2019年03月26日
家族の木 THE FIRST STORY 真一と梨花
嫌な記憶
聡の結婚相手の話を聞いているうちに僕は昔の母の恋愛に向き合わなくてはならなかった。母が、結婚したいと男を連れてきたとき僕は小学4年生だった。そのころ、祖父母と母の愛情を一身に受けて僕はその暮らしに満足していた。僕にあいさつした男は、その暮らしを壊すために現れた闖入者だった。
ろくに口も利かずに風呂に入ったっきり、その男が帰るまで出なかった。その男は、2度と家に来なかった。母と付き合いが続いているのは分かっていた。僕が、小学校を卒業した、その年の秋に母は結婚した。僕は、祖父母の家に残された。いつか、母が迎えに来てくれることを信じていた。僕は祖父母が好きだったが母は僕にとっては唯一無二の存在だった。その人が自分を置いてけぼりにしたなどと思いたくなかった。
「聡、本気だったら急げ!その子が物心つくまでに、その子と仲良くなってやれ。責任をもって、何があろうと、その子を幸福にしようという覚悟があるんなら急いだ方がいい。」僕は自分の犯した幼い過ちをその子供に経験させたくなかった。
「兄ちゃん、軽率な性格なん?あんまり、豹変されると怖いんやけど。」聡は嬉しそうに上気していた。
「とにかく、本人に事情をしっかり確認して、やっていけるかどうか自分の根性を確かめて、根性が決まったら話は早い方がいい。男の子が反抗期に入る前に話を進めたほうがいい。」そういって聡を急かした。
「おう、気持ち決まったわ。明日にでも事情をちゃんと聴いて話進めるわ。」聡の顔に光が差したような気がした。
「ママは、そういう縁談を嫌わないのか?良家の奥さまとしては問題ないのか?」と僕が確かめると、「ないよ。ママが嫌うのんは借金や暴力や。それは僕も一緒や。それに関しては、徹底的に調べて解決したらなあかんと思ってる。出目については、あんまりうるさない。」と答えた。
「借金や暴力の解決をしてやるつもりなのか?・・・・偉いなお前」僕の声は小さくなっていた。
「それぐらいの力、あるよ、僕」と聡が答えた。僕は羨ましかった。昔、いつも人をねたんでいた気分が嫌でもよみがえった。
考えてみれば、サラリーマンといえど金の世界で生きている人間なのだ。ひょっとしたら、そこそこ裏の世界も知っているのかもしれない。僕よりも大人だった。翌日、聡は意気揚々と帰っていった。
僕の母は、どうして聡のような男と出会わなかったのだろう。僕は、どうしてそういう女の息子だったのだろう。恨みがましい気持ちになっていた。自分の子供っぽさはそのまま育ちの悪さから来ているように感じて嫌になった。
もし、僕がもっと素直な子供で母が連れてきた男にすぐに懐いていたら、母も僕ももっと違った人生になったのだろうか?いや、違う。あの男は母が働いていたキャバレーに通い詰めていたが、その時もう大きな借金をかかえていた。僕は自分が、いつ、温かい幸福感というものを取り逃がしたのか考えていた。
聡が恋人やその子供の幸福のために悩んでいるというのに、僕は、自分の仕事のことや母親への恨みがましい気持ちにもやもやしているばかりだった。梨花への気持ちが、そのもやもやに拍車をかけていた。
続く
聡の結婚相手の話を聞いているうちに僕は昔の母の恋愛に向き合わなくてはならなかった。母が、結婚したいと男を連れてきたとき僕は小学4年生だった。そのころ、祖父母と母の愛情を一身に受けて僕はその暮らしに満足していた。僕にあいさつした男は、その暮らしを壊すために現れた闖入者だった。
ろくに口も利かずに風呂に入ったっきり、その男が帰るまで出なかった。その男は、2度と家に来なかった。母と付き合いが続いているのは分かっていた。僕が、小学校を卒業した、その年の秋に母は結婚した。僕は、祖父母の家に残された。いつか、母が迎えに来てくれることを信じていた。僕は祖父母が好きだったが母は僕にとっては唯一無二の存在だった。その人が自分を置いてけぼりにしたなどと思いたくなかった。
「聡、本気だったら急げ!その子が物心つくまでに、その子と仲良くなってやれ。責任をもって、何があろうと、その子を幸福にしようという覚悟があるんなら急いだ方がいい。」僕は自分の犯した幼い過ちをその子供に経験させたくなかった。
「兄ちゃん、軽率な性格なん?あんまり、豹変されると怖いんやけど。」聡は嬉しそうに上気していた。
「とにかく、本人に事情をしっかり確認して、やっていけるかどうか自分の根性を確かめて、根性が決まったら話は早い方がいい。男の子が反抗期に入る前に話を進めたほうがいい。」そういって聡を急かした。
「おう、気持ち決まったわ。明日にでも事情をちゃんと聴いて話進めるわ。」聡の顔に光が差したような気がした。
「ママは、そういう縁談を嫌わないのか?良家の奥さまとしては問題ないのか?」と僕が確かめると、「ないよ。ママが嫌うのんは借金や暴力や。それは僕も一緒や。それに関しては、徹底的に調べて解決したらなあかんと思ってる。出目については、あんまりうるさない。」と答えた。
「借金や暴力の解決をしてやるつもりなのか?・・・・偉いなお前」僕の声は小さくなっていた。
「それぐらいの力、あるよ、僕」と聡が答えた。僕は羨ましかった。昔、いつも人をねたんでいた気分が嫌でもよみがえった。
考えてみれば、サラリーマンといえど金の世界で生きている人間なのだ。ひょっとしたら、そこそこ裏の世界も知っているのかもしれない。僕よりも大人だった。翌日、聡は意気揚々と帰っていった。
僕の母は、どうして聡のような男と出会わなかったのだろう。僕は、どうしてそういう女の息子だったのだろう。恨みがましい気持ちになっていた。自分の子供っぽさはそのまま育ちの悪さから来ているように感じて嫌になった。
もし、僕がもっと素直な子供で母が連れてきた男にすぐに懐いていたら、母も僕ももっと違った人生になったのだろうか?いや、違う。あの男は母が働いていたキャバレーに通い詰めていたが、その時もう大きな借金をかかえていた。僕は自分が、いつ、温かい幸福感というものを取り逃がしたのか考えていた。
聡が恋人やその子供の幸福のために悩んでいるというのに、僕は、自分の仕事のことや母親への恨みがましい気持ちにもやもやしているばかりだった。梨花への気持ちが、そのもやもやに拍車をかけていた。
続く
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