世界保健機構(WHO)は健康について、1998年に「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることを言います」【日本WHO協会】と新たな定義を提唱しました。 これは、単に生命が長らえればいいというのではなく、その人が心身ともに良い状態を保ち、自律した社会生活を送れることを「健康」と考えるという、現代的な視点を示しています。 その流れを受けて、最近は高齢者の健康の指標として、これまでの平均寿命に代わって、「健康寿命」や「活動性平均余命」が注目されるようになっています。
健康寿命とは、高齢者が介護を必要とせず、自立した生活を送れる期間を指します。具体的には、平均寿命から介護や病気で寝たきりの器官を指し引いたものが、健康寿命です。
もう一つの「活動性系筋余命」は、にちじょう生活や社会生活を不自由なく遅れる活動性の高い期間を表したもので、健康寿命とほぼ同じ意味と考えていいでしょう。
つまり、長寿においても、平均寿命という生命の「長さ」ではなく、生命や生活の「質(内容)」が重要という認識にシフトしてきているわけです。
現在の日本人は平均寿命で見れば世界一を誇っていますが、平均寿命と健康寿命との間には、実は大きな隔たりがあります。 2010年時点での日本人の健康寿命は、男性70・42歳、女性73・62歳です。平均寿命との差を見ると男性で約9年、女性では約13年にも上ります。要するに、寝たきりや要介護状態など、自立した生活を送ることのできない「不健康期間」が平均で10年前後もあるわけです。
確かに平均寿命は延びたけれども、その分だけ不健康な期間も長くなってしまったというのは、現代に日本が抱える大きな課題です。
なぜ平均寿命と健康寿命にこれほど差ができるのでしょうか。そこには、高齢期に特有の問題があります。 健康寿命を縮めてしまう原因の一つは、病気の後遺症です。中でも多いのは、脳梗塞や脳出血、クモ膜下出血といった脳卒中の後遺症から、歩行や会話が難しくなり、活動性がガクンと落ちてしまうケースです。思うように体を動かせなくなると、はじめは車椅子生活になり、やがて徐々に寝たきりへと移行していきます。また心臓疾患などで長期の入院治療を行ううちに体力が落ちたり、認知症を発症したりして、自立した生活が困難になる人も少なくありません。また、高齢になると筋力やバランス能力が衰えたり、ほねがスッカスカになってもろくなる骨粗しょう症を発症したりしやすくなります。すると転倒や骨折が多くなり、それを気に寝たきりになるケースも少なくありません。
厚生労働省の国民生活基礎調査(平成22年度)によると、65歳以上の要介護(ほぼ寝たきり)の直接原因の第一位は、脳卒中(24・1%)です。それに次ぐ2位が認知症(20・5%)で以降は、3位が高齢による衰弱・老衰(13・1%)4位骨折・転倒(9.3%)5位関節疾患(7・4%)となっています。 「要支援」の原因別データでは、関節疾患(19・4%)高齢による衰弱・老衰(15.2%)脳卒中(15・1%)骨折・転倒(12・7%)認知症(3・7%)の順となっており、脳卒中と骨折・転倒、関節疾患などの整形外科疾患が、要介護や要支援の原因として圧倒的に多いことがわかります。
不健康な期間が相対的に長くなってしまう原因には、医療の発達も関係しています。寝たきりになった後も高度な医療や手厚い介護によって,長い期間ベッドの上で老年期の時間を過ごす人が大勢いるのです。日本では戦後、国を挙げて国民の生命を守り、平均寿命を延ばそうと一心に努力が続けられてきましたが、高齢者の生活の質【QOL/クオリテイ・オブ・ライフ=生活の質】という視点はほとんど顧みられることがなく、置き去りにされてきた観があります。その結果が、寿命が長いけれども「不健康期間」の長いという今の状況なのです。
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