2018年06月09日
死んだ彼女
俺が高校生だった頃、隣のクラスに目茶苦茶可愛い子がいて、俺は恋心を抱いていた。
1年ほど片想いをしていたが、体育祭の日、その子が俺に告白をしてきて付き合うことになった。
その子は高校でもかなりモテていたが、オレなんて全くモテない。
ブ男と付き合うなんてどうかしてる! と、周りの奴が噂するのを一時期学校ではよく耳にした。
俺も何度か「オレなんかのどこがいいの?」と尋ねた。
彼女は毎回ハニカミながら、
「笑顔が好きになった。周りが何を言おうが、私が好きなんだからいいぢゃん!」
と言ってくれた。
すごく真っすぐな子だった。
俺は昔から自分自身にコンプレックスを持っていた。
「俺は不細工で頭も悪い」それがオレの口癖だった。
彼女はそんな俺に、
「でも私はそんな貴方が好きなんだから。自分で悪く言うのは辞めて」
と。
俺にはとても出来過ぎた子だった。
高校を卒業し、俺は町工場に就職、彼女は大学へ進学した。
彼女は大学の授業が終わると、しょっちゅう工場の前で俺のことを待ってくれていた。
19歳のとき、彼女が妊娠した。
俺達は周囲の反対(彼女が大学生だった為)を無視して結婚した。
彼女は当然、大学を中退、元気な女の子を産んでくれた。
俺に甲斐性がないので、彼女は半年後にはパートをして家計を助けてくれた。
金は無かったが毎日幸せだった。
娘が2歳になって間もなく、彼女は交通事故で他界した。
パートの行きに車に跳ねられて。
俺は葬式でも涙が出なかった。
彼女の死を信じられなかった。
それから3年経った。
俺は今でも彼女の事を引きずっている。
オレなんかと出会わなければ彼女は……。
俺は彼女のお陰で幸せだったが、彼女には俺のせいで幸せを掴みそこなったんじゃないのか……とか。
生活する為に工場と夜のウエイターのバイトで、彼女の忘れ形見の娘との会話もあまり無かった。
そのせいか、娘はいつも1人で絵を描いている。
昨日、仕事から帰ると、また娘が何か描いていた。
「それなに?」
愛想なく聞くと、娘は
「おかあさん」
と答え、絵を書き続けた。
一瞬、ドキッとした。
「え? おかあさん? ……お母さん何してるの?」
と聞き直すと
「今日はオカーサンとお砂場で遊んだの」
娘が言った。
俺は娘に聞いた。
「どこのお母さん? お友達の?」
娘ははっきりと
「違うよ、美優(娘)のお母さんだよ。昨日も遊んだの」
と。
娘は続けてこう言った。
「美優おかーさん大好き、おかーさんもねぇ、美優とパパが大好きなんだよ」
俺は娘を抱き上げ、すぐにその砂場に走った。
砂場に着くと、もちろん、そこに彼女はいなかった。
娘は、
「おかーさんはこの公園が大好きなんだって。いつも美優より先に着てるよ」
その言葉を聞き俺は思い出した。
この公園は高校時代、よく彼女と立ち寄り、始めてキスしたのもこの公園。
俺は、娘の前で号泣した。むせる様に泣いた。
娘はポカーンとしていた。
俺は娘を抱きしめ、謝った。
「ごめんね」と。
彼女が死んだ事を受け入れられず、多感な年頃の娘の相手もせず、
毎日クヨクヨ生きていた自分自身が恥ずかしかった。
彼女は死んでも、娘の遊び相手になって。
俺は死んだ彼女にも苦労をかけていた。
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