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2023年09月13日

王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える9

4 まとめ    
 
 王安憶の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「小鮑包」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で止めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。  
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人6対4、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。


参考文献

片野善夫 ほすぴ189号 ヘルスケア出版 2022
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019  
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学へのアプローチを考える 中国日語教学研究会上海分会論文集 2021
谌容 谌容集 海峡文艺出版社 1986 
谌容 北京の女医−人、中年に至れば(田村年紀訳)第三文明社 1984
谌容 Wikipedia 
看護師の用語辞典

王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える8

表3 情報の認知  

A 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
B 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
C 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
D 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
E 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1

A:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。    
B:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。  
C:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。  
D:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。  
E:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。        
 
結果      
 仁義の村鲍庄を舞台にした小英雄捞查を愛し村で一番高い碑文つきの墓を建てる物語。主役は、金持ちを敬わず権勢を恐れることなく仁義を大切にしてきた村人たちである。その一例として、記者の取材からも分かるように、人助けで死んでしまった捞查について皆が語り継げるような工夫があるため、購読脳の「仁義と多数の主役たち」から執筆脳の「観察者と原点」という組を引き出すことができる。 

花村嘉英(2022)「王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える」より 

王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える7

【連想分析2】 
 
情報の認知1(感覚情報)   
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。 
  
情報の認知2(記憶と学習)   
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。 
 
情報の認知3(計画、問題解決、推論)   
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2022)「王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える」より

王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える6

分析例 
 
1 捞查を探しあて引き上げるとすでに息を引き取っていた。     
2 この小論では、「小鮑包」の購読脳を「仁義と多数の主役たち」と考えているため、意味3の思考の流れ、仁義に注目する。    
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3仁義@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし、人工知能 @観察者A原点。 

テキスト共生の公式       
  
ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「仁義と多数の主役たち」を作る。 
ステップ2:水に飛び込んで捞查を引き上げた。しかし、すでに息を引き取っていた。村に変えると村人も母親も泣けば気が休まるとし、執筆脳の「観察者と原点」と組になるため、解析の組と相互に作用する。 
 
A:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@観察者とA原点という組と合わせる。   
B:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@観察者とA原点という組と合わせる。  
C:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@観察者とA原点という組と合わせる。  
D:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@観察者とA原点という組と合わせる。  
E:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@観察者とA原点という組と合わせる。    
 
結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。 

花村嘉英(2022)「王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える」より

王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える5

【連想分析1】  

表2 受容と共生のイメージ合わせ 

捞查を探しあて引き上げる場面

A 前边白茫茫的地方,有一丛乱草,草上趴着个人影。几条筏子一齐划过去。划到眼前,才看清,那是庄东最高的大柳树梢梢,上面趴着的是鲍五爷手指着树下喃喃地说;捞查,捞查!树下是水,水边是鲍山,鲍山阴沉着。
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

B 男人们脱去衣服,一个接一个跳下了水。一个猛子扎下去,再上来,空着手,吸一口气,再下去,,,足足有一时辰。最后,拾来一个猛子下去了好久,上来,来下及说话,大口喘着气,又下去,又是好久,上来了,手里抱着个东西,游到近处才看见,是捞查。筏子上的人七手八脚把拾来拽了上来,把捞查放平,捞查早已没气了,眼睛闭着,嘴角却翘着,象是还在笑,再回头一着,鲍五爷趴再筏子上早咽气了。
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

C 筏子上比来时多了一老一小,都是不会说活的。筏子慢慢地划出庄子,十来个水淋淋的男人抬着筏子刚一露头,人们就呼啦地围上了。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

D 一老一小静静地躺在筏子上,脸上的表情都十分安详,睡着了似的。那老的眉眼舒展开了,打社会子死,庄上人没再见过他这么舒眉展眼的模样。那小的办是非常恬静,比活着时脸上还多了点红晕。
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

E 鲍彦山家里的瞪着眼,一字不出。大家围着她,劝她哭,哭出来就好了。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

花村嘉英(2022)「王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える」より

王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える4

【データベースの作成】  
 
表1 「小鮑包」のデータベースのカラム

文法1  態  能動、受動、使役
文法2  時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形
文法3  様相 可能、推量、義務、必然
意味1   五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚
意味2   喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。 
意味3   思考の流れ  実現ありなし 。
意味4  振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。 
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の接点。購読脳「仁義と多数の主役たち」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。 
情報の認知1  感覚情報の捉え方  感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。
情報の認知2  記憶と学習  外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。その際、未知の情報については、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期を考える。 
情報の認知3  計画、問題解決、推論  受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。 
人工知能 観察者と原点 エキスパートシステム 観察者とは、ものごとの事態を注意して詳しく見る(見極め)こと、原点とは、基準になる点のこと。 

花村嘉英(2022)「王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える」より

王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える3

3 データベースの作成・分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。 

花村嘉英(2022)「王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える」より

王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える2

2 「小鮑包」でLのストーリーを考える 

 王安憶(1954−)は、南京に生まれ上海で育ち、母も作家で父も演劇活動に従事していた。1969年に上海の中学を卒業し翌年母の反対を押し切り安徽省宿県に下郷した。しかし、1975年に農村の脱出を図り文工団の演劇に参加した。文革(1976)が終わりを告げた翌々年に上海に戻り、児童向けの雑誌の編集に携わる。児童文学の作品を発表し、中国作家協会上海分会に加入した。北京の文学講習所にも参加する。
 「小鮑包」は1985年に発表された。母親と短期間米国に滞在し帰国した王安憶は、異文化の影響もあり心の変動から中国について書くことを選んだ。都会の青年や青春もさることかつての下郷から農村についてイメージした。その際、客観性を上げるために村の外から村人たちを観察した。佐伯(1989)は、特定の主人公がいるわけでもなく、鮑庄村の仁義こそがヒロインであるとしている。先祖代々、皆金持ちを敬わず権勢を恐れることがなかった。しかし、仁義だけは大切にしてきた。
 全村人が同姓で悪人はおらず善人ばかりである。例えば、死産を繰り返す女の悪口は言わない。むごい仕打ちだからである。また、毎年洪水があり、ある年外界から得体の知れない力がかかり、村は見渡す限りの大湖になった。大変動である。子供にしてよくできた鮑彦山の七番目の末息子捞查は、大洪水の際、先に木に登っていたら死ななかった。先に逃げていたら助かった。しかし、身寄りのない年寄り鮑五爺を助けようとして死んでしまう。この話を聞きつけた村では、葬式の際二百人が隊列に並んだ。 
 子供にして仁義である。大人はどうか。皆で捞查のために墓を建てることになった。こうした話は広まるもので、作家志望の鮑仁文が捞查について放送用の原稿を書く。捞查は、毎日放課後豚の草刈りが済むと机にかじりついて宿題を書いていた。冬手が凍えても、夏蚊にかまれても書いていた。毎日毎日書いていた。
 取材に来た県の女性記者も捞查が喧嘩一つしなかったことを村の仁義の一例として書き留めた。残念ながら遺品がすべて焼却され残っていない。県の新聞に「小英雄鮑仁平の記」という題で記事が載った。写真はなくとも肖像画があった。捞查の棺は、水辺から村の広場に移され、数段の石段の上に大きな墓を築き、レンガを積み高い石碑を建て碑文も添えられた。鮑庄村で一番高いのは柳の木ではなくこの石碑になった。
 ここに王安憶の原点を見ることができる。つまり客観性が大きく上がっている。作家の頭の使いようとして執筆脳を考える一例になる。そこで「小鮑包」の購読脳は「仁義と多数の主役たち」にし、執筆脳は「観察者と原点」とする。「小鮑包」は、王安憶の原点だからである。シナジーのメタファーは、「王安憶と基準」にする。 

花村嘉英(2022)「王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える」より

王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える1

1 はじめに

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。言語の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 なお、メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと文理共生からなるクラウドからの社会学とを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。
この種の分析は、作者の執筆脳を予測するためのものである。ここでの分析が大きな人工知能の入力となり、AIの出力が作家の執筆脳と認識されれば、シナジーのメタファーが将来的にはサイエンスと呼ばれるようになっていく。

花村嘉英(2022)「王安憶の「小鮑包」で執筆脳を考える」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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