2019年08月05日
THE THIRD STORY純一と絵梨 <32 俊也の最期>
俊也の最期
父は最近になって悪性のリンパ腫が見つかった。もともとやせ形の父は日に日に頬がこけてきた。その割には、日々の生活は穏やかなもので母とよく談笑している。母は父の病状を心配して、野菜スープを作ったり、時々は聞いたこともないような健康食品を買ったりした。
僕は、母が人のいないところで父のことをお兄ちゃんと呼んでいたことを知っている。母は父に恋をして自分からアプローチしたらしい。父に初恋をしてそのまま結婚したのだ。父しか知らない人生だ。そして今も父のことを大好きなのだから幸福な人生だ。ただ、人生でたった一人の相手を亡くすとどうなるのか心配だった。
父は78歳だ。世間的に見たら十分な寿命なのだろうが、やはり母のことが心残りになっているようだった。祖父が余りにも見事に祖母を看取って亡くなっているので余計に気になるのだろう。
「くれぐれも真梨を頼むよ。出来るだけ気分転換をさせて気を紛らしてやってほしいんだ。それと、綺麗に過ごさせてやってほしいんだ。真梨は地味だけど意外におしゃれなんだよ。もし、倒れたら延命はしないでやってくれ。苦しませてはかわいそうだ。」と息を切らしながら僕たちに頼んだ。
母には狭心症の持病があった。父自身、相当に激しい苦痛があったのだろうが母の苦痛を心配していた。父は、7カ月の闘病の間に事細かに遺言をした。複雑な出生の僕に気を使っていた。
父の遺品の中に父の身上書があった。誰かが調べたものを父自身が預かっていたようだった。その中には、父の実父が大阪の祖母に重傷を負わせて殺人未遂で逮捕されたことが記載されていた。祖母の事件は相当の大事件だったということを初めて知った。
「奥さまは、余りにもご主人の亡骸に未練を持ちすぎておられます。これは、気を付けなければなりません。一人でいる時間は極力作らないように。それに、御主人だってこの世に未練が残って成仏されにくいと思います。不幸中の幸いというのもなんですが、少し認知症がおありのようです。どうか、できるだけ、気をそらして、早く楽しいことを見つけてあげてください。」父の通夜の後、僧侶に言われた言葉だった。
続く
父は最近になって悪性のリンパ腫が見つかった。もともとやせ形の父は日に日に頬がこけてきた。その割には、日々の生活は穏やかなもので母とよく談笑している。母は父の病状を心配して、野菜スープを作ったり、時々は聞いたこともないような健康食品を買ったりした。
僕は、母が人のいないところで父のことをお兄ちゃんと呼んでいたことを知っている。母は父に恋をして自分からアプローチしたらしい。父に初恋をしてそのまま結婚したのだ。父しか知らない人生だ。そして今も父のことを大好きなのだから幸福な人生だ。ただ、人生でたった一人の相手を亡くすとどうなるのか心配だった。
父は78歳だ。世間的に見たら十分な寿命なのだろうが、やはり母のことが心残りになっているようだった。祖父が余りにも見事に祖母を看取って亡くなっているので余計に気になるのだろう。
「くれぐれも真梨を頼むよ。出来るだけ気分転換をさせて気を紛らしてやってほしいんだ。それと、綺麗に過ごさせてやってほしいんだ。真梨は地味だけど意外におしゃれなんだよ。もし、倒れたら延命はしないでやってくれ。苦しませてはかわいそうだ。」と息を切らしながら僕たちに頼んだ。
母には狭心症の持病があった。父自身、相当に激しい苦痛があったのだろうが母の苦痛を心配していた。父は、7カ月の闘病の間に事細かに遺言をした。複雑な出生の僕に気を使っていた。
父の遺品の中に父の身上書があった。誰かが調べたものを父自身が預かっていたようだった。その中には、父の実父が大阪の祖母に重傷を負わせて殺人未遂で逮捕されたことが記載されていた。祖母の事件は相当の大事件だったということを初めて知った。
「奥さまは、余りにもご主人の亡骸に未練を持ちすぎておられます。これは、気を付けなければなりません。一人でいる時間は極力作らないように。それに、御主人だってこの世に未練が残って成仏されにくいと思います。不幸中の幸いというのもなんですが、少し認知症がおありのようです。どうか、できるだけ、気をそらして、早く楽しいことを見つけてあげてください。」父の通夜の後、僧侶に言われた言葉だった。
続く
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