新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
2018年09月02日
ぞろぞろ
浅草田んぼの真ん中に太郎稲荷というお稲荷様が御座いました
これは江戸の始めからありますお稲荷様で大変参詣人も多ございましたが
どういう訳か最近はとんと参詣人も参りません
こうなってくると神社仏閣は経営が困難になりましてな
お賽銭の上げてが無いと諸寺困ります
華々しくのぼりが立っておりましたが一つずつ消えまして
今では古いのぼりポツンとたった一本
昭八お稲荷様と書いてある文字が雨風にさらされ薄れてしまいまして
どうにも読めやしません
諸寺も荒れて参りましたが、その前に茶店が御座います。
肝心のお社がこの様では、わざわざ茶店に来てお茶を飲んで帰ろうなんて風流人は御座いません。
ともどもさびれてしまい、茶店では成り立たないので傍らで荒物を並べ
傍ら飴菓子を商って年寄り夫婦が細々と暮らしております。
このお年寄りは心がけが良いのですな
以前の繁盛を忘れません
朝起きるとお社の掃除が先です。水を汲むとお鉢に備える
ご飯を炊くときはお洗米と言うので甲斐甲斐しく使えておりました
ある日の事夕立が御座いました。
田んぼ道ではありますが人通りが多いところ
当りを歩いている人がみんなおじいさんの茶店に雨宿りに来て
人でいっぱいになりました。
おじいさん
お宅が在って助かったよ
ホントに地獄に仏とはこのことですよ
ところでこの夕立は場違いだね
夕立はさっと振って上がるんだけどこの夕立はなかなか上がりそうもないな
お茶をくれ
はなはだ粗茶でございます
あぁ天気になった
ありがたい
おじいさんこれは僅かですがお茶代ですよ
すっと出て行った奴が
駄目だ
なんだい?
今の雨ですっかりぬかっちゃって滑るのなんの
歩くたびにつるっと来るかね
そんな生易しい滑り方じゃないよ
つるつるつる!!!って元に戻っちゃった
あぁおじいさんの所に草鞋はあるかい?
へい、八文でございますよ
おう、俺も貰うよ
こっちにもくれよ
雨宿りの人が残らず草鞋を買って入って帰ると
おばぁさんあれで品切れになったよ
また草鞋が雨宿りに人の分だけあったんだね
ありがたい神事だ
月に一辺は塩水につけて天気に乾かすから丈夫になっているが
あの売れたことのない草鞋がね
・
お稲荷様のご利益だ
おばぁさん明日はお礼参りだよ
まずお神酒を上げてくれ
それからね赤のご飯を炊いて、尾頭付きも
忘れっぽいから覚えておくんだよ
おじいさん
おぉ元さん
どうしてたんだ今の土砂降り
雨宿りをしていたんだけどここまでに来る途中に何度も足を取られたか
これから鳥越まで行くんだけど草鞋を売ってくれよ
お前さんが来るのを知っていたら一足取っておいたんだけど
雨宿りのお客が一足ずつ買って帰ると品切れになったんだ
いや、一足だよ
ねぇもんはねぇんだよ
どうして年寄りは強情なんだ
雁首をひんねじって天井を見てご覧
一足ぶら下がってるよ
どう首をひねろうとも売り切れた草鞋が・・・あれ??
あったよ
在るから頼んでんだよ
おいらには売らないのかい?
嫌事言っちゃやだよ
歳とてもうろくしてたんだ
八文だよ
お代はいつでもいいからなぁ
すっと草鞋を取ると新しい草鞋が後からぞろっと出てきた
おやっと思っていると新しい買い手が来てこの草鞋を取るとまた
後からぞろっと
もうこの茶店草鞋の買い出しはしません
天井裏からぶら下がっている草鞋を取ると後か新しい草鞋がぞろり
取ればぞろりっといくらでも出てくる
この評判が世間に広がると、あの年寄り夫婦は正直者で
太郎稲荷様のご利益だろうと言うと参詣人が増えました
納物も大変で天にまで届きそうになり、のぼりは林のように並び
縁日は出るし大変な景気
ほど近い田町にちっとも流行らない髪結い所が在り
親方、今日は暇かね
何言ってやがるんだ
入って来て店に誰もいないで、俺があぐらかいてひげを抜いてるんだ
暇かどうかなんて見て分かるだろ
なんだい?儲け仕事かい?
儲け仕事じゃないけど太郎稲荷の御利益だって
茶店の話聞いたかい?
聞いたよ
草鞋の一軒だろ
一足ぶら下がっていると後からぞろぞろ出る話だろ
太郎稲荷様のご利益だって
何言ってやがるんだろうなご利益も提灯袋もあるか
世の中には神仏の御利益なんてあってたまるものか
え?太郎稲荷に行くって
俺も暇だから一緒に行くよ
生涯草鞋を履かなくっても良い者でもお土産に買って帰るので茶店は大繁盛
へぇ凄いなぁこれがご利益か
種も仕掛けもねぇんだなぁ
世の中にご利益はある
在るとなれば俺も授かろう
・
今日が思い立ったが吉日、七日の裸足参りをしよう
この前の茶店同様の御利益をお願いいたします
南無太郎稲荷大明神様、茶店同様の御利益を
一心に七日の間願をかけまして
おかえりなさい
今日はお前、盆と正月が一緒に来たようだ
店が大反響だよ
早く仕事にかかり!
へぇこれは凄いねぇ
すぐに取り掛かるから大丈夫だよ
・
皆さまお待ち同様です
私がここの髪結いどころの主で御座います
自慢ではありませんが腕に覚えが在りますからお手間はとらせません
順にやらせて頂きますのでどなたがお先でしたか?
おぉ親方帰って来たか
俺が一番先に来ているんだ
ひげをやってくれ
畏まりました
その人のほっぺたを見ると熊の毛のごとくびっしりと生えている
腰掛椅子に座らせて、ひげを湿らせて自慢の剃刀ですっと剃ると
後から毛がぞろぞろ・・・
これは江戸の始めからありますお稲荷様で大変参詣人も多ございましたが
どういう訳か最近はとんと参詣人も参りません
こうなってくると神社仏閣は経営が困難になりましてな
お賽銭の上げてが無いと諸寺困ります
華々しくのぼりが立っておりましたが一つずつ消えまして
今では古いのぼりポツンとたった一本
昭八お稲荷様と書いてある文字が雨風にさらされ薄れてしまいまして
どうにも読めやしません
諸寺も荒れて参りましたが、その前に茶店が御座います。
肝心のお社がこの様では、わざわざ茶店に来てお茶を飲んで帰ろうなんて風流人は御座いません。
ともどもさびれてしまい、茶店では成り立たないので傍らで荒物を並べ
傍ら飴菓子を商って年寄り夫婦が細々と暮らしております。
このお年寄りは心がけが良いのですな
以前の繁盛を忘れません
朝起きるとお社の掃除が先です。水を汲むとお鉢に備える
ご飯を炊くときはお洗米と言うので甲斐甲斐しく使えておりました
ある日の事夕立が御座いました。
田んぼ道ではありますが人通りが多いところ
当りを歩いている人がみんなおじいさんの茶店に雨宿りに来て
人でいっぱいになりました。
おじいさん
お宅が在って助かったよ
ホントに地獄に仏とはこのことですよ
ところでこの夕立は場違いだね
夕立はさっと振って上がるんだけどこの夕立はなかなか上がりそうもないな
お茶をくれ
はなはだ粗茶でございます
あぁ天気になった
ありがたい
おじいさんこれは僅かですがお茶代ですよ
すっと出て行った奴が
駄目だ
なんだい?
今の雨ですっかりぬかっちゃって滑るのなんの
歩くたびにつるっと来るかね
そんな生易しい滑り方じゃないよ
つるつるつる!!!って元に戻っちゃった
あぁおじいさんの所に草鞋はあるかい?
へい、八文でございますよ
おう、俺も貰うよ
こっちにもくれよ
雨宿りの人が残らず草鞋を買って入って帰ると
おばぁさんあれで品切れになったよ
また草鞋が雨宿りに人の分だけあったんだね
ありがたい神事だ
月に一辺は塩水につけて天気に乾かすから丈夫になっているが
あの売れたことのない草鞋がね
・
お稲荷様のご利益だ
おばぁさん明日はお礼参りだよ
まずお神酒を上げてくれ
それからね赤のご飯を炊いて、尾頭付きも
忘れっぽいから覚えておくんだよ
おじいさん
おぉ元さん
どうしてたんだ今の土砂降り
雨宿りをしていたんだけどここまでに来る途中に何度も足を取られたか
これから鳥越まで行くんだけど草鞋を売ってくれよ
お前さんが来るのを知っていたら一足取っておいたんだけど
雨宿りのお客が一足ずつ買って帰ると品切れになったんだ
いや、一足だよ
ねぇもんはねぇんだよ
どうして年寄りは強情なんだ
雁首をひんねじって天井を見てご覧
一足ぶら下がってるよ
どう首をひねろうとも売り切れた草鞋が・・・あれ??
あったよ
在るから頼んでんだよ
おいらには売らないのかい?
嫌事言っちゃやだよ
歳とてもうろくしてたんだ
八文だよ
お代はいつでもいいからなぁ
すっと草鞋を取ると新しい草鞋が後からぞろっと出てきた
おやっと思っていると新しい買い手が来てこの草鞋を取るとまた
後からぞろっと
もうこの茶店草鞋の買い出しはしません
天井裏からぶら下がっている草鞋を取ると後か新しい草鞋がぞろり
取ればぞろりっといくらでも出てくる
この評判が世間に広がると、あの年寄り夫婦は正直者で
太郎稲荷様のご利益だろうと言うと参詣人が増えました
納物も大変で天にまで届きそうになり、のぼりは林のように並び
縁日は出るし大変な景気
ほど近い田町にちっとも流行らない髪結い所が在り
親方、今日は暇かね
何言ってやがるんだ
入って来て店に誰もいないで、俺があぐらかいてひげを抜いてるんだ
暇かどうかなんて見て分かるだろ
なんだい?儲け仕事かい?
儲け仕事じゃないけど太郎稲荷の御利益だって
茶店の話聞いたかい?
聞いたよ
草鞋の一軒だろ
一足ぶら下がっていると後からぞろぞろ出る話だろ
太郎稲荷様のご利益だって
何言ってやがるんだろうなご利益も提灯袋もあるか
世の中には神仏の御利益なんてあってたまるものか
え?太郎稲荷に行くって
俺も暇だから一緒に行くよ
生涯草鞋を履かなくっても良い者でもお土産に買って帰るので茶店は大繁盛
へぇ凄いなぁこれがご利益か
種も仕掛けもねぇんだなぁ
世の中にご利益はある
在るとなれば俺も授かろう
・
今日が思い立ったが吉日、七日の裸足参りをしよう
この前の茶店同様の御利益をお願いいたします
南無太郎稲荷大明神様、茶店同様の御利益を
一心に七日の間願をかけまして
おかえりなさい
今日はお前、盆と正月が一緒に来たようだ
店が大反響だよ
早く仕事にかかり!
へぇこれは凄いねぇ
すぐに取り掛かるから大丈夫だよ
・
皆さまお待ち同様です
私がここの髪結いどころの主で御座います
自慢ではありませんが腕に覚えが在りますからお手間はとらせません
順にやらせて頂きますのでどなたがお先でしたか?
おぉ親方帰って来たか
俺が一番先に来ているんだ
ひげをやってくれ
畏まりました
その人のほっぺたを見ると熊の毛のごとくびっしりと生えている
腰掛椅子に座らせて、ひげを湿らせて自慢の剃刀ですっと剃ると
後から毛がぞろぞろ・・・