2018年06月11日
信頼できる「新通貨」が誕生するという幻想
仮想通貨は現在2000種類近くが存在し、多くの人々を熱狂させている。
仮想通貨はインチキだという警告が出ているにもかかわらず、これだけ多くの人々が夢中になるのはなぜか。
新たな貨幣を発明しようとする試みには長い歴史がある。
マネーの革新とは刺激的なものだ。
だが、高揚感が長続きすることはない。
■マネーの革新に挑戦した人々
貨幣というものは謎めいている。
人間の価値すら貨幣で測られることが多い。
が、貨幣とは単に世の中をぐるぐる回っている紙切れにすぎない。
つまり、貨幣の価値とはこのような紙切れに対する信用に支えられているといっていい。
これを信仰と呼ぶ人もいる。
マネーの革新には、わかりやすくて説得力のある革命的なストーリーがついて回る。
1827年には無政府主義者のジョサイア・ウォレンが「シンシナティ・タイム・ストア」を開き、労働時間を通貨単位とする「レイバーノート」(労働貨幣)と引き換えに商品を販売していた。
紙幣によく似たレイバーノートは労働の重要性を裏付ける証しと見られたが、「ストア」はわずか3年で閉店した。
その2年後の1832年には社会主義者のロバート・オーエンが英ロンドンで、「タイムマネー」(時間貨幣)という労働貨幣で商品をやり取りする「労働公正取引所」を設立しようと試みた。
オーエンもまた、金や銀ではなく、労働価値説に基づいて労働時間を貨幣の裏付けにしようとしていたのだ。
だが、この実験も失敗に終わった。
マルクスとエンゲルスは「私的所有の廃止」を掲げ、「売買の廃止」を提唱したが、貨幣を排除できた共産主義国は一つもない。
大恐慌が吹き荒れていた1930年代には「テクノクラシー」と呼ばれる急進的な社会運動が台頭。
米コロンビア大学とかかわりを持つテクノクラシーの唱道者は、金によって価値を裏付ける金本位制ではなく、エネルギー単位「エルグ」でドルを担保するよう主張した。
経済を「エネルギー基準」に変えれば失業問題を克服できる、という理論を発展させたのである。
だが、ブームは短命に終わった。
技術的な問題がないかのように装っていたことが、トップクラスの科学者によって暴かれたのである。
■仮想通貨が魅力的に映る理由
しかし、最新の科学に身を包んでマネーを革新しようとする試みが、これで終わったわけではない。
1932年にはジョン・ピース・ノートンという経済学者が、ドルの価値を金ではなく電気によって裏付ける電気本位制を提唱した。
ノートンの「電気ドル」は大いに注目されたが、電気とドルを兌換することに確たる根拠があったわけではない。
当時は各家庭にようやく電気が行き渡り始めた頃であり、最先端科学の華やかな雰囲気を最高に盛り上げてくれるものが、たまたま電気だったにすぎない。
しかし、テクノクラシー同様、生煮えの科学武装は裏目に出た。
電気ドルは笑いのネタにしかならないと考えた当時の評論家、ハリー・フィリップスはこう書いた。
「税金として政府に300ボルトを送りつけたら楽しいことになりそうだ」。
そして今、私たちの前に再び新しい通貨が姿を現した。
ビットコインをはじめとする仮想通貨だ。
過去に企てられてきたマネー革命は独特な科学理論と結び付いていた。
そして、これまでと同様、仮想通貨が持つ魅力もある種の謎と関係している。
コンピュータ科学の専門家以外で仮想通貨の仕組みを説明できる人間など、まずいないだろう。
こうしたわかりにくさが特別なオーラにつながり、新しい貨幣を魅力的なものとし、信者を熱狂で満たすのだ。
これは、どれも新しいことではない。
過去に生まれては消えていった事例同様、うまくできた話なだけで、新貨幣は成り立たないだろう。
引用元:東洋経済オンライン
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180609-00223434-toyo-bus_all
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