雑多な社会記録にちょっとした雑学 〜あなたの知識を1mg増やすブログ〜

そもそも「脳の老化」とは、ヒトにどってどんな現象なのでしょうか。

医学の世界では、老化のことを「廃用性萎縮（はいようせいいしゅく）」という言葉で説明することがあります。これは、安静にしすぎたり、カラダや脳の活動が不足したりすることによる心身の衰えのことです。

心や体躯に限らず、ふだんから脳も使わないと、私たちの脳はその状態に安住し、一種の「スリープ状態」に入ってしまいます。パターン化されたことや、ルーティンワークしかできない状態になってしまうのです。

■注意すべき「脳のスリープ状態」

毎日の生活のなかでなんらかの刺激を受けると、私たちの脳内ではドーパミンという神経伝達物質が分泌されます。快感や多幸感をもたらすドーパミンからはノルアドレナリンが合成され、このノルアドレナリンが分泌されると脳が覚醒し、意欲や興味関心といった情動を高めます。

これらの神経伝達物質の分泌にともなって、セロトニンも分泌され、ドーパミンやノルアドレナリンが暴走しすぎないよう作用します。

セロトニンは心の落ち着きと精神的な安定をもたらす神経伝達物質。これらの脳内ホルモンが、私たちの情動にメリハリをつけ、日々に活力を与えてくれているのです。

逆に言うと、ルーティンワークばかりで刺激のない毎日を送っていると、脳内の神経伝達物質の分泌が省エネモードになってしまいます。

いわば「脳のスリープ状態」です。脳がスリープ状態になると、脳にとってはエネルギーを消費せずに済むので、その状態に安住しようとしてしまいます。脳は刺激を受けて活発に動くことを好むいっぽうで、サボることも大好きなのです。こうして脳がスリープ状態に入ると、脳内で使われなくなるネットワークが増え、脳は全体として機能低下します。結果として脳内物質の分泌量も少なくなり、脳にとって負のサイクルが強化されてしまうのです。

■「刺激のない毎日」が脳機能の低下を促進する

認知症を発症してしまった患者さんの話を聞いていると、やはり刺激のない生活を送ってきた人が多いと感じます。具体的には、型にはまったことが好きで、自分の決めた日課以外の新しいことを始めたがらない人です。周囲への関心が低く、メディアからの情報に対しても受動的で、あまり刺激を求めないという傾向があります。

私のクリニックでは、認知症の進行を止める治療の一環として、まずは「なにか自分が本当に楽しめること」を見つけてもらいます。しかし、これが初めはなかなかできないのです。なにか楽しめることを探すことにも、気力が必要だからです。

意欲や興味関心を司る脳内物質であるノルアドレナリンが少ないと、いわゆる「気力がない状態になります。こういう脳の状態のまま歳を取ると、だんだん人に会うのも億劫になって、家にこもりがちになります。ますます人とコミュニケーションをとる機会がなくなり、刺激のない生活が強化され、さらに家から出ない生活に……と、脳にとって悪いサイクルが回り出してしまうのです。

しかし、なんとかして「好きなもの」を見つけてくれたらしめたもの。ここからは脳のスペックが好転していく第一歩です。

■「自分が楽しいと思えることをする」と脳は若返る

これは、脳の機能に問題がある患者さんに限った話ではありません。誰でも、好きなことや楽しいことに取り組めば、脳はその機能をフルに活動させて没頭します。このとき、私たちは集中力や好奇心、意欲が高まったゾーンに入っています。脳内では、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンがバランス良く分泌されています。

普段からこれらの脳内物質がバランス良く満たされている人は、認知機能も高まりやすく、脳のコンディションもいつも最適な状態で、さまざまな能力を発揮することができる状態が続きます。脳の老化予防はもちろん、脳のスペックを高めることにもつながるのです。

■まとめ

脳を若返らせる最高の方法とは、自分にとって楽しいことを発見することです。どうか、まだまだ続くあなたの人生を、存分に楽しみながら過ごしてほしいと切に願っています。