●鉄の斧
昔昔、あるところに正直な木こりが居ました。
彼は、鉄の斧を携えて、毎日森の中に入っていき、木材を得るために
鉄の斧で一生懸命に木を切っていました。
朝からずっと伐採作業をしていた木こりさん
昼になって、お腹が空いていることに気づきました。
そこで、お弁当を食べることにしました。
どこか、良い場所はないだろうか?
涼しそうで、明るいところ・・・・
と、探していると、きらりと輝いている小さな池を見つけました。
木こりさんは、『よし、ここでお弁当を食べるとしよう!』と言って、
持っていた鉄の斧を傍の切り株に立てかけて、切り株に腰かけ、
弁当を食べ始めました。
●池に落とす
優しく太陽の光が降り注ぎ、小鳥たちが歌っているかのようにさえずり、まるで木こりさんと一緒にお昼ご飯を楽しんでいるかの様でした。
すると、ぼっちゃーん
あれれ、切り株に立てかけておいた鉄の斧が、バランスを崩して、倒れて、
悪いことに池にはまってしまいました。
木こりさんは『あーっ! どうしよう・・・えらい事になってしまった。 斧が無ければ仕事が出来ない・・・どうしよう』と頭を抱えてしまいました。
すると、傍の木にツル草が絡んでいることに気づきました。
『よし! このつる草を編んで、先っぽをわっかにして、池に垂らして斧を回収することにしよう』
●うまくいった
池に垂らしては引っ張ったり緩めたり、池の淵を右に左にあるいて、斧につる草のわっかが引っかかるようにしようと頑張っていました。
30分ぐらい経ったころでしょうか。 つる草を引っ張る手に手ごたえがありました。
木こりさん、『やった! これで斧が取れたら、仕事が続けられる!』と喜びました。
つる草を慎重に慎重に手繰り寄せ、池の水面にわずかに斧の姿がぼんやりと見えるようになりました。
しかし、その斧は何故か色が白っぽく見えます。
つる草を注意深く手繰り寄せ、その白っぽい斧を手に取ると、鉄に比べてずっしり重く、良く見ると銀で出来た斧でした。
木こりさん、『なんじゃ、こりゃー! 銀の斧ではないか・・・銀なんかで木が切れるわけがない。 すぐに刃こぼれして使い物にならなくなる。』
『わしの鉄の斧はまだ池の底か・・・』
木こりさん、気を取り直して、再びつる草を池に垂らして、池の底をまさぐるように探していました。
今度はなかなか、手ごたえがありません・・・
日も大分くれて来て、そろそろ諦めて帰ろうかと思い始めた時に、やった!手ごたえがありました。
今度は大丈夫だろう。 そーっとそーっとつる草を手繰り寄せました。
当たりは暗くなってきたので、気も急いてはいたんですが、焦って斧を落としでもしたら、明日の仕事にも差し障りがある・・・気をつけて手繰り寄せよう。
前よりも時間をかけて、手繰り寄せ、もう少しと言うところで、
『あれっ? 何じゃこりゃー!』
手に取ったその斧は、今度は黄土色っぽく見えました。
『また、変なものを拾ってしまったなぁ・・・ちょっとこの汚れを落としてみようか?』
と、池の水を浸かって、涼しくなってもう使わないであろう汗を拭くためのタオルで洗ってみました。
すると、洗うにしたがって、輝きを増してきて、黄土色だと思ったその色は、金色に輝きました。
木こりさんは、『あれまー! さっきは銀で、今度は金!』
『銀より柔らかい金でできた斧なんて、銀の斧以上に使いものにならないわ!』
木こりさんは、頭を抱えて、『あ〜〜〜! 明日からどうしようか・・・・?』と嘆いていました。
●正直者が・・・
すると、そこに貴金属商人がやってきました。
その貴金属商人は、何やら青ざめた顔で、近づいてきました。
木こりさんは『なんか、薄気味悪い人だな・・・何だろう・・・』と思いつつも、『さっき、池から引き揚げた金と銀の斧はうまく隠してあるな・・・』と思いつつ、その貴金属商人が何か言うのを待っていました。
貴金属商人は、池の傍にいた木こりさんに近づいて行って、こう言いました。
『この辺で、金の斧と銀の斧を無くしてしまったんです。 馬車の荷車で運んでいたんですが、道の端っこの穴に車輪が落ち込んで、荷車が傾き、金の斧と銀の斧が荷車から落ちて、悪いことに池の中に落ちてしまったんです。』
木こりさんは、『もしかして、さっき俺が引き上げた斧の事かな?』って思いました。
しかし、そのことはまだ黙っていました。
貴金属商人は続けました。『結構高価な斧なんですが、金と銀なので水の中に落ちてもすぐにはさびないだろうし、急ぎの取引があるので、取引を済ませてから池の中を探そうと考えました。』
『そうだ! もし木こりさんにまだ時間があるなら、手伝ってもらえませんか? もし見つかったら、その金と銀の斧の代金の1/10を謝礼としてお支払いしましょう。』
木こりさんは、『えっ?』と喜びました。
さっき池の底から引き揚げたのをそのまま渡せば、その代金の1/10が貰えるんだ! そうすれば、超高級鉄の斧を何個も買えるぞ!って思いました。
木こりさんは、貴金属商人に尋ねました。
『その金の斧と銀の斧は、どんな形なんでしょうか? また、どのくらいの大きさなんでしょうか?』
すると、その貴金属商人は、『形は普通の斧です。 柄は木で出来ていて、竜の彫刻がされています。』と答えました。
木こりさんは、『なるほど、確かに形は斧の形で、柄も木製だった。 しかし竜の彫刻なんかしてあっただろうか?』と思いました。
そこで、木こりさんは一計を案じました。
『今日はもう遅く、暗いので、万一私たちが池の中に落ちてしまっては、斧だけでなく命まで失うことになってしまう。 明日の朝に、ここに来て探すことにしませんか?』
貴金属商人は、『そうですね。 仰る通りです。 明日朝、午前8時ごろに来ますのでお手伝いいただけますか?』と答えました。
そこで、二人は各自の家へと帰ることにしました。
●翌朝
木こりさんは、一旦、家に帰りましたが、その後数時間経った夜中に、再び池の傍まで活き、隠した斧の場所を確認しに行きました。
すると、そこに確かにありました。
しかし、木の柄には竜の彫刻はされていませんでした。
木こりさんは『なんだか怪しいと思ったんだ。どのくらいの大きさか聞いたのに、それに答えてくれなかったから。』
そして、木こりさんは再び家に帰りました。
●翌朝
朝になりました。
木こりさんは、おまわりさんを連れてきました。
貴金属商人は、木こりさんが着いた時には、既に来ており、何やら知ってしまったような表情をしていました。
貴金属商人は、木こりさんに尋ねました。
『昨日、池から何か拾いませんでしたか?』
木こりさんは『えっ?何でですか?何を言っているんですか?』
貴金属商人は言いました。『いや、私が金の斧と銀の斧を池に落としたと言っても、顔色ひとつ変えずに、斧の形と大きさを聴いてきましたよね。 そして、一番おかしいと思ったのは、あなたは木こりなのに、斧を持っていなかったことです。まさか、仕事をしないで、手ぶらで池のほとりで遊んでいたわけではないでしょう。』
木こりさんはぎょっとして『そ、それは・・・鉄の斧を池に落としたので、探していたんですよ。』と訳にもならない言い訳をしてしまいました。
貴金属商人は、『あれ? 昨日はそんな事一言も仰っていませんでしたよね。』
そして、とどめの一言・・・『私が竜の彫刻が施してあると言ったものだから、あとで確認に来られましたよね。 そんな事だろうと、夜中まで張り込んでいたんですよ。』
木こりさんは・・・『確かにそうですよ。 でも、竜の彫刻なんて施されていませんでしたよ。 なのであの金と銀の斧はあなたのものではありませんよね。』
貴金属商人は少しフッって感じで笑ったかと思うと、『ここにおまわりさんまで連れてきているってなんて好都合なんでしょうか? 証人になっていただけますからね。』
『これが、遺失物届書のコピーです。』と昨日の朝に警察に届けた書類を木こりさんとおまわりさんに見せました。
おまわりさんは、その書類を見て、無線で本署へ確認し、その書類が正当なものである事が分かりました。
そして、おまわりさんは、木こりさんに金銀の斧のありかを聞いて、その現物を確認しました。
遺失物届に書かれていた通りの金と銀の斧が、木こりさんによって隠されていたことが分かりました。
貴金属商人は言いました。『ほうら、私の物であることが証明されたでしょ。 昨日、あなたが正直に私に返却してくれていたら、代金の1/10をお渡ししようと思っていましたが、今ではその心は消えています。なぜなら、こうしてここまで来なければならず、時間的なロスによる取引機会の損失があった、1/10どころの金額ではなくなってしまいました。』
木こりさんは、『もし、昨日、あなたにお渡ししていれば、私は1/10の謝礼を頂けていたかも知れません。 しかし、あなたが正当な所有者だと証明するものはなく、たまたま私が池から引き揚げていたのをみていただけの人ならば、真の所有者に斧が戻らなくなってしまうと考えました。』
『そこで、今朝はおまわりさんに同行していただいて、確認してもらおうと思ったのです。』
『もし、誰かが、私の行動を見ていて、私に金の斧と銀の斧を返して欲しいと言い、私がその口車に乗せられて渡してしまえば、その金と銀の斧はこのようにあなたの手には戻っていなかったかも知れません。』
『私の慎重さが、回り道となってしまいましたが、金銀の斧があなたの手に戻ることになったのです。』
貴金属商人は、『なるほど、確かに言われるとおりだ。』と感心し、木こりさんに代金の1/10に当たる謝礼金と、鉄の斧引換券を渡しました。
めでたしめでたし
●教訓
ネットに散在している罠・・・木こりさんのように慎重に事の本質を見て、思い込みや感情に流されないでしっかりと判断しないと、どんどん泥沼にはまっていきます。
そうならないように、しっかりと考えてください。
すぐに飛びつかないでください。
提燈鮟鱇の偽餌に引っかからないでください。
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