「ママ、私、つわりでしんどいねんよ。」梨花は直球だった。「すみません。順序を間違えました。お母さんに先にお願いに上がらなければならなかったんですが。授かりました。」僕は耳触りが大好きな言葉をつかって、場を和らげようとしていた。
ママは、不思議そうな顔をして黙っていた。そして、いきなり、テーブルをバンとたたいて、「順番が違うやないの!何、アホの高校生みたいなことしてんのよ!」と一喝した。本気で怒っているのだろうけれど、何とはなしにコメディタッチだった。
梨花は、「ごめん。せやけど怒ってもしゃあないやんか。生むし、当然結婚するし。」とさらりと言った。僕はアホの高校生のように、ただ直立して頭を下げて「お願いします。」とだけ言った。
「そらそうや、怒ってもしゃあないな。それは確かや。大人のすることにごちゃごちゃいう気もないし。勝手にしなはれ。絶対、幸福に育てる覚悟があるなら、まあ、怒ってもしゃあない話や。」ママは不機嫌に答えた。
「すみません。結婚させてもらいます。とにかく、父親と母親は一緒に暮らさないといけませんから。」僕は言いながら脇の下が汗ばんでいるのがわかった。女の実家へあいさつに行くとは、こういうことか、こんなに、意味不明の緊張をすることなのかと思い知った。
話は単純なのだから時間はかかっていない。12時過ぎには寿司がとどいて食事になった。気まずい空気が流れたが梨花は驚くほどたくさん食べた。
突然ママが「あんた、そんなに生もん食べて!自覚が足らん。しっかりしなさい!」と梨花をしかりつけた。「お寿司とったんママやんか!」と梨花が歯向かうと「知らんかってんからしょうがないやないの!」と親子喧嘩がはじまった。
梨花が「ママこそ分かってる?孫が生まれるっていう自覚ある?」というと、ママはきょとんとなって「孫?孫やなあ、初孫や。」なんとなく口元が緩んだ。本当にママはちょろかった。
梨花、君のクライアントが多いのは君が結構悪知恵が働くからだ。その時やっと本当のことが分かった。ママはもう一度「初孫やなあ。」とつぶやいた。
とにかく、反対はされてはいない。あとは、いつ東京へ引っ越してこられるかだけだ。入籍は東京ですればいい。いや、それより先に、引っ越しだ。いや、そんなに豪華な部屋を借りるだけの金もない。梨花にはある程度我慢するように話さなければならない。少し憂鬱になった。
続く
翌日は朝早く出かけた。10時には新大阪に着いて梨花に電話した。「真ちゃん、心配せんでいいよ。真ちゃんが喜んでくれるんやったらママなんてちょろいもんよ。」梨花は時々ものすごいオヤジ臭くなる。
11時過ぎには田原の家に着いた。ママは「真ちゃん、いらっしゃい。急用って何?なにかあったん?」と聞いた。「梨花ちゃんは?」と聞くと「調子悪くて部屋で寝てる。仕事も休んだんよ。鬼の霍乱やわ。もうご飯やから、お茶だけにしとくよ。」そう言ってリビングに入っていった。
ママの後ろからリビングに入ると梨花が真顔でソファに座っていた。顔が青ざめていた。「しんどかったら寝てなさい。風邪かな?」ママが言った。
「ママ、いやお義母さん、すみません。急な報告になってしまいますが。」と僕が口火を切った。「お母さん?どうしたん?あんた私のいとこやから、お母さんとはちがうよ。まあ年齢的にはお母さんの方が近いけど。」「あの〜、実は、」僕は次の言葉がなかなか出なかった。
「ママ、私、つわりでしんどいねんよ。」梨花は直球だった。「すみません。順序を間違えました。お母さんに先にお願いに上がらなければならなかったんですが。授かりました。」僕は耳触りが大好きな言葉をつかって、場を和らげようとしていた。
ママは、不思議そうな顔をして黙っていた。そして、いきなり、テーブルをバンとたたいて、「順番が違うやないの!何、アホの高校生みたいなことしてんのよ!」と一喝した。本気で怒っているのだろうけれど、何とはなしにコメディタッチだった。
梨花は、「ごめん。せやけど怒ってもしゃあないやんか。生むし、当然結婚するし。」とさらりと言った。僕はアホの高校生のように、ただ直立して頭を下げて「お願いします。」とだけ言った。
「そらそうや、怒ってもしゃあないな。それは確かや。大人のすることにごちゃごちゃいう気もないし。勝手にしなはれ。絶対、幸福に育てる覚悟があるなら、まあ、怒ってもしゃあない話や。」ママは不機嫌に答えた。
「すみません。結婚させてもらいます。とにかく、父親と母親は一緒に暮らさないといけませんから。」僕は言いながら脇の下が汗ばんでいるのがわかった。女の実家へあいさつに行くとは、こういうことか、こんなに、意味不明の緊張をすることなのかと思い知った。
話は単純なのだから時間はかかっていない。12時過ぎには寿司がとどいて食事になった。気まずい空気が流れたが梨花は驚くほどたくさん食べた。
突然ママが「あんた、そんなに生もん食べて!自覚が足らん。しっかりしなさい!」と梨花をしかりつけた。「お寿司とったんママやんか!」と梨花が歯向かうと「知らんかってんからしょうがないやないの!」と親子喧嘩がはじまった。
梨花が「ママこそ分かってる?孫が生まれるっていう自覚ある?」というと、ママはきょとんとなって「孫?孫やなあ、初孫や。」なんとなく口元が緩んだ。本当にママはちょろかった。
梨花、君のクライアントが多いのは君が結構悪知恵が働くからだ。その時やっと本当のことが分かった。ママはもう一度「初孫やなあ。」とつぶやいた。
とにかく、反対はされてはいない。あとは、いつ東京へ引っ越してこられるかだけだ。入籍は東京ですればいい。いや、それより先に、引っ越しだ。いや、そんなに豪華な部屋を借りるだけの金もない。梨花にはある程度我慢するように話さなければならない。少し憂鬱になった。
続く
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