2004年より開始した大阪ガスとの産学連携研究では、最初にさまざまな調理を行っているときの前頭前野の活動の計測実験を行いました。脳活動の測定には、光トポグラフイーと呼ばれる装置を使いました。この装置の開発は日本で始まり、現在も日本の技術が最も進んでいます。光トポグラフィー装置では、近赤外光を頭皮上から脳に向かって照らし、その光が脳内には行った後に反射して戻ってくる光を計測することによって、主に大脳表面の活動を測定することができます。
近年、私たちは化学技術振興機構「先端計測分析技術・機器開発」の研究として、(株)日立製作所と共同で超小型(重量約100グラム)の装置の開発に成功しました。こうした装置を使うことで、普段の生活の中で人間の脳活動の情報を評価し、それをさまざまな形で利用できる社会がすぐそこまで来ています。
調理と前頭前野の関係は医学の世界では比較的古くからしわれていて、病気で大脳右半球の前頭前野が損傷を受けた場合に、調理ができなくなることが報告されていました。また認知症介護の現場でも、認知症が進んでいくと調理がうまくできなくなり、結果として自分で食事の支度がなくなることは知られています。
脳損傷の場合でも、調理ができなくなる主な理由は、調理の手順がわからなくなることです。
作業の手順を思い浮かべ、作業を行うのは、背外側前頭前野の中核的機能である作動記憶という記憶力を昼用とします。
調理ができなくなることの障害は、作動記憶のトラブルと考えられており、逆に調理を積極的に行うということは、作動記憶を積極的に使い、その力を増す効果があるのではないかと考えました。
大人を対象として、様々な調理を行っているときの背外側前頭前野の活動を計測した結果、全般に大脳右半球のほうがより強い傾向がみられたものの、ほとんどの調理の過程で左右両側半球の背外側前頭前野に強い活動が表れました。しかし、皮むき器を使って果物ややさいのかわをむくときには、背外側前頭前野がほとんど活動しませんでした。一方、包丁を使って皮をむくと背外側前頭前野に強い活動が認められます。
手先の細かい運動と作業の「易しさ」の双方が影響したと考えられます。手順とはすなわち作戦とも考えることができますので、何も考えずにさっとできてしまう行為では、脳が働かないのです。
面白いことに、ハンバーグの種をこねているときには、背外側前頭前野はテレビを見ているときと同じように抑制がかかりました。人によっては違うのでしょうが、私はこうした柔らかなものを無心で子猫根しているときは、なんとなく気持ちはよく安らぐので、このデータは納得しています。
様々な調理をしているときの脳活動に興味ある方は、「脳を鍛える大人の料理ドリル」(くもん出版2005年版)に詳しく書いてありますので参照してください。
子どもを対象とした計測でも、大人とまったく同様に、ほとんどの調理の過程で背外側前頭前野が強く働くことがわかりました。全般的に、子どもたちのほうが前頭前野が働く傾向が強く、特に火を使う調理を行うと背外側前頭前野の活動が顕著になることもわかりました。火を利用することができるのは人間だけです。
そこから考えると、ほかの動物と違い、すなわち発達した前頭前野が火を扱う能力と直結しているのではないかと考えます。キャンプファイヤーなど、火を見つめていると気分が高揚シタリ、菱木な気持ちになったりするのは、皆さんも感じていたのではないでしょうか? 比や炎が人間の心にどのような影響を及ぼすのか、いつか脳科学の側面から研究してみたいテーマです。
親子で調理をしているときの実験では、調理の過程をビデオに記録しておき、後から背外側前頭前野に活動都庁りちゅの行動の関係の分析を行いました。そうしたところ、調理中に親が子供に褒める声掛け、例えば「上手にできたね!」をしたときに、非常に強い脳活動が前頭前野全体に表れることを発見しました。この活動は、面白いことに子供が作業を終えた瞬間の声掛けでのみ観察され、時間を空けてしまうと現われません。 子供が何かをしたときに、すぐにその場でみとめて褒める声掛けをすると子供の意欲を延ばすことは、即時フィードバック効果とし教育の世界では知られています。この脳活動のデータは、即時フィードバック効果を説明するものです。<
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