2022年07月20日
まわりからわかってもらえない原因不明の病気「線維筋痛症」
「あちこち痛い」「眠れない」…まわりからわかってもらえない原因不明の病気「線維筋痛症」
2022/07/15 05:20ヨミドクター(読売新聞)
「あちこち痛い」「眠れない」…まわりからわかってもらえない原因不明の病気「線維筋痛症」
(ヨミドクター(読売新聞))
Wさん(39歳、女性)は「5年前から、身体のあちこちが痛くって、だるくて、眠れないんです。ネットで線維筋痛症のことを知って」として、私の外来を受診された。
線維筋痛症(fibromyalgia:FM)とは、慢性的な全身の痛み(痛む部位を押さえると特徴的な圧痛がある)とこわばりに加えて、 倦怠けんたい 感、睡眠障害、「過敏性腸症候群」「過活動 膀胱ぼうこう 」「逆流性食道炎」「ドライアイ」「ドライマウス」などを随伴する病気である。微熱を伴うこともあり、女性の患者さんでは「間質性膀胱炎」の合併が報告されている。さらには「天気痛」としての側面も持ち、特に梅雨時に症状が増悪すると考えられている。重症例では、爪を切る際のわずかな振動が刺激となって痛みを引き起こしてしまうこともある。その病像は複雑であり、診断、治療に関するエビデンスが十分には蓄積されていないことから、医療者側でも認識度は低い。
わが国でも推定患者200万人
「あちこちが痛い」「眠れない」…まわりからわかってもらえない原因不明の病気「線維筋痛症」
欧米では、人口の約2%の方がこのFMに苦しんでいるとするデータがある。わが国では、患者数は人口の約1.7%(200万人)と推定されている。中年女性に発症することが多い。
パトグラフィー(病跡学)の本をひもといてみると、「人間喜劇」の連作を書き続けていたころのバルザック、多額の負債を抱えていたころの画家エドガ−・ドガなどがFMに苦しんでいたとされている。
全身に痛みがある場合には、まず「関節リウマチ」が疑われるが、このFMでは血液検査、レントゲンで異常がみられることはなく、筋電図や筋肉の酵素にも問題点はみつからない。したがって、現時点ではその原因は不明であり、「自律神経失調症」「更年期障害」などとして片付けてしまわれることもあるようだ。多くの患者さんがドクターショッピングを繰り返しておられるのが現状である。
周囲から理解されない
線維筋痛症の発症には心因性の要素が大きく関与していることは事実だろう。この点を裏付けるように、患者さんの多くが発症時に過労、何らかのトラブルによるストレス(対人関係や家庭内での)を抱えていたとするデータがある。さらには痛みがあるものの、診断に至る客観的証拠が存在しないことから、社会や周囲の人達から理解されない。こうしたことの積み重ねが病状を進行させ、ストレスを増幅し精神的に追い詰めてしまうのである。
本症に関する概念は古く、1900年代初頭には「結合織炎」であるととらえられていた。その後、1990年には米国リウマチ学会が診断基準を策定し、さらに2010年には新たな基準を発表した。この新基準では広範囲 疼痛とうつう 指数(wide−spread pain indexと呼ぶ)と、疲労感などの身体症候重症度(symptom severity)の合計ポイントを基準としている。しかし、これらのポイントは患者さんの主観によるものであり、客観的評価とは言えない。なお、広範囲疼痛指数とは単なる圧痛点(押すと痛みを感じる場所)を指しており、ほかの病気で見られる疼痛誘発点(関連痛を生じる)とは明らかに異なっている。
診断にあたっては、他の病気を除外しておくことが出発点となる。前述の関節リウマチをはじめ「シェーグレン症候群」「脊椎関節炎」「リウマチ性多発筋痛症」「皮膚筋炎」「多発性筋炎」、加えて「心身症」などの心療内科的疾患である。
治療法は確立されていないが、筋肉内に硬結(病的に固くなった箇所、東洋医学でいうツボに一致することが多い)があり、同部に圧痛点を有することから、私の施設では局所注射(局所麻酔薬を用いる)を第1選択としている。Wさんにも局所注射を繰り返して行ったところ、「痛い箇所が減少し、痛みの程度も軽くなった」とのことである。
ストレス抱え込むタイプ多い
わずかな刺激でも強い痛みとして感じてしまう中枢神経系の異常(痛覚 域値いきち の低下)が関与していると考えられることから、抗うつ薬が広く用いられてきたが、2012年には神経障害性疼痛の治療薬であるプレガバリン(リリカ)、2015年には抗うつ薬の仲間であるデュロキセチン(サインバルタ)が保険適用の対象となった。はり治療や、「 柴さい苓れい湯とう 」、「 桂けい枝し加か竜りゅう骨こつ牡ぼ蛎れい湯とう 」などの漢方薬の投与も効果的である。ドイツの外科医バウアーは、筋肉内の硬結の外科的切除を勧めているが、多くの硬結が 腱けん の起始部に存在することから安易に行うべきではないだろう。
ストレスを抱え込んでしまうタイプの患者さんが多いことからも、軽い運動を心がけ、リラックスすることが重要である。家族の精神的サポートが必要なことは言うまでもない。心療内科や精神科でのカウンセリングも有用なことがある。
患者さんの会である
NPO法人「線維筋痛症友の会」
が積極的な啓発活動を行っている。(森本昌宏 麻酔科医)
2022/07/15 05:20ヨミドクター(読売新聞)
「あちこち痛い」「眠れない」…まわりからわかってもらえない原因不明の病気「線維筋痛症」
(ヨミドクター(読売新聞))
Wさん(39歳、女性)は「5年前から、身体のあちこちが痛くって、だるくて、眠れないんです。ネットで線維筋痛症のことを知って」として、私の外来を受診された。
線維筋痛症(fibromyalgia:FM)とは、慢性的な全身の痛み(痛む部位を押さえると特徴的な圧痛がある)とこわばりに加えて、 倦怠けんたい 感、睡眠障害、「過敏性腸症候群」「過活動 膀胱ぼうこう 」「逆流性食道炎」「ドライアイ」「ドライマウス」などを随伴する病気である。微熱を伴うこともあり、女性の患者さんでは「間質性膀胱炎」の合併が報告されている。さらには「天気痛」としての側面も持ち、特に梅雨時に症状が増悪すると考えられている。重症例では、爪を切る際のわずかな振動が刺激となって痛みを引き起こしてしまうこともある。その病像は複雑であり、診断、治療に関するエビデンスが十分には蓄積されていないことから、医療者側でも認識度は低い。
わが国でも推定患者200万人
「あちこちが痛い」「眠れない」…まわりからわかってもらえない原因不明の病気「線維筋痛症」
欧米では、人口の約2%の方がこのFMに苦しんでいるとするデータがある。わが国では、患者数は人口の約1.7%(200万人)と推定されている。中年女性に発症することが多い。
パトグラフィー(病跡学)の本をひもといてみると、「人間喜劇」の連作を書き続けていたころのバルザック、多額の負債を抱えていたころの画家エドガ−・ドガなどがFMに苦しんでいたとされている。
全身に痛みがある場合には、まず「関節リウマチ」が疑われるが、このFMでは血液検査、レントゲンで異常がみられることはなく、筋電図や筋肉の酵素にも問題点はみつからない。したがって、現時点ではその原因は不明であり、「自律神経失調症」「更年期障害」などとして片付けてしまわれることもあるようだ。多くの患者さんがドクターショッピングを繰り返しておられるのが現状である。
周囲から理解されない
線維筋痛症の発症には心因性の要素が大きく関与していることは事実だろう。この点を裏付けるように、患者さんの多くが発症時に過労、何らかのトラブルによるストレス(対人関係や家庭内での)を抱えていたとするデータがある。さらには痛みがあるものの、診断に至る客観的証拠が存在しないことから、社会や周囲の人達から理解されない。こうしたことの積み重ねが病状を進行させ、ストレスを増幅し精神的に追い詰めてしまうのである。
本症に関する概念は古く、1900年代初頭には「結合織炎」であるととらえられていた。その後、1990年には米国リウマチ学会が診断基準を策定し、さらに2010年には新たな基準を発表した。この新基準では広範囲 疼痛とうつう 指数(wide−spread pain indexと呼ぶ)と、疲労感などの身体症候重症度(symptom severity)の合計ポイントを基準としている。しかし、これらのポイントは患者さんの主観によるものであり、客観的評価とは言えない。なお、広範囲疼痛指数とは単なる圧痛点(押すと痛みを感じる場所)を指しており、ほかの病気で見られる疼痛誘発点(関連痛を生じる)とは明らかに異なっている。
診断にあたっては、他の病気を除外しておくことが出発点となる。前述の関節リウマチをはじめ「シェーグレン症候群」「脊椎関節炎」「リウマチ性多発筋痛症」「皮膚筋炎」「多発性筋炎」、加えて「心身症」などの心療内科的疾患である。
治療法は確立されていないが、筋肉内に硬結(病的に固くなった箇所、東洋医学でいうツボに一致することが多い)があり、同部に圧痛点を有することから、私の施設では局所注射(局所麻酔薬を用いる)を第1選択としている。Wさんにも局所注射を繰り返して行ったところ、「痛い箇所が減少し、痛みの程度も軽くなった」とのことである。
ストレス抱え込むタイプ多い
わずかな刺激でも強い痛みとして感じてしまう中枢神経系の異常(痛覚 域値いきち の低下)が関与していると考えられることから、抗うつ薬が広く用いられてきたが、2012年には神経障害性疼痛の治療薬であるプレガバリン(リリカ)、2015年には抗うつ薬の仲間であるデュロキセチン(サインバルタ)が保険適用の対象となった。はり治療や、「 柴さい苓れい湯とう 」、「 桂けい枝し加か竜りゅう骨こつ牡ぼ蛎れい湯とう 」などの漢方薬の投与も効果的である。ドイツの外科医バウアーは、筋肉内の硬結の外科的切除を勧めているが、多くの硬結が 腱けん の起始部に存在することから安易に行うべきではないだろう。
ストレスを抱え込んでしまうタイプの患者さんが多いことからも、軽い運動を心がけ、リラックスすることが重要である。家族の精神的サポートが必要なことは言うまでもない。心療内科や精神科でのカウンセリングも有用なことがある。
患者さんの会である
NPO法人「線維筋痛症友の会」
が積極的な啓発活動を行っている。(森本昌宏 麻酔科医)
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