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2017年10月04日

『日本語教育を通してシナジー論を考える』 人文科学のための人材育成について4

3 問題解決に向けてできること
 
 こうしたL字の文献処理ができるようになるとよいことがある。テキスト分析を例にして説明していこう。テキスト分析といった場合、文系でも理系でも受容を思い浮かべる。文系は文献学をベースに解析をして作品のイメージを作り、理系は計算、技術、実験をベースに作品のモデルを作っていく。ここからが問題である。文から理への横の調節をAとBから異質のCという流れとしよう。その場合、Aは人文科学、Bは認知科学そしてCは脳科学になる。学会や研究会などで専門家の話を聞いていると、人文の人はAとBの塊を作り、理系の人はBとCの塊を作る。なぜか対峙してしまう。これが問題である。
 人文から理系に向けた研究方法を何か工夫して、何とか異質のCに辿りつくようにしたい。どうすればよいのだろうか。私の場合、作品を解析したイメージの中にいずれかの組を作る。例えば、鴎外の歴史小説を分析して内から外への思考と外から内への思考という組を考える。これはAである。それから人間の信号の伝わり具合を想定して、この組み合わせに適した脳科学のポイントを探る。これはBである。そして最後に、動物一般が生得的に持っている本能のことをいう情動に近づいて行く。
 情動の起因には諸説があるが、その一例として内的要因(創発)と外的要因(誘発)が挙げられる。情動とは、例えば、喜怒哀楽に関する瞬時の思いである。また一方に、人間特有の感情といわれる人を敬う継続的な思いがある。鴎外の歴史小説を情動や尊敬の念といった感情を通して考察しながら、L字の調節によるシナジーのメタファーを考えてみよう。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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