2019年09月25日
家族の木 THE FOURTH STORY 真と梨央 <35 無理な説得>
無理な説得
義父は俺の家の事情、俺の立場を理解していた。「お義母さんも焦られたんだろう。君は怒るかもしれないが、ここはお義母さんの気持ちを理解すべきだよ。すくなくとも理解を示すべきだ。」と意外に強い口調で言われた。祖父以外の人間にこういうものの言われ方をしたのは初めてだった。不思議に腹が立たなかった。
「多分お父さんはお義母さんに押されてこういうことになったのだと思う。梨央は君に頼り切っているからわからんが僕の家も妻は強い。」「いえ、私も梨央には逆らえません。」というと義父は「そうか!」と言って破顔した。「それなら、お父さんの立場も理解できるだろう。」といった。
「実は梨沙の結婚の直前に君のお父さんに偶然お会いした。1時間もたたない間だったが二人で飲んだんだ。その時に君とご家族の関係を聞いた。君が怒るのも無理もない話だ。お父さんもそれは分かっておられたよ。実は僕はね実母の顔を知らないんだ。僕が生後11カ月のときに亡くなっている。僕は、この田原の養子になって幸福に育った。そのまま、田原の娘と結婚した。だから君の気持ちがわかるとは言わない。それでも、自分が養子だと知った時には足元がぐらぐらするほど動揺したよ。」
そんなような話は梨央から聞いていた。「パパとママは兄弟として育ったけれど結婚した。」という言い方だったのでずいぶん古風な方法だと思っていた。しかし、ことはそんなに単純なことではないようだ。
「僕は田原隆の実兄だが父の愛人の子供だ。隆は本妻の子供だ。君とは逆の立場かもしれない。しかし、君には親しみを感じている。僕たちの祖父と似ているからだ。顔つきもだが物腰が本当によく似ている。祖父はね、この家ではスターだ。僕の父も祖父を尊敬していた。その祖父がね愛人の子だったんだ。田原の娘と結婚して今のTコープを創業した。この家のものは皆、君が好きだ。梨央の夫というより君個人に好感を持っているし、ビジネスマンとしても期待している。詩音君も君を頼りにしているようだ。どうだろう。養子になれとは言わないがTコーポの仕事に重点を置くことは出来んかね?」といわれた。
なんと、結婚したときの俺の欲得づくの想いが実現した。老舗企業に入り込んで何とか利益を取り込んでやろうとしていた。ところが今の義父の話ではもっと深くはいることになる。実際、詩音は画業に専念するだろうから次期社長は梨沙ちゃんだ。梨沙ちゃんの片腕にということだろう。悪い話ではない。むしろ思うつぼだった。
不思議なことに、このごろ俺はとてもいい人になっていた。プライベートであまり欲得づくになれなかった。それでも、この話を受ければやがては真也のためになる。浜野興産の事業の数倍にはなると計算していた。
「真也にTコーポにかかわってほしい気もある。梨沙の家に子供ができないとなれば、あながちジジイの空想でもない話だ。もっともこれはあと20年もたってからの話だ。」義父は俺の心を見透かしていた。
「実は私は鎌倉に家を持っています。浜野興産に貸して料理旅館を経営しています。といっても、規模は小さなものです。母と暮らした敷地なので、この家さえ残れば東京の家には未練はないんです。ただ、こういう形で取られるのは気分の悪いものです。」
「君の言い分は分かる。普通に考えて裏切り行為だ。でも、これ以上何かを触ればそれだけで、君の家に大きな負担がかかる。今回名義を変えるについても出費は相当なものだったろう。これを戻せばまた費用がかかる。もちろん君がこの家に未練があるなら話は別だ。執着がないんなら、このままにしてはどうかね。
所有権はお義母さんのを移転したままにすればどうかと思っている。君が執着のある鎌倉のお家を確保するということでどうかね。こういうことを君の口からお義母さんに伝えればお義母さんも安心されるんじゃないのかね。ただし、この広告はすぐに中止するんだ。事情が分かれば誰でも浜野興産の資金繰りを疑う。下手すれば倒産物だ。」義父は浜野興産を心配してくれていると同時に俺に大きな負担をしろと言っている。大きな怒りを黙って抑えろと言っている。そんなことを言われる義理はなかった。
続く
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義父は俺の家の事情、俺の立場を理解していた。「お義母さんも焦られたんだろう。君は怒るかもしれないが、ここはお義母さんの気持ちを理解すべきだよ。すくなくとも理解を示すべきだ。」と意外に強い口調で言われた。祖父以外の人間にこういうものの言われ方をしたのは初めてだった。不思議に腹が立たなかった。
「多分お父さんはお義母さんに押されてこういうことになったのだと思う。梨央は君に頼り切っているからわからんが僕の家も妻は強い。」「いえ、私も梨央には逆らえません。」というと義父は「そうか!」と言って破顔した。「それなら、お父さんの立場も理解できるだろう。」といった。
「実は梨沙の結婚の直前に君のお父さんに偶然お会いした。1時間もたたない間だったが二人で飲んだんだ。その時に君とご家族の関係を聞いた。君が怒るのも無理もない話だ。お父さんもそれは分かっておられたよ。実は僕はね実母の顔を知らないんだ。僕が生後11カ月のときに亡くなっている。僕は、この田原の養子になって幸福に育った。そのまま、田原の娘と結婚した。だから君の気持ちがわかるとは言わない。それでも、自分が養子だと知った時には足元がぐらぐらするほど動揺したよ。」
そんなような話は梨央から聞いていた。「パパとママは兄弟として育ったけれど結婚した。」という言い方だったのでずいぶん古風な方法だと思っていた。しかし、ことはそんなに単純なことではないようだ。
「僕は田原隆の実兄だが父の愛人の子供だ。隆は本妻の子供だ。君とは逆の立場かもしれない。しかし、君には親しみを感じている。僕たちの祖父と似ているからだ。顔つきもだが物腰が本当によく似ている。祖父はね、この家ではスターだ。僕の父も祖父を尊敬していた。その祖父がね愛人の子だったんだ。田原の娘と結婚して今のTコープを創業した。この家のものは皆、君が好きだ。梨央の夫というより君個人に好感を持っているし、ビジネスマンとしても期待している。詩音君も君を頼りにしているようだ。どうだろう。養子になれとは言わないがTコーポの仕事に重点を置くことは出来んかね?」といわれた。
なんと、結婚したときの俺の欲得づくの想いが実現した。老舗企業に入り込んで何とか利益を取り込んでやろうとしていた。ところが今の義父の話ではもっと深くはいることになる。実際、詩音は画業に専念するだろうから次期社長は梨沙ちゃんだ。梨沙ちゃんの片腕にということだろう。悪い話ではない。むしろ思うつぼだった。
不思議なことに、このごろ俺はとてもいい人になっていた。プライベートであまり欲得づくになれなかった。それでも、この話を受ければやがては真也のためになる。浜野興産の事業の数倍にはなると計算していた。
「真也にTコーポにかかわってほしい気もある。梨沙の家に子供ができないとなれば、あながちジジイの空想でもない話だ。もっともこれはあと20年もたってからの話だ。」義父は俺の心を見透かしていた。
「実は私は鎌倉に家を持っています。浜野興産に貸して料理旅館を経営しています。といっても、規模は小さなものです。母と暮らした敷地なので、この家さえ残れば東京の家には未練はないんです。ただ、こういう形で取られるのは気分の悪いものです。」
「君の言い分は分かる。普通に考えて裏切り行為だ。でも、これ以上何かを触ればそれだけで、君の家に大きな負担がかかる。今回名義を変えるについても出費は相当なものだったろう。これを戻せばまた費用がかかる。もちろん君がこの家に未練があるなら話は別だ。執着がないんなら、このままにしてはどうかね。
所有権はお義母さんのを移転したままにすればどうかと思っている。君が執着のある鎌倉のお家を確保するということでどうかね。こういうことを君の口からお義母さんに伝えればお義母さんも安心されるんじゃないのかね。ただし、この広告はすぐに中止するんだ。事情が分かれば誰でも浜野興産の資金繰りを疑う。下手すれば倒産物だ。」義父は浜野興産を心配してくれていると同時に俺に大きな負担をしろと言っている。大きな怒りを黙って抑えろと言っている。そんなことを言われる義理はなかった。
続く
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