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2020年01月24日

映画「ネバダ ・スミス」 マックィーンの魅力満載 復讐物西部劇の傑作

「ネバダ・スミス」(Nevada Smith)
 1966年 アメリカ

監督ヘンリー・ハサウェイ
原作ハロルド・ロビンズ
脚本ジョン・マイケル・ヘイズ
音楽アルフレッド・ニューマン
撮影ルシアン・バラード

〈キャスト〉
スティーブ・マックィーン カール・マルデン
ブライアン・キース アーサー・ケネディ
スザンヌ・プレシェット マーティン・ランドー
ラフ・ヴァローネ

三人の無法者に両親を惨殺された青年の復讐劇。

個人的には、人間の持つドロドロした内面が強調される復讐物はあまり好きではないのですが、この「ネバダ・スミス」は監督が「ナイアガラ」や「死の接吻」、「勇気ある追跡」の名匠ヘンリー・ハサウェイによるところが大きいのでしょう、ドロドロした怨念のドラマというよりは、男性的でカラッとした骨太いタッチの物語で、スティーブ・マックィーンの魅力、そして、主人公マックスの人間的成長のドラマでもあるところから、より大きなスケールを持つ西部劇の傑作といえます。

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アメリカ南西部ネバダ州。
ある日、マックス・サンド(スティーブ・マックィーン)は三人の男たちに尋ねられます。
「サンドって男を探しているんだが」
「親父だ」
「おれは古い友人でジェシーっていうんだが、家はどっちだい?」
マックスは男たちに家への道を教えます。
「ありがとう」男は言います。「お前の名前は?」
「マックス」
「ありがとう、マックス」
男たちはマックスの教えた方向へ馬を向け、走り去ってゆきますが、なんとなく不安に駆られたマックスは家へと取って返します。

マックスの悪い予感は的中して、両親は無残な殺され方をしていました。
両親の死体と共に家を燃やしたマックスは、ひとり、復讐の旅に出ます。

荒野をゆくマックスは三人組の男たちに出会い、両親の仇として襲いかかりますが、まったくの人違いであることが判り、三人の男たちは乱暴を働いたマックスを責めることなく、あたたかくもてなし、食事を提供してくれます。

翌朝、目が覚めるとマックスはひとり。
三人組はマックスの銃や馬を盗んで立ち去っていました。

途方に暮れたマックスは、川で馬を休ませている銃商人のジョナス・コード(ブライアン・キース)を見つけ、壊れかけた銃でジョナスをおどして馬を得ようとしますが、使えない銃であることを簡単に見破ったジョナスは、マックスの身の上を聞き、復讐をするつもりなら銃を扱えるようになることなどを教え始めます。

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ジョナス・コードとの出会いがマックスにガンマンとしての成長をもたらすのですが、このジョナス・コードを演じたのが「ザ・ヤクザ」(1974年)、「風とライオン」(1975年)で風格ある演技を見せたブライアン・キース。

復讐の旅への途中で様々な人々との出会いがマックスに人間形成を与えていくことになり、その中で最初の一人となるのがジョナス・コードで、「ネバダ・スミス」の中で重要な一人となります。

やがてマックスは、三人組の一人であるジェシー(マーティン・ランドー)を酒場で見つけ、ナイフで倒すことになります。
柵を飛び越えながらジェシーを追い詰めてゆくマックィーンは実に見事で、「ネバダ・スミス」のひとつの見どころです。

さらに、ジェシーの妻から仲間の一人ビル・ボードリー(アーサー・ケネディ)がルイジアナの刑務所で服役していることを知ったマックスは、自らも服役するべく銀行強盗を働いてワザと捕まり、ビルのいるルイジアナの刑務所へ送られることになります。




復讐のためには手段を選ばないマックスの行動は突飛とも見えますが、これを淡々と遂行していくところがスティーブ・マックィーンの魅力。

広大な沼地に作られた刑務所はワニや毒蛇がウジャウジャと潜んでいる危険地帯。
脱走不可能な刑務所から、土地の娘ピラー(スザンヌ・プレシェット)の助けを借りて、一度脱走に失敗しているビルをそそのかして、ビルとピラーを加えた三人で脱走を図る場面は最大の見どころといってもよく、脱走の途中でビルを殺したマックスでしたが、新しい人生を夢見て脱走に加わったピラーは毒蛇に噛まれてしまいます。

徐々に体に毒が回り始めたピラーは死ぬ間際に、自分がマックスに利用されただけであることを知り、湿った密林の土に横たわりながらマックスを激しく罵り、やがて死を迎えます。

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脱走に成功したマックスは、三人組のボスであるトム・フィッチ(カール・マルデン)を探し求めますが、ならず者に捕まり、危うく殺されそうになるところを、偶然居合わせたザッカルディ神父(ラフ・ヴァローネ)に救われます。

ザッカルディ神父のもとで体の回復を待つ間、ザッカルディから復讐の無益さを諭(さと)されたマックスは、はじめは反発していましたが、やがて聖書に親しむようになり、内面的な成長を遂げるようになります。

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ザッカルディのもとを去ったマックスは、強盗団のボスとして駅馬車強盗を計画しているトム・フィッチを突き止め、正体を隠してその一味に加わり、駅馬車襲撃の後、トムを川岸へと追い詰めていきます。

トムの足を銃撃し、とどめを刺そうとしたマックスでしたが、ジェシーやビルを殺したころのマックスはすでに過去の人間となり、「殺せ!」と叫ぶトム・フィッチの声を聞き、何かがマックスの内面で動き出していました。

川へ銃を投げ捨てたマックスは、トムの叫びを聞きながら静かに去ってゆくのです。

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映画「ネバダ・スミス」はスティーブ・マックィーンの魅力満載の映画なのですが、最初にマックスに銃の扱い方などを教えるジョナス・コードのブライアン・キースを始めとして、名優、名脇役がそれぞれの役どころでしっかりと脇を固めています。

三人組の一人で最初に殺されるジェシーのマーティン・ランドーは「北北西に進路を取れ」(1959年)の悪役から、大作「クレオパトラ」(1963年)ではマーク・アントニーの片腕ルフィオを演じ、大きな存在感を見せました。

また、新天地での夢を追い求めながらも、マックスに利用され、毒蛇に噛まれて命を落とすピラーに「恋愛専科」(1962年)、「鳥」(1963年)の美人女優スザンヌ・プレシェット。

脱走不可能なルイジアナ刑務所の脱走に一度失敗して、気絶するまで鞭打ちされながら、マックスにそそのかされて再び脱走に加わり、結局マックスに殺される、悪党になりきれないビル・ボードリーに「アラビアのロレンス」(1962年)、「シャイアン」(1964年)、「ミクロの決死圏」(1966年)の名脇役アーサー・ケネディ。

三人組の首領トム・フィッチに「影なき殺人」(1947年)、「波止場」(1954年)、1951年の「欲望という名の電車」ではアカデミー助演男優賞を受賞している名優カール・マルデン。

さらに、復讐は愚行であることを説き、マックスの人間形成に大きな役割を果たすザッカルディ神父に、フランス映画の名作「嘆きのテレーズ」(1953年)のラフ・ヴァローネ。
イタリア人のヴァローネは「ふたりの女」(1960年)などを経てハリウッドに進出し、「ゴッドファーザーPARTV」(1990年)にも出演。

監督のヘンリー・ハサウェイは「アラスカ魂」(1960年)、「西部開拓史」(1962年)、「エルダー兄弟」(1965年)と立て続けに西部劇の大作でヒットを飛ばして波に乗っていて、まさに円熟期。

そして忘れてならないのは、「怒りの葡萄」(1940年)、「わが谷は緑なりき」(1941年)の名作を始めとして、「ショウほど素敵な商売はない」(1954年)、「七年目の浮気」(1955年)、「王様と私」(1956年)など数々の映画音楽を手がけた作曲家アルフレッド・ニューマン。
特に1955年の「慕情」の主題歌は映画音楽の素晴らしい名曲。

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テレビシリーズ「拳銃無宿」や「荒野の七人」(1960年)で軽快なフットワークとガンさばきを見せ、30代半ばに達していたマックィーンが、銃の扱いも満足にできない若造役というのもちょっと無理があったようにも思いますが、映画中盤から後半にかけては、まさに面目躍如、絶叫するカール・マルデンを残して立ち去るラストも胸に残る傑作です。

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posted by kafkas at 10:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 西部劇

2020年01月12日

映画「狼よさらば」−犯罪者への怒りと憎しみ バイオレンス映画の傑作

「狼よさらば」(Death Wish)
 1974年 アメリカ

監督マイケル・ウィナー
原作ブライアン・ガーフィールド
脚本ウェンデル・メイズ
撮影アーサー・J・オニッツ
音楽ハービー・ハンコック

〈キャスト〉
チャールズ・ブロンソン ホープ・ラング
ヴィンセント・ガーディニア

暴力はいつ、どんなかたちで私たちに襲いかかるものであるか分かりません。
もし、その暴力が愛する家族に向けられたものであったとしたら…。

「狼よさらば」はアクション映画というかたちを取りながら、一般市民であるひとりの男を通して、暴力や犯罪に対する法治国家の限界、銃社会アメリカの背景などを力強く、軽快なタッチで描き出していきます。

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ニューヨークで暮らすポール・カージー(チャールズ・ブロンソン)は土地開発を業務とする会社で設計士として働いています。

愛する妻のジョアンナ(ホープ・ラング)と二人暮らしのポールですが、その日は、嫁いでいた娘のキャロル(キャスリーン・トーラン)が自宅に帰っていて、近くのスーパーまで買い物に出かけたキャロルとジョアンナは、三人組のチンピラに目をつけられます。

自宅に戻った二人でしたが、スーパーの配達業者を装った三人組に押し入られ、ジョアンナは凌辱され、キャロルは暴行を受けます。

娘婿ジャック(スティーブン・キーツ)からの知らせを受けたポールは病院へ駆けつけますが、妻のジョアンナは死亡、娘のキャロルは暴行によるショックで精神を病んでしまいます。

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精神的な衝撃の大きかったポールですが、仕事に対する意欲は萎えることなく、土地開発業者ジェインチル(スチュアート・マーゴリン)の依頼でアリゾナのツーソンへ出張したポールは、西部劇ショーでの西部開拓時代の自警団の認識を深め、さらにジェインチルがガンマニアでもあったことから、人を殺傷することのできる銃の存在に惹きつけられることになります。

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妻を殺され、娘を廃人同様にした犯罪者への激しい怒りを胸に秘め、ニューヨークへ戻ったポール・カージーは犯罪者を誘うべく夜の街をうろつき、ひとり、またひとりと犯罪者を処刑してゆくことになります。

もちろん警察はそんな処刑人を見過ごすはずがなく、捜査を担当したフランク・オチョア警部(ヴィンセント・ガーディニア)はポールを次第に追い詰めてゆきますが、凶悪な強盗が次々と殺されていくことでニューヨークの犯罪件数が劇的に減り、世論がポール支持に傾いていることを憂慮した警察は、ポールを街から追放することで事件の解決を図ろうとします。

ニューヨークを離れ、シカゴで人生の再出発を迎えようとしたポールでしたが、駅の構内で高齢の女性がチンピラにからまれている現場に遭遇。
処刑人ポール・カージーの闇の人間性が目覚めてゆくことになります。




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監督は「チャトズ・ランド」(1972年)、「メカニック」(1972年)などでチャールズ・ブロンソンと組むことの多いマイケル・ウィナー。
アラン・ドロンを主演に迎えた「スコルピオ」(1973年)などでも軽快なアクション映画の持ち味を存分に発揮。
「狼よさらば」の続編「ロサンゼルス」(1982年)、「スーパー・マグナム」(1985年)などにも監督として手腕を発揮しましたが、アクション映画だけではなく、「妖精たちの森」(1971年)のような文学的な作品もモノにしている70年代を代表する監督といえます。

主役のポール・カージーにチャールズ・ブロンソン。
ブロンソンの出演作は数多くありますが、代表作は何と言ってもアラン・ドロンと共演した「さらば友よ」(1968年)でしょう。
それまでは「荒野の七人」(1960年)、「大脱走」(1963年)、「バルジ大作戦」(1965年)などで中堅の渋い脇役として存在感はありましたが、「さらば友よ」ではトレードマークの口ひげをたくわえ、軽快で優雅な身ごなしと、鍛え上げた肉体、数々の戦場を渡り歩いた傭兵という役どころの男性的魅力は主役のアラン・ドロンを圧倒。
男性だけでなく、女性ファンの心もつかみ、世界的大スターへと駆け上がることになります。

余談としては、
現在の「株式会社マンダム」の前身である「丹頂化粧品」が経営の危機に瀕し、起死回生の策として、新製品「マンダム」の売り込みに当時人気絶頂のチャールズ・ブロンソンをテレビCMに起用。
ブロンソンのイメージと化粧品という組み合わせは水と油を思わせましたが、ブロンソンの男くさい魅力を前面に押し出したCMは見事に功を奏し、「ウ〜ン、マンダム」のセリフは日本中を席捲。
さらに、中堅のカントリー歌手ジェリー・ウォレスが歌ったマンダムのCMソング「マンダム〜男の世界」は160万枚を売り上げる大ヒット。

経営の危機を脱した丹頂は社名を「マンダム」に変えたのはよく知られた話。

「狼よさらば」にはチャールズ・ブロンソンの他にはあまり知られた俳優は出てきませんが、のちに「ザ・フライ」(1986年)での主役をキッカケとして「ジュラシック・パーク」(1993年)で大きな存在感を見せたジェフ・ゴールドブラムが三人組のチンピラの一人として登場しているのも面白いところ。

また、独特の容貌と話し方の個性的なフランク・オチョア警部を演じたヴィンセント・ガーディニアは「月の輝く夜に」(1987年)では名演技を披露。
その年のアカデミー助演男優賞にノミネートされています。

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それまでタフな男の役どころの多かったブロンソンが一転。
偶然出会った強盗にコインの詰まった靴下で応酬し、部屋へ逃げかえって、震える手でウイスキーをあおる場面など、暴力弱者の一市民が徐々に処刑人に変貌してゆく姿を好演。
ブロンソンには珍しいシリーズ物となりました。

家族を襲ったチンピラに対する復讐というより、犯罪者そのものを憎み、アメリカ社会に強く根付く“自警”を描いたと映画といえます。

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