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2018年06月08日
青い目の幽霊(2)
戦闘機はあのときのまま、日本軍に回収されることもなく横たわっていました。
砕けた破片があちらこちらに散乱し、焼け残った機体は未知の動物の死骸のようでした。
祖母は人の気配がないか確認してから
――見つかったらどうしよう、と不安だったのです――来る途中でつんだ野の花をそなえ、手を合わせ祈りました。
(……あのときは何もできなくてごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……)
ぎゅっと目をつぶり、何度も繰り返しました。
いつまでそうしていたでしょう。ぞくぞくするような寒気を感じ目を開けると、
壊れた機体の中、ちょうど操縦席があったあたりに、人影が蜃気楼のように佇んでいたのです。
激しい爆発のためか全身の皮膚は黒く焼けただれ、左足と右ひじがありえない方向にねじれていました。
ボロボロになった軍服の上の頭は右半分が吹き飛び、灰色をした脳がこぼれ落ちています。
青い左目は虚ろに祖母を映し、そのわきで焼け残った金髪が微風に揺れていました。
祖母は目の前に現れたアメリカ兵の霊の恐ろしい姿に、悲鳴を上げることもできずに震えていました。
とうとう殺されるのだ、自分を見捨てた日本人の少女を許すはずがない、と思いまた心のどこかで、
当然の結果だと受け入れている自分もいました。アメリカ兵は凍り付いている祖母を、残った青い左目で静かに見つめ、
「アア……ア……アィ…………」
何かうめきながら腕を差しのばし、祖母が身をすくませた瞬間、思いがけない言葉が耳を打ちました。
「……アア……アイム・ソーリー……」
祖母は思い間違いをしていたのです。
アメリカ兵は祖母を害そうと姿を現したのではありませんでした。ただこの一言を伝えるためさまよっていたのでした。
英語を知らぬ祖母に《アイム・ソーリー》の意味はわかりません。しかしこめられた思いははっきりと伝わってきました。
《私の最期を看取ってくれてありがとう。つらい思いをさせてすまなかった》
と。
気づけばアメリカ兵は消え、祖母の頬には涙が伝っていました。
アメリカ兵を疑ってしまった悔しさと、心が通じあえたことの嬉しさに流す涙でした。
その後、終戦を迎えた日本は復興への道を歩み出しました。
祖母は祖父と結婚し、忙しくも幸せな毎日を送りました。
それからもふと、あのアメリカ兵の眼差しを思い出すことがあるそうです。空のように恐ろしくも優しい……青い瞳を。
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