お預け 関連ツイート
あ、あと梅酒も漬けてある。』
梅酒もあるのか…!?
『独歩くんは明日早起きさんだから今日はお預けね。 一二三くん梅酒も持ってく?』(大きなタッパーが入った袋を渡しながら
はー!
夏休みは多少寝坊しても大丈夫という安心感から開始が遅くなってたし。
そう云う安心感があると気持ちにも余裕があって、行為も楽しめたりする。
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4.おしおきのお願い
天野が部屋から出て行くと、5人は同時に「ハァー」とため息をついて、その場にしゃがみ込んだ。
“あの人、怖すぎる。笑顔なのに目が笑ってない。”
“何を考えてるのか、まったく分からない。”
“絶対に逆らえない威厳がある。”
“お尻叩くのが好きな人じゃなくてよかった。”
“絶滅危惧種だ・・・。いや、天然記念物か?”
意味不明なことを考えているのは、もちろん遼太郎だ。
天野が立ち去り、一番ホッとしているのは慶だろう。
「オレからはもう何も言うことはない。とにかく、自分たちでよく話し合え。その結論も報告しなくていいし、もちろん謝罪もいらない。反省できたらそれでいいし、納得いかなければ仕方のないことだから。」
5人は、慶が投げやりになっているように感じた。
「もうこんな時間だ。腹減っただろ?先に昼ごはんにして、それから話し合ってくれ。夕方はバーベキューだから、みんなで最後の夜を楽しもうな。」
みんなの反応を確かめることなく、言うことだけ言って部屋から出て行ってしまった。残された5人が呆然と突っ立っていると、遼太郎のお腹が大きな音でグーッと鳴って、みんなの視線がそこに集まった。
「腹が減っては戦はできぬ!」
遼太郎が平然とした顔で言うと、少し遠慮がちな笑いが起こった。
昼ごはんは、手早くチャーハンを作った。ハム、玉ねぎ、卵をごはんと一緒に炒めて、しょう油で味付けをして、わかめスープを添えた。他のグループの人たちはとっくに昼食を済ませ、午後の活動に出かけていたので、調理場はひっそりとしていた。
いつもなら慶も合流して6人で食事をとるのに、今日は最後まで姿を現わさなかった。慶のために作ったチャーハンとスープは、ラップをかけて『慶さんの分』と付せんを貼り冷蔵庫に入れておいた。
調理場では誰一人として、さっきの話題には触れなかった。ここで軽々しく口にしてはいけない気がして、きちんとした形で話し合うべきだと思ったので、暗黙の了解でお預けとなった。ただみんなが琴羽のことを気遣って、
「琴羽は座ってていいから、何をすればいいか教えて。」
そう言うと、琴羽の指示に従って料理を作った。
片づけを済ませ部屋に戻ると、5人が輪になって座った。誰からともなく正座をして、全員が真剣な顔をつき合わせると、琴羽が真っ先に口を開いた。
「本当にごめんね。私のせいで大変なことになっちゃって・・・。」
美鈴「そうじゃないよ。私たちが自分のことしか考えられなくて、助け合うことを忘れちゃってたから。」
秋歩「みんなすごく焦ってたもんね。怒られちゃうから早くしないとって。」
遼太郎「気づいたときには、もうとっくに時間過ぎてたのにな。」
美鈴「そうだよね。だいたい頂上で昼寝なんてした時点でアウトだったんだよ。それほど時間があった訳じゃないのに、開放感がたまらなく嬉しくって、つい気が緩んじゃった。」
遼太郎「美鈴は出がけに叱られた分、余計癒されたかったんじゃないか?」
美鈴「うん。あのおいしい空気吸ってたら、嫌なこと吹っ飛んでったもん。それなのに、もっと怒られることになっちゃって・・・。」
秋歩「ああいうとき、もっと冷静に考えなきゃいけなかったよね。もう怒られるのは覚悟して、安全に下山していれば、琴羽もケガしなかっただろうし。」
星「僕がどんどん下りて来ちゃったから・・・。」
遼太郎「星おまえさっきから、それもう4回目だぞ。たまたまおまえが先頭歩いてたからそう思うんだろうけど、オレだったらもっとぶっ飛ばして、うしろのヤツなんて誰もついてこれなかったと思うぜ。」
琴羽「それで遼太郎が転んでケガしてたりしてね。」
美鈴「あり得る!自業自得って呆れられるヤツ。そうだっ遼太郎、何でさっきうそついたのよ!あんなこと言って、もしバレたらどうするのよ!」
遼太郎「わりーわりー。つい、出来心ってヤツで。」
頭をポリポリとかいて謝った。
遼太郎「でも慶さん、信じてたよな?大変だったなって同情してくれてたぜ。」
美鈴「慶さんはだませても、天野さんはエスパーみたいな人だから、要注意だと思うよ。」
遼太郎「そんなにすごいのか、あのオッサン。」
秋歩「ほらっ、地獄耳かもしれないから、悪口禁止!」
星「反省点は・・・。」
無口な星はずっとみんなの話を聞いていたが、なかなか本題に入らないのでちょっと言ってみると、そのひとことで軌道修正し、
秋歩「一番の原因は、頂上で寝過ごして時間が過ぎちゃったことだよね。」
美鈴「1人1人の自覚が足りなかったって思う。」
秋歩「うん。あとは下山するとき、みんな自分勝手だった。もっとまわりに目を向けて助け合うべきだったよね。琴羽が歩くのが遅いのは分かってたはずなのに、一番うしろにしちゃったし、気にしてあげることもしなかったし。」
美鈴「もう1つ大事なこと。遼太郎がうそついたのに、みんなそれに合わせて訂正しなかった。」
遼太郎「それは本当に悪かった。オレたち、慶さんにちゃんと謝らないといけないよな。」
星「僕たちのせいで何発もビンタされちゃって、すごく痛そうだった。それなのに、文句も言わないで謝ってた。僕だったら、「何で?」って絶対に思うのに。」
遼太郎「あれは強烈だったよな。天野さん、本気でひっぱたいてたぜ。オレあんなにボコボコにされたら、絶対チビっちゃう自信あるけどな。」
ちょっと白けた空気が漂ったが、遼太郎は気にしていないようだ。
星「慶さんは大人だから。」
琴羽「私たちと5才しか違わないのにね。」
秋歩「ねえ、私たちにもう謝らなくていいみたいなことを言ってたけど、それっておしおきもしないってことだよね?」
遼太郎「オレたちにおしおきしても全然反省しないから、無駄だって思ったんじゃないか?」
琴羽「私たち、見放されちゃったのかな?」
星「おしおきは嫌だけど、でもこのままギクシャクした関係になっちゃうのは、もっと嫌な気がする。」
秋歩「そうだよね。せっかく知り合えて、いろいろと面倒見てもらって、すごくいい人なのに。」
美鈴「うん。私たちのこと、嫌いにならないでほしい。バーベキュー、楽しくやりたい。」
星「どうしよう・・・。」
「答えは1つ!」
遼太郎が人差し指を高く掲げて立ち上がった。
「みんなで誠心誠意謝って、それから・・・。」
星「それから?」
遼太郎「オレたちのお尻を叩いてくださいってお願いするしかないだろ?」
いつものように、みんなから「えーっ!」と言われて冷たい眼差しを向けられると思っていたが、誰も反対する者はいなかった。
美鈴「でもさ、そんなことしなくていいって突き放されたらどうする?」
遼太郎「一生懸命お願いして、ケツ叩いてもらうしかないだろ?」
秋歩「あんなにお尻叩かれるの嫌だったのに、私たちおかしいね。」
遼太郎「まあ大人への階段を一歩ずつ登ってる感じだな!」
遼太郎が似つかわしくないことを口走るので、女子3人はプッと吹き出して、
「あんたって・・・。」
と笑われた。
でも星は何となく、遼太郎と同じようなことを考えていた。
“『おしおき』って痛い罰としてだけじゃなくて、ときには、もっと他の何かを伝えるための有効的な手段になる気がする。そういう気持ちって、小さい子供のころには分からないだろうけど、だんだん大人になるにつれて、そんな風に感じることができるんだろうな。
きっと慶くんが天野さんに往復ビンタされたのも、叱りつけるためだけではなくて、いろんな意味があったのだろう。「こいつらのこと頼んだぞ。」とか、「おまえのこと信頼してるからしっかりな。」とか、見ている僕たちにも反省しろって感じさせたり。
慶くんにはそういう天野さんの思いがちゃんと伝わっていて、素直に受け入れることができたから、反発したり嫌な顔をしたりせず、天野さんに頭を下げたんだと思う。『おしおき』って痛いだけじゃなくて、すごく奥が深い気がする。
僕たちも自分たちの悪かったことを反省して、謝って、お尻叩いてもらわないとダメなんだと思う。そういう一連の流れのあとで許してもらわないと、すっきりできないし前に進めなくなるから。”
1時間ほど話し合って、5人は慶のところへ向かった。慶は自分の部屋で日誌を書いていた。同じ部屋の大学生たちは各班の活動につき添って外出していたので、部屋には慶しかいなかった。
5人は横一列に並び、
「慶さん、オレたちみんなで話し合って反省しました。」
遼太郎が言うと、
「そうか。分かった。もう部屋に戻っていいぞ。」
とだけ言って、再び日誌を書き始めてしまった。
「慶さん!」
美鈴がじれったそうに名前を呼ぶと、
「ん?どうした?」
穏やかな口調で首をかしげた。
「だから、反省したから・・・・・私たちにおしおきしてください。」
プライドの高い美鈴にとって、自分からそんなことを口にするのはかなり抵抗があったが、みんなでそう決めたのだからと自ら『おしおき』を志願した。
「え?」
慶は耳を疑い、日誌を書く手をやっと止めて美鈴の顔を見た。驚いている慶に今度は秋歩が、
「みんなで決めたので。」
とつけ加えると、他の3人もコクンとうなずいた。
「オレはもういいって言ってるのに、自分たちからおしおきしてほしいなんて、どういう風の吹き回しだ?」
「ケジメつけなきゃいけないから。」
星が答えた。慶は以前から知っている星の口から『ケジメ』なんていう言葉を聞くとは思いもせず、心の奥の方で嬉しさが沸き起こるのを感じた。他のメンバーも同じ考えであることは理解できた。
この子たちには説教やおしおきをしても効果がないと半ばあきらめ、また自分にはそうする資格がないと自信をなくしかけていた。しかし、「おしおきしてください」という5人で相談して導き出した結論を聞いて、それに応じてあげることがリーダーとしての役割であり、彼らの気持ちを決して無駄にしてはいけないと思うことができた。
「そうか、それがみんなの意向なんだな?」
みんなのキリッとした顔つきを見て、冷たく突き放すことで反省させようと思っていた自分の考えを改め、5人に対して厳しくおしおきすることを決めた。
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