2024年02月24日
いで湯と城と文学の街をめぐる路面電車 伊予鉄道、市内電車を行く
◆鉄アナ・羽川英樹「行ってきました!」
四国最大の人口50万人を擁する愛媛県松山市。この街に伊予鉄道が走り始めたのは1888(明治21)年のことで、南海電鉄に次いで日本の民営鉄道で2番目の古い歴史を誇ります。現在は『松山市駅』から3つの路線が伸びる「郊外電車」(郊外線)と、市内を1周する路面電車区間の「市内電車」(市内線)を保有しています。
今回は、いよてつ高島屋(※「高」=はしごだか)のまん前にある『松山市駅』から、市内を時計と逆回り(内回り)に走る2号線の路面電車に乗ってみました。
1周7.3kmの間には、21の停留所があります。『松山市駅』からしばらく松山城のお濠(ほり)沿いに進むと『県庁前』。左側に1929(昭和4)年に完成した堂々たる愛媛県庁本庁舎が姿を現します。ドーム状の屋根と左右対称の風格ある建物が目をひきます。
『大街道』は市内きっての繁華街。全長500メートルの広いアーケードには、戦後まもなく開業した老舗・松山三越もあります。また北側に500メートルほど歩くと松山城へのロープウェイ乗り場「東雲口」に到着します。
ここからは城山の8合目にある「長者ケ平」までロープウェイとリフトが運行されています。私は自然の風を肌で感じられ、待ち時間もないリフトを選んで6分間の空中散歩を楽しみました。標高132メートルの勝山山頂に本丸、山麓に二の丸・三の丸を構える松山城。上るルートは4つあり、市民の散策路としても人気があります。
路面電車に戻り、『上一万』は道後線との分岐駅なので、ここで道後温泉行に乗り変えてみましょう。途中駅『南町』の横にあるのが県民文化会館。ここのメインホールの客席は2725席あり、大阪のフェスティバルホールを上回って西日本最大級のスケールを誇ります。
『道後温泉』は、1911(明治44)年の開業時の洋風建築を再現した趣きのある駅舎。いまはスターバックスも入居しています。改札を出ると、開業時のしつらえを施した人気の坊ちゃん列車が展示されているのが目に入ります。なお、この観光列車は、現在運転手不足のため3月19日まで運休中です。
駅前の公園には名物のからくり時計に、足湯コーナー、そして俳句ポストも。ハイカラ通り商店街を5分ほど歩くと、道後温泉本館に到着。1894(明治27)年に完成した木造3層建ての建物は現在保存工事中ですが、裏口から入って入浴は可能です(※今年夏には工事終了予定)。隣接する蔵屋敷風の椿の湯と別館・飛鳥の湯との中庭には、写真家・蜷川実花さんの作品が華やかに一堂に展示されています(※保存工事終了まで展示予定)。
では再び『上一万』に戻って、内回りの環状電車の旅を続けましょう。次の『平和通り1丁目』からは、これまでの路面区間から単線の専用軌道に入っていきます。
現在、市内線を走るのは4種類の車両たちです。50形は製造から60〜70年が経過しますが、今なお元気に走っています。2000形は京都市電から譲渡された車両で、狭軌用に改造されました。2100形はいよてつ初の低床型車両で、その形や導入当時の色から“豆腐”とも呼ばれています。そして2017(平成29)年から登場した5000形は、市内線の最新車両で、車内には無料Wi-Fiも設置されています。
『古町(こまち)』は伊予鉄道の重要拠点で、郊外線である高浜線の電車と市内線の路面電車の両方が乗り入れます。ここは夏目漱石の「坊ちゃん」にも登場する駅で、車両基地や工場も併設されています。
そして繁華街からは少し離れた位置にあるのが『JR松山駅前』。三角屋根に旧字体と昭和感満載のJR松山駅は高架化工事の真っ最中で、2024年度中に駅前広場や駅舎は大きく生まれ変わる予定です。
『大手町駅前』では、さきほどの郊外電車・高浜線と路面電車が平面交差するという鉄道ファンにはたまらない場面に出会うこともできます。
さあ再び、いよてつ高島屋が見えてきました。1周7.3kmをゆっくり走ってターミナルの『松山市駅』に戻ってきました。ちなみに市内線の運賃は200円均一なんですが、何度も乗り回すなら1dayチケット(800円)がお得。ただし、これは、愛媛県内のお店をはじめ、公共施設や交通機関でも使うことができるアプリ「みきゃんアプリ」に登録しないと買えない、デジタルチケットのみの販売となっています。
この春、瀬戸内の鮮魚や鯛めし、じゃこ天に舌鼓を打ち、桜咲く松山城に登り、道後のいで湯にゆっくりつかって、正岡子規や高浜虚子の足跡をたどる……。そんなとき、松山城を取り囲むように走るいよてつ市内線をぜひ活用してみてください。(羽川英樹)
ラジトピ ラジオ関西トピックス 2/22(木)