韓国では首都ソウルを離れ、地方に生活の場所を移す人々が増えている。韓国はもともと海外へ移民する人々が多い国だが、メディアはこの“脱ソウル”現象をそれと比較し、「国内移民現象」と揶揄し始めている。
統計庁の「年間国内人口移動統計」によると、2014年にソウルから流出した人口は8万9,000人で、全国の自治体で第1位を記録した。ここには、大学などの学業のために生活環境を移した学生ら10〜20代の数字は含まれない。純粋に生活基盤を移すためにソウルを脱した人々が、それだけいることになる。
1990年代から徐々に始まった“脱ソウル”の流れは、10年に初めて10万人を突破。現在も流出がやむ気配はない。過去4年間では、年平均5万人ずつ減少しており、この傾向が続けば、16年末にはソウルの登録人口が1,000万人を下回るかもしれない。
ところでなぜ、韓国の人々はソウルを離れて地方に住もうとするのか? 同じく統計庁が調査した結果によると、約8万人の回答者のうち約51%が、その主な理由を「住宅問題」と答えた。ここ数年、ソウルでは賃貸費用の高騰が続いている。というのも、韓国特有の賃貸契約制度である「伝貰(チョンセ)」制度が、賃貸費用の高騰に歯止めを利かなくさせているからだ。
「たとえば、韓国で20代の若者が一人暮らしをしようと思うと、本当に大変。伝貰が数百万円というのもザラ。そのため、基本的には結婚するまでは親元で暮らすことになります」(日本在住の韓国人留学生)
韓国では月払いで家賃を支払う制度よりも、入居時に大家に住宅価格の5〜8割程度を支払い、退出時にこれを返却してもらうという伝貰制度が定着している。大家はこのお金を資産運用に回し、差額を自身の利益とするというシステムなのだが、この伝貰が年々上昇しており、現在ではソウル市内平均で約750万円にまで高騰しているというのだ。大雑把にいってしまえば、この伝貰が支払えないと引っ越しすることもできない。一方で、給料は伸びず、教育費の負担も年々増加傾向にあるそうだ。
地方に脱出した、ある韓国人男性は「子どもの教育にも地方がいい」として、メディアの取材に次のように話している。
「ソウルにいた時は、塾への送り迎えが大変でした。地方には塾は多くないですが、意外と教育支援制度が充実している。子どもたちが自然体で学ぶ姿を見る機会が増えました」
生きているだけで生活苦を余儀なくされる状況から脱出を図るべく、多くの人がソウルを後にするのだが、最近、脱出先として人気なのは、“韓国の沖縄”・済州島。15年に入って、毎月1,000人以上も人口が増えているそうだ。そんな社会的変化を象徴してか、地方暮らしをフィーチャーするテレビ番組なども増え始めている。
大都市が機能不全を起こし、人口が地方へと拡散している韓国。その現象が何を意味するのかまだ定かではないが、当事者たちの声からは、成長一辺倒の時代に語られてきた“幸福”とは異なるスタイルの幸せを探そうという希望が読み取れる。
ちなみに、日本の東京の総人口は1956年の約800万人から年々上昇、14年の段階で1,329万人に達している。