2019年06月24日
THE SECOND STORY 俊也と真梨 <37 姉の恋>
姉の恋
絵梨が外出してから1時間ぐらいたってしまった。心配になったので探しに出ることにした。聡一夫婦も帰っていった。真梨は一言も発しない。つい先日純一を大阪へやる決心をしたのに今度は絵梨だ。きっと言葉なんか出ないのだろう。僕も何が何だかわからなくなっていた。
夜8時ごろになって絵梨が帰ってきた。明るい顔をしている。「ママご飯まだなら手伝うわよ。なにしたらいい?」と陽気な声で聴いた。いままで黙々と食事の支度をしていた真梨が、いきなり「絵梨、いい加減にしなさいよ。あなたはどのくらいそうやって親をだましていたの?」と怒りに震えた声で言った。
僕はあわてて仲裁にはいった。「落ち着きなさい。落ち着いて話を聞きなさい。とにかく食事だ。腹が減っては、いい話にならない。真梨、今日はちょっと休憩したらいい。ほらお土産の佃煮でササッとすまそう。明太子とか、とにかく、お茶を飲もう。」と二人をテーブルにつかせた。
絵梨は「ママどうしたの?」と聞いたが、それ以上何も言わなかった。「ママごめんね、さっきは取り乱しちゃって。結婚っていうワードは私にはきついのよ。なんか、その言葉に神経質になっちゃって。叔父さんと叔母さんに失礼なことしちゃった。ママからよろしく言ってほしいわ。純の話まとまればいいね。」といった。
真梨は絵梨の頬にびんたをくれるようなジェスチャーをして頬にちょっと手を触れた。子供のころからやる「怒ってるんだよ」という合図だった。すると絵梨は頭を押さえてうずくまってしまった。少し呼吸が荒くなっていた。
僕はハっとした。絵梨は長谷川に暴力を振るわれていたのだ。真梨も気が付いた。「絵梨、どうしたの?ごめん。絵梨ごめんね。」と抱きしめた。しばらく背中をさすって絵梨が落ち着くのを待った。
真梨は落ち着いた声で、いや、落ち着いた声ではない、子供を諭すような優しい声で、「絵梨はいつから純一を好きだったの?」と聞いた。絵梨は「子供の時からだけど?」と答えた。
「絵梨、いつまで親をだますつもりなの!いい加減にしなさい。いつ頃から純一を愛していたの?」と聞き直した。子供のころ泣いて帰った絵梨に「何があったの?」と聞いたときと同じ声だった。
僕は絵梨を正視できなかった。長谷川との縁談の時には何も感じなかったのに、今、恋の焔に巻かれて身動きできなくなった、女としての娘の姿を冷静な目で見ることができなかった。
絵梨は「パパ、ママごめんね。絵梨はホントはちゃんと人の奥さんになれるような人間じゃないの。弟に恋をしちゃったの。もうずっと昔から。大学を卒業するころには可愛いを通り越して恋しい人になっちゃったのよ。ごめんね。ホントに馬鹿な娘で。ホントにごめんなさい。」と何度も謝った。
僕は「純一は、それを知ってるのか?」と聞いた。絵梨は「感じてると思う。だから留学したんだと思う。だから私も結婚したの。なんとか解決しようとしたの。でも私不器用で夫に愛してもらえなかったの。だから、みんなに心配かけちゃって。でも、純一の縁談は進めてほしいの。純一には普通に幸福になってもらいたいのよ。」といった。
「あなたは本当にバカ娘。こんなことになるなんて想像もしてなかった。よく考えなさい。恋をすることはいけないことじゃないのよ。あなたが馬鹿なところはそこじゃないの。好きでもない人と結婚しちゃダメでしょ!長谷川さんがろくでもない男だったのは、やっぱりあなたのミスよ。
目が曇るのよ。動機が不純だから。もう忘れてほしいわ。純一のことは少し考えなきゃ。私もどうしていいかわからない。でもね、そんなに長い間大切なことを親に隠してちゃいけないのよ。親を甘く見ちゃいけないのよ。そこがあなたの一番馬鹿なとこ。」
真梨の母親としての器量の大きさを初めて思い知った。真梨はやはり人の愛し方を知っている女だった。
続く
絵梨が外出してから1時間ぐらいたってしまった。心配になったので探しに出ることにした。聡一夫婦も帰っていった。真梨は一言も発しない。つい先日純一を大阪へやる決心をしたのに今度は絵梨だ。きっと言葉なんか出ないのだろう。僕も何が何だかわからなくなっていた。
夜8時ごろになって絵梨が帰ってきた。明るい顔をしている。「ママご飯まだなら手伝うわよ。なにしたらいい?」と陽気な声で聴いた。いままで黙々と食事の支度をしていた真梨が、いきなり「絵梨、いい加減にしなさいよ。あなたはどのくらいそうやって親をだましていたの?」と怒りに震えた声で言った。
僕はあわてて仲裁にはいった。「落ち着きなさい。落ち着いて話を聞きなさい。とにかく食事だ。腹が減っては、いい話にならない。真梨、今日はちょっと休憩したらいい。ほらお土産の佃煮でササッとすまそう。明太子とか、とにかく、お茶を飲もう。」と二人をテーブルにつかせた。
絵梨は「ママどうしたの?」と聞いたが、それ以上何も言わなかった。「ママごめんね、さっきは取り乱しちゃって。結婚っていうワードは私にはきついのよ。なんか、その言葉に神経質になっちゃって。叔父さんと叔母さんに失礼なことしちゃった。ママからよろしく言ってほしいわ。純の話まとまればいいね。」といった。
真梨は絵梨の頬にびんたをくれるようなジェスチャーをして頬にちょっと手を触れた。子供のころからやる「怒ってるんだよ」という合図だった。すると絵梨は頭を押さえてうずくまってしまった。少し呼吸が荒くなっていた。
僕はハっとした。絵梨は長谷川に暴力を振るわれていたのだ。真梨も気が付いた。「絵梨、どうしたの?ごめん。絵梨ごめんね。」と抱きしめた。しばらく背中をさすって絵梨が落ち着くのを待った。
真梨は落ち着いた声で、いや、落ち着いた声ではない、子供を諭すような優しい声で、「絵梨はいつから純一を好きだったの?」と聞いた。絵梨は「子供の時からだけど?」と答えた。
「絵梨、いつまで親をだますつもりなの!いい加減にしなさい。いつ頃から純一を愛していたの?」と聞き直した。子供のころ泣いて帰った絵梨に「何があったの?」と聞いたときと同じ声だった。
僕は絵梨を正視できなかった。長谷川との縁談の時には何も感じなかったのに、今、恋の焔に巻かれて身動きできなくなった、女としての娘の姿を冷静な目で見ることができなかった。
絵梨は「パパ、ママごめんね。絵梨はホントはちゃんと人の奥さんになれるような人間じゃないの。弟に恋をしちゃったの。もうずっと昔から。大学を卒業するころには可愛いを通り越して恋しい人になっちゃったのよ。ごめんね。ホントに馬鹿な娘で。ホントにごめんなさい。」と何度も謝った。
僕は「純一は、それを知ってるのか?」と聞いた。絵梨は「感じてると思う。だから留学したんだと思う。だから私も結婚したの。なんとか解決しようとしたの。でも私不器用で夫に愛してもらえなかったの。だから、みんなに心配かけちゃって。でも、純一の縁談は進めてほしいの。純一には普通に幸福になってもらいたいのよ。」といった。
「あなたは本当にバカ娘。こんなことになるなんて想像もしてなかった。よく考えなさい。恋をすることはいけないことじゃないのよ。あなたが馬鹿なところはそこじゃないの。好きでもない人と結婚しちゃダメでしょ!長谷川さんがろくでもない男だったのは、やっぱりあなたのミスよ。
目が曇るのよ。動機が不純だから。もう忘れてほしいわ。純一のことは少し考えなきゃ。私もどうしていいかわからない。でもね、そんなに長い間大切なことを親に隠してちゃいけないのよ。親を甘く見ちゃいけないのよ。そこがあなたの一番馬鹿なとこ。」
真梨の母親としての器量の大きさを初めて思い知った。真梨はやはり人の愛し方を知っている女だった。
続く
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