新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
2019年03月21日
好き嫌いの判断
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
判断力・直観力
好き嫌いの判断
扁桃体を含む大脳辺縁系で感情が処理されている。
1937年、アメリカの精神科医ハインリッヒ・クリューバーとポール・ビューシーは、
サルの左右両側の『扁桃体』という場所を含む側頭葉を壊すと、奇妙な行動が見られることを発見した。
食べられるものと食べられないものが区別できなくなったり、
それまで恐れていたものを恐れなくなったりしたという。
その後、この症状はネコやサルの扁桃体だけを壊しても起きることが確認され、
現在では「クリューバー・ビューシー症候群」と呼ばれている。
扁桃体は、大脳辺縁系と呼ばれる脳内の場所の一部である。
大脳辺縁系は大脳の内側の下部にある。
この扁桃体を含む大脳辺縁系で感情が処理されていると考えられている。
怒っている人がいたら、多くの人は争いに巻き込まれないために、近づかないようにするだろう。
しかし、感情が読み取れなかったら、怒っている人にも平気で話しかけ、
トラブルに巻き込まれてしまうだろう。
このような心の働きが、脳のどこで起きているかを知ることは、脳の病気やその治療、人間の心を理解するためにも重要である。
人間でも、扁桃体が壊れると感情に障害が見られる。
扁桃体だけが壊れてしまう『ウルバッハ・ビーテ病』の患者は、
表情から相手の感情を読み取ることができなくなる。
このように扁桃体が壊れると、
自分にとって好ましいものと、そうでないものの判断がつかなくなったり、
感情を理解できなくなったりする。
そのため、扁桃体は快・不快の判断などを行っていると考えられている。
富山大学の小野武年(おの たけとし)特任教授は、サルを使って扁桃体の機能を詳しく調べている。
サルの扁桃体に電極を差し入れて調べた結果、次のことが分かったという。
「オレンジやリンゴなどの好ましいもの、あるいはクモやヘビなどの嫌いなものに反応し、
しかも好きなものほどあるいは嫌いなものほど強く反応する脳の細胞を発見しました。
この細胞は、石ころなど自分にとって意味のないものには反応しません。
さらに、自分にとって好ましいものでも、好きなスイカや嫌いなクモだけにしか反応しない脳の細胞も発見しました」。
この小野博士の実験は、自分にどの程度の喜びをもたらすものか、あるいはどの程度不快な気持ちをもたらすものかを判断する脳の細胞があることを示している。
また、喜びや不快感をもたらすものが、スイカやクモであることを『知っている』脳も細胞もあることを示している。
恐れることを忘れたサル
正常なサルは、飛び上がって逃げるほどヘビを恐れる。
しかし、扁桃体が壊されたサルは、食べられるものと食べられないものの区別がつかなくなり、
ヘビにも噛み付くようになる。
この他にも、扁桃体が壊れると、周りにあるものを手当たりしだい口に持って行ったり、
同性や異種の動物に対しても交尾行動を行ったりするようになる。
感情が生まれる場所―大脳辺縁系
表情から感情を読み取ったり、自分の感情を表情に表したりするには、
脳の中の大脳辺縁系と呼ばれる場所が重要だと考えられている。
大脳辺縁系は、大脳の内側の下部にあり、視床を取り囲んでいる。
快・不快の判断を行っている扁桃体は、情動において特に重要だと考えられている。
また、海馬体は記憶を作るために重要な部位だと考えられている。
扁桃体
喜怒哀楽の感情を司る。扁桃体が壊れると、快・不快の判断がつかなくなる。
海馬傍回
大脳皮質と海馬体をつなぐインターフェース。
海馬体
思い出と知識の記憶を作ったり、一時的に保存したりする。
乳頭体
思い出と知識の記憶を作る。
視床下部
感情の変化を、行動や内分泌系などの変化として身体的に表現する。
分解条
扁桃体と視床下部を結ぶ。
脳弓
海馬体と乳頭体、視床前角群などを結ぶ
視床背内側核
感情、注意、嗅覚の学習を司る。
視床前角群
思い出や知識の記憶形成と空間の認知を司る。
帯状回
注意・運動・感情・自律神経反応を司る。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
判断力・直観力
好き嫌いの判断
扁桃体を含む大脳辺縁系で感情が処理されている。
1937年、アメリカの精神科医ハインリッヒ・クリューバーとポール・ビューシーは、
サルの左右両側の『扁桃体』という場所を含む側頭葉を壊すと、奇妙な行動が見られることを発見した。
食べられるものと食べられないものが区別できなくなったり、
それまで恐れていたものを恐れなくなったりしたという。
その後、この症状はネコやサルの扁桃体だけを壊しても起きることが確認され、
現在では「クリューバー・ビューシー症候群」と呼ばれている。
扁桃体は、大脳辺縁系と呼ばれる脳内の場所の一部である。
大脳辺縁系は大脳の内側の下部にある。
この扁桃体を含む大脳辺縁系で感情が処理されていると考えられている。
怒っている人がいたら、多くの人は争いに巻き込まれないために、近づかないようにするだろう。
しかし、感情が読み取れなかったら、怒っている人にも平気で話しかけ、
トラブルに巻き込まれてしまうだろう。
このような心の働きが、脳のどこで起きているかを知ることは、脳の病気やその治療、人間の心を理解するためにも重要である。
人間でも、扁桃体が壊れると感情に障害が見られる。
扁桃体だけが壊れてしまう『ウルバッハ・ビーテ病』の患者は、
表情から相手の感情を読み取ることができなくなる。
このように扁桃体が壊れると、
自分にとって好ましいものと、そうでないものの判断がつかなくなったり、
感情を理解できなくなったりする。
そのため、扁桃体は快・不快の判断などを行っていると考えられている。
富山大学の小野武年(おの たけとし)特任教授は、サルを使って扁桃体の機能を詳しく調べている。
サルの扁桃体に電極を差し入れて調べた結果、次のことが分かったという。
「オレンジやリンゴなどの好ましいもの、あるいはクモやヘビなどの嫌いなものに反応し、
しかも好きなものほどあるいは嫌いなものほど強く反応する脳の細胞を発見しました。
この細胞は、石ころなど自分にとって意味のないものには反応しません。
さらに、自分にとって好ましいものでも、好きなスイカや嫌いなクモだけにしか反応しない脳の細胞も発見しました」。
この小野博士の実験は、自分にどの程度の喜びをもたらすものか、あるいはどの程度不快な気持ちをもたらすものかを判断する脳の細胞があることを示している。
また、喜びや不快感をもたらすものが、スイカやクモであることを『知っている』脳も細胞もあることを示している。
恐れることを忘れたサル
正常なサルは、飛び上がって逃げるほどヘビを恐れる。
しかし、扁桃体が壊されたサルは、食べられるものと食べられないものの区別がつかなくなり、
ヘビにも噛み付くようになる。
この他にも、扁桃体が壊れると、周りにあるものを手当たりしだい口に持って行ったり、
同性や異種の動物に対しても交尾行動を行ったりするようになる。
感情が生まれる場所―大脳辺縁系
表情から感情を読み取ったり、自分の感情を表情に表したりするには、
脳の中の大脳辺縁系と呼ばれる場所が重要だと考えられている。
大脳辺縁系は、大脳の内側の下部にあり、視床を取り囲んでいる。
快・不快の判断を行っている扁桃体は、情動において特に重要だと考えられている。
また、海馬体は記憶を作るために重要な部位だと考えられている。
扁桃体
喜怒哀楽の感情を司る。扁桃体が壊れると、快・不快の判断がつかなくなる。
海馬傍回
大脳皮質と海馬体をつなぐインターフェース。
海馬体
思い出と知識の記憶を作ったり、一時的に保存したりする。
乳頭体
思い出と知識の記憶を作る。
視床下部
感情の変化を、行動や内分泌系などの変化として身体的に表現する。
分解条
扁桃体と視床下部を結ぶ。
脳弓
海馬体と乳頭体、視床前角群などを結ぶ
視床背内側核
感情、注意、嗅覚の学習を司る。
視床前角群
思い出や知識の記憶形成と空間の認知を司る。
帯状回
注意・運動・感情・自律神経反応を司る。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
2019年03月20日
社会的判断A
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
判断力・直観力
社会的判断A
前頭連合野は行動や感情をコントロールしている
前日のページに戻って、14個の絵と種類、配置を10秒間よく見て覚えてきてください。
下段の緑の質問を読んで答えてください。
ハサミを探しに隣の部屋に行った時、何を探しに来たのか忘れてしまった経験はないだろうか?
これには、『ワーキングメモリ(作業記憶)』と呼ばれている前頭連合野の機能が関係している。
ワーキングメモリは、短期記憶の一種である。
だが、他の短期記憶にはない、重要な特徴がある。
それは、「行動のために使われる記憶である」ということである。
先ほどの例で言えば、「ハサミを探す」という行動を行うために、『ハサミ』についての記憶をワーキングメモリに入れておいて、隣の部屋でその記憶を使って探す。
この時、声に出して「ハサミ、ハサミ、・・・」と連呼し続ければ忘れることはない。
ワーキングメモリとは、声を出す代わりに、脳の中で暗唱し続けるような機能である。
前頭連合野は、目や耳などから得られる身の回りの状況や体の内部環境(現在についての情報)、将来の予定(未来についての情報)、記憶や知識(過去についての情報)などにアクセスすることが可能である。
そうした膨大な情報の中から、自分にとって意味のある情報だけを選んで(これを「選択的注意」という)、それを一時的に保持しておく(ワーキングメモリ)。
そして、その情報をもとに、行動や感情を適切に調節する。
前頭連合野とは、ワーキングメモリを中心にして脳全体を制御するコントロールセンター
なのである。
前日 短期記憶テストの質問
時計は何時何分を指していましたか?
動物は何匹いましたか?
バスケットボールシューズはどのあたりの位置にありましたか?
あなたはどれだけ答えることができましたか?
質問に答えるために、あなたの脳は絵の内容を記憶した。
このように、何らかの行動に使うために作る短時間の記憶を『ワーキングメモリ』と呼ぶ。
その容量はあまり大きくはなく、数字であれば普通7桁ほどしか覚えられない。
ワーキングメモリは保持しておける期間が短いので、この日のページを見る頃にはあなたの前頭連合野から消えてしまう。
あらかじめ「何について聞かれるか」を知っていれば、こうした質問に答えることは簡単になる。
必要な情報に焦点を絞り、情報の洪水を防ぐことができるからだ。
こうした機能を『選択的注意』と呼ぶ。
これも前頭連合野が持つ機能の一つである。
ロンドン塔テストの解答:@赤をBへ A緑をCへ B赤をAへ C青をAへ D緑をAへ
ワーキングメモリの働き
「外界から入力する情報」「予定記憶」「過去の記憶」などから、『選択的注意』によって選ばれた情報だけを一時的に保持しつつ、それらを組み合わせて適切な行動を導く。
選択的注意
日常の一場面で目や耳などから入ってくる膨大な情報の中から、今の自分にとって意味のある情報だけに注目する機能。
ワーキングメモリ(ワーキングメモリの中枢:前頭連合野46野)
前頭連合野が思考するときの“作業台”。
スペースに限りがあるため、多くの情報をのせることはできない。
行動を決定する
前頭連合野は、ワーキングメモリにのった情報をもとに行動を決定して、高次運動野に指令を出す。
情動コントロール
前頭連合野は、ワーキングメモリにのった情報をもとにして、情動を司る大脳扁桃核や記憶を司る海馬などの働きを適切にコントロールする。
ワーキングメモリとドーパミン
前頭連合野には、ドーパミンを神経伝達物質として放出する中脳のニューロンが投射している。
サルの前頭連合野46野にあるドーパミン受容体(D1と呼ばれるタイプのもの)の働きをブロックすると、ワーキングメモリの機能が低下することが報告されている。
ワーキングメモリの異常は、統合失調症・ADHD(注意欠陥多動性障害)に関連していると考えられる。
選択的注意とノルアドレナリン
前頭連合野を含む大脳皮質などには、ノルアドレナリンを神経伝達物質として放出するニューロンが脳幹から投射している。
サル前頭連合野46野でノルアドレナリンの働きを妨げると、選択的注意の機能が低下することが報告されている。
選択的注意の異常は、ADHD・うつ病・パニック障害(不安神経症)に関連していると考えられる。
情動コントロールとセロトニン
前頭連合野を含む大脳皮質などには、セロトニンを神経伝達物質として放出するニューロンが脳幹から投射している。
セロトニンは、大脳辺縁系に働きかけて情動をコントロールする前頭連合野の働きに必要である。
情動コントロールの不調は、うつ病だけでなく、パニック障害(不安神経症)にも関連していると考えられる。
統合失調症
軽度の症状としては、喜怒哀楽表現が乏しくなる、生活意欲が低下するなどがある。
重度の場合は幻聴や幻覚、被害妄想、興奮などの症状が現れる。
ADHD(注意欠陥多動性障害)
主に小児期に現れる精神疾患だが、成人でも発症する。
一つのことに注意・集中することができず、落ち着きがなくなる。
考えずに、衝動的に行動する。
うつ病(躁うつ病)
気分が高揚する躁状態と意気消沈するうつ状態とを周期的に繰り返す精神疾患だが、多くはうつ状態だけを示す。
抗うつ薬などによる治療によって多くの場合完治する。
パニック障害
強烈な不安に発作的あるいは慢性的に襲われることによって、落ち着きをなくしてパニックに陥る。
不安神経症とも呼ばれる。
前頭連合野の機能とモノアミン系神経伝達物質
前頭連合野が持つ、ワーキングメモリ、選択的注意、情動コントロールなどの機能は、中脳や脳幹から前頭葉へと軸索を伸ばすニューロンが放出する『モノアミン系』と総称される神経伝達物質(ドーパミン・ノルアドレナリン・セロトニン)によって制御されている。
いくつかの精神疾患は、前頭連合野の機能低下と関連していることが考えられる。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
判断力・直観力
社会的判断A
前頭連合野は行動や感情をコントロールしている
前日のページに戻って、14個の絵と種類、配置を10秒間よく見て覚えてきてください。
下段の緑の質問を読んで答えてください。
ハサミを探しに隣の部屋に行った時、何を探しに来たのか忘れてしまった経験はないだろうか?
これには、『ワーキングメモリ(作業記憶)』と呼ばれている前頭連合野の機能が関係している。
ワーキングメモリは、短期記憶の一種である。
だが、他の短期記憶にはない、重要な特徴がある。
それは、「行動のために使われる記憶である」ということである。
先ほどの例で言えば、「ハサミを探す」という行動を行うために、『ハサミ』についての記憶をワーキングメモリに入れておいて、隣の部屋でその記憶を使って探す。
この時、声に出して「ハサミ、ハサミ、・・・」と連呼し続ければ忘れることはない。
ワーキングメモリとは、声を出す代わりに、脳の中で暗唱し続けるような機能である。
前頭連合野は、目や耳などから得られる身の回りの状況や体の内部環境(現在についての情報)、将来の予定(未来についての情報)、記憶や知識(過去についての情報)などにアクセスすることが可能である。
そうした膨大な情報の中から、自分にとって意味のある情報だけを選んで(これを「選択的注意」という)、それを一時的に保持しておく(ワーキングメモリ)。
そして、その情報をもとに、行動や感情を適切に調節する。
前頭連合野とは、ワーキングメモリを中心にして脳全体を制御するコントロールセンター
なのである。
前日 短期記憶テストの質問
時計は何時何分を指していましたか?
動物は何匹いましたか?
バスケットボールシューズはどのあたりの位置にありましたか?
あなたはどれだけ答えることができましたか?
質問に答えるために、あなたの脳は絵の内容を記憶した。
このように、何らかの行動に使うために作る短時間の記憶を『ワーキングメモリ』と呼ぶ。
その容量はあまり大きくはなく、数字であれば普通7桁ほどしか覚えられない。
ワーキングメモリは保持しておける期間が短いので、この日のページを見る頃にはあなたの前頭連合野から消えてしまう。
あらかじめ「何について聞かれるか」を知っていれば、こうした質問に答えることは簡単になる。
必要な情報に焦点を絞り、情報の洪水を防ぐことができるからだ。
こうした機能を『選択的注意』と呼ぶ。
これも前頭連合野が持つ機能の一つである。
ロンドン塔テストの解答:@赤をBへ A緑をCへ B赤をAへ C青をAへ D緑をAへ
ワーキングメモリの働き
「外界から入力する情報」「予定記憶」「過去の記憶」などから、『選択的注意』によって選ばれた情報だけを一時的に保持しつつ、それらを組み合わせて適切な行動を導く。
選択的注意
日常の一場面で目や耳などから入ってくる膨大な情報の中から、今の自分にとって意味のある情報だけに注目する機能。
ワーキングメモリ(ワーキングメモリの中枢:前頭連合野46野)
前頭連合野が思考するときの“作業台”。
スペースに限りがあるため、多くの情報をのせることはできない。
行動を決定する
前頭連合野は、ワーキングメモリにのった情報をもとに行動を決定して、高次運動野に指令を出す。
情動コントロール
前頭連合野は、ワーキングメモリにのった情報をもとにして、情動を司る大脳扁桃核や記憶を司る海馬などの働きを適切にコントロールする。
ワーキングメモリとドーパミン
前頭連合野には、ドーパミンを神経伝達物質として放出する中脳のニューロンが投射している。
サルの前頭連合野46野にあるドーパミン受容体(D1と呼ばれるタイプのもの)の働きをブロックすると、ワーキングメモリの機能が低下することが報告されている。
ワーキングメモリの異常は、統合失調症・ADHD(注意欠陥多動性障害)に関連していると考えられる。
選択的注意とノルアドレナリン
前頭連合野を含む大脳皮質などには、ノルアドレナリンを神経伝達物質として放出するニューロンが脳幹から投射している。
サル前頭連合野46野でノルアドレナリンの働きを妨げると、選択的注意の機能が低下することが報告されている。
選択的注意の異常は、ADHD・うつ病・パニック障害(不安神経症)に関連していると考えられる。
情動コントロールとセロトニン
前頭連合野を含む大脳皮質などには、セロトニンを神経伝達物質として放出するニューロンが脳幹から投射している。
セロトニンは、大脳辺縁系に働きかけて情動をコントロールする前頭連合野の働きに必要である。
情動コントロールの不調は、うつ病だけでなく、パニック障害(不安神経症)にも関連していると考えられる。
統合失調症
軽度の症状としては、喜怒哀楽表現が乏しくなる、生活意欲が低下するなどがある。
重度の場合は幻聴や幻覚、被害妄想、興奮などの症状が現れる。
ADHD(注意欠陥多動性障害)
主に小児期に現れる精神疾患だが、成人でも発症する。
一つのことに注意・集中することができず、落ち着きがなくなる。
考えずに、衝動的に行動する。
うつ病(躁うつ病)
気分が高揚する躁状態と意気消沈するうつ状態とを周期的に繰り返す精神疾患だが、多くはうつ状態だけを示す。
抗うつ薬などによる治療によって多くの場合完治する。
パニック障害
強烈な不安に発作的あるいは慢性的に襲われることによって、落ち着きをなくしてパニックに陥る。
不安神経症とも呼ばれる。
前頭連合野の機能とモノアミン系神経伝達物質
前頭連合野が持つ、ワーキングメモリ、選択的注意、情動コントロールなどの機能は、中脳や脳幹から前頭葉へと軸索を伸ばすニューロンが放出する『モノアミン系』と総称される神経伝達物質(ドーパミン・ノルアドレナリン・セロトニン)によって制御されている。
いくつかの精神疾患は、前頭連合野の機能低下と関連していることが考えられる。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
2019年03月19日
社会的判断@
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
判断力・直観力
社会的判断@
前頭連合野は“ヒトを人間たらしめる脳”
脳の中には、“脳の中の脳”ともいうべき、最高次の中枢に位置すると考えられている部位がある。
それが、大脳前頭葉の前側を占める『前頭連合野』である。
前頭連合野が壊れると、人間はどうなってしまうのだろう?
それを物語る有名な例がある。
1848年、アメリカの工事現場監督だったフィニアス・ゲージ氏は、事故によって前頭連合野の大部分を失ってしまった。
一命を取り留めたが、人望の厚かった彼の性格は一変して野蛮になり、また将来への計画性を持つこともできなくなってしまった。
覚せい剤や麻薬の多くも、前頭連合野の活動に影響を与えて人格を崩壊させる
前頭連合野は、まさに“ヒトを人間たらしめる脳”であると言えるのだ。
ちなみに、人の前頭連合野の大脳皮質に占める割合は2〜3%しかなく、ネズミはそもそも前頭連合野を持たない。
前頭連合野には、脳の様々な領域から、非常にたくさんの入力が入ってくることが知られている。
前頭連合野は、入力と出力のはざまで膨大な情報処理を行っており、その情報処理の機能単位はコラム構造だと考えられる。
コラムの1個1個がIC(集積回路)のような役割を果たし、それらが集まって階層的なネットワークを作っているのだと考えられている。
また、近年の脳科学によって、前頭連合野は社会性に関連した幾つかの機能を持っていることがわかってきた。
明日はそれらを詳しく見ていく。
ヒトの前頭連合野は大脳皮質全体の3割を占める
大脳前頭連合野(赤く示した部分)は、霊長類で特に大きく発達した部分である。
アカゲザルやニホンザル(総称してマカクザルと呼ぶ)の前頭連合野が大脳皮質に占める割合は12%で、ヒトでは約30%である。
前頭連合野は、霊長類以外の哺乳類ではほとんど発達していない。
猫の前頭連合野が大脳皮質に占める割合は2〜3%しかなく、ネズミは前頭連合野を持たない。
フィニアス・ゲージ氏の悲劇
1848年のアメリカで、工事現場責任者だったフィニアス・ゲージ氏の頭を、火薬の爆発によって吹っ飛んだ鉄棒が直撃した。
鉄棒は左の頬に突き刺さって額の上部へと貫通した。
事故後、ゲージ氏は奇跡的に一命を取りとめたが、左目と前頭連合野の大部分を失った。
視覚、運動能力などにはほとんど障害がなかった。
しかし、それまで温厚だった彼の性格は一変して乱暴になり、将来に対する計画性や夢を持つことが一切できなくなってしまった。
あなたの前頭連合野を働かせる三つのテスト
ここにあげたテストは、どれも前頭連合野の機能を必要とする課題である。
ロンドン塔テスト
左の状態から、5回の作業で右の状態にする手順は?
(1回のそうさで動かせる玉は1個のみ)
このテストでは、前頭連合野の機能である『計画性』が試される。
短期記憶テスト
10秒間よく見てください。
明日問題を出します。
ストループテスト
1. まず、下の文字を声に出して読んでください。
赤 青 黄 緑
2. それでは、下の文字が何色に書かれているか(文字を読むのではなく)を、声に出して読んでください。
1に比べて、2は時間が多くかかったのではないだろうか?
このテストでは、文字の意味によって、色を答える過程を邪魔されてしまう。
このようなテストを「ストループテスト」という。
このテストでは、「定型行動の抑制」(ここでは、文字を読まないように我慢すること)という前頭連合野の機能が試されている。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
判断力・直観力
社会的判断@
前頭連合野は“ヒトを人間たらしめる脳”
脳の中には、“脳の中の脳”ともいうべき、最高次の中枢に位置すると考えられている部位がある。
それが、大脳前頭葉の前側を占める『前頭連合野』である。
前頭連合野が壊れると、人間はどうなってしまうのだろう?
それを物語る有名な例がある。
1848年、アメリカの工事現場監督だったフィニアス・ゲージ氏は、事故によって前頭連合野の大部分を失ってしまった。
一命を取り留めたが、人望の厚かった彼の性格は一変して野蛮になり、また将来への計画性を持つこともできなくなってしまった。
覚せい剤や麻薬の多くも、前頭連合野の活動に影響を与えて人格を崩壊させる
前頭連合野は、まさに“ヒトを人間たらしめる脳”であると言えるのだ。
ちなみに、人の前頭連合野の大脳皮質に占める割合は2〜3%しかなく、ネズミはそもそも前頭連合野を持たない。
前頭連合野には、脳の様々な領域から、非常にたくさんの入力が入ってくることが知られている。
前頭連合野は、入力と出力のはざまで膨大な情報処理を行っており、その情報処理の機能単位はコラム構造だと考えられる。
コラムの1個1個がIC(集積回路)のような役割を果たし、それらが集まって階層的なネットワークを作っているのだと考えられている。
また、近年の脳科学によって、前頭連合野は社会性に関連した幾つかの機能を持っていることがわかってきた。
明日はそれらを詳しく見ていく。
ヒトの前頭連合野は大脳皮質全体の3割を占める
大脳前頭連合野(赤く示した部分)は、霊長類で特に大きく発達した部分である。
アカゲザルやニホンザル(総称してマカクザルと呼ぶ)の前頭連合野が大脳皮質に占める割合は12%で、ヒトでは約30%である。
前頭連合野は、霊長類以外の哺乳類ではほとんど発達していない。
猫の前頭連合野が大脳皮質に占める割合は2〜3%しかなく、ネズミは前頭連合野を持たない。
フィニアス・ゲージ氏の悲劇
1848年のアメリカで、工事現場責任者だったフィニアス・ゲージ氏の頭を、火薬の爆発によって吹っ飛んだ鉄棒が直撃した。
鉄棒は左の頬に突き刺さって額の上部へと貫通した。
事故後、ゲージ氏は奇跡的に一命を取りとめたが、左目と前頭連合野の大部分を失った。
視覚、運動能力などにはほとんど障害がなかった。
しかし、それまで温厚だった彼の性格は一変して乱暴になり、将来に対する計画性や夢を持つことが一切できなくなってしまった。
あなたの前頭連合野を働かせる三つのテスト
ここにあげたテストは、どれも前頭連合野の機能を必要とする課題である。
ロンドン塔テスト
左の状態から、5回の作業で右の状態にする手順は?
(1回のそうさで動かせる玉は1個のみ)
このテストでは、前頭連合野の機能である『計画性』が試される。
短期記憶テスト
10秒間よく見てください。
明日問題を出します。
ストループテスト
1. まず、下の文字を声に出して読んでください。
赤 青 黄 緑
2. それでは、下の文字が何色に書かれているか(文字を読むのではなく)を、声に出して読んでください。
1に比べて、2は時間が多くかかったのではないだろうか?
このテストでは、文字の意味によって、色を答える過程を邪魔されてしまう。
このようなテストを「ストループテスト」という。
このテストでは、「定型行動の抑制」(ここでは、文字を読まないように我慢すること)という前頭連合野の機能が試されている。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
2019年03月18日
脳の情報処理A
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
判断力・直観力
脳の情報処理A
脳は同時並行で情報を処理する
一方、脳の場合、目で見たりんごの映像は、網膜にある細胞で電気信号に変えられ、視神経を通って、脳に届く。
そして視覚情報を処理する『視覚野』という領域で、特定の神経細胞のネットワーク(神経回路)が働くことでりんごの画像として認識される。
そして海馬の助けを借りて大脳皮質へと記憶される。
脳には、CPUやメモリに単純に対応する部分はない。
ただし、あえて大まかな対応づけを行えば、神経回路がCPU、一時的に記憶を保存する大脳皮質の一部『ワーキングメモリ』(3月20日に紹介)がメモリ、大脳皮質や海馬がハードディスクだということもできる。
神経回路はコンピューターと違い、情報を分散して“同時並行的”に処理する。
非常に複雑で捉えがたい処理方法なのである。
また、私たちの意識にのぼる脳の活動は、全体の活動の本の一握りだと考えられている。
そして、自覚できない脳の活動は、私たちが意識的に決めたと思っている行動や意思にも、影響を与えているという。
脳の情報処理
脳では、脳内に広がる『神経細胞のネットワーク(神経回路)』が並列的に活動することで、様々な情報が処理される。
コンピューターと大まかな対応づけを行えば、『神経回路』がCPU、一時的な記憶の置き場『ワーキングメモリ』がメモリ、『大脳皮質』や『海馬』がハードディスクだということもできる。
脳は、デジタル情報とアナログ情報をおりまぜながら扱う。
コンピューターに比べて情報処理の速度は遅く、正確さも劣るが、不完全な情報をもとに答えを出したり、『創造』や『ひらめき』を生み出したりすることができる。
コンピューターVS脳
コンピューターと脳は、共通した機能を持っている。
例えば、どちらもりんごの画像を認識し、記憶(記録)することができる。
ただし、その方法は異なる。
コンピューターは『CPU』という計算装置が一つずつ順番に情報を処理している。
一方、脳は分散した『神経細胞のネットワーク(神経回路)』が同時並行的に活動し、情報を処理している。
神経細胞の回路はとても複雑なうえ、コンピューターと違い、その回路自体を日々、変化させている。
記憶や感覚などの様々な情報が、脳の中でどのように処理されているのか、詳しい仕組みは解明されていない。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
判断力・直観力
脳の情報処理A
脳は同時並行で情報を処理する
一方、脳の場合、目で見たりんごの映像は、網膜にある細胞で電気信号に変えられ、視神経を通って、脳に届く。
そして視覚情報を処理する『視覚野』という領域で、特定の神経細胞のネットワーク(神経回路)が働くことでりんごの画像として認識される。
そして海馬の助けを借りて大脳皮質へと記憶される。
脳には、CPUやメモリに単純に対応する部分はない。
ただし、あえて大まかな対応づけを行えば、神経回路がCPU、一時的に記憶を保存する大脳皮質の一部『ワーキングメモリ』(3月20日に紹介)がメモリ、大脳皮質や海馬がハードディスクだということもできる。
神経回路はコンピューターと違い、情報を分散して“同時並行的”に処理する。
非常に複雑で捉えがたい処理方法なのである。
また、私たちの意識にのぼる脳の活動は、全体の活動の本の一握りだと考えられている。
そして、自覚できない脳の活動は、私たちが意識的に決めたと思っている行動や意思にも、影響を与えているという。
脳の情報処理
脳では、脳内に広がる『神経細胞のネットワーク(神経回路)』が並列的に活動することで、様々な情報が処理される。
コンピューターと大まかな対応づけを行えば、『神経回路』がCPU、一時的な記憶の置き場『ワーキングメモリ』がメモリ、『大脳皮質』や『海馬』がハードディスクだということもできる。
脳は、デジタル情報とアナログ情報をおりまぜながら扱う。
コンピューターに比べて情報処理の速度は遅く、正確さも劣るが、不完全な情報をもとに答えを出したり、『創造』や『ひらめき』を生み出したりすることができる。
コンピューターVS脳
コンピューターと脳は、共通した機能を持っている。
例えば、どちらもりんごの画像を認識し、記憶(記録)することができる。
ただし、その方法は異なる。
コンピューターは『CPU』という計算装置が一つずつ順番に情報を処理している。
一方、脳は分散した『神経細胞のネットワーク(神経回路)』が同時並行的に活動し、情報を処理している。
神経細胞の回路はとても複雑なうえ、コンピューターと違い、その回路自体を日々、変化させている。
記憶や感覚などの様々な情報が、脳の中でどのように処理されているのか、詳しい仕組みは解明されていない。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
2019年03月17日
脳の情報処理@
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
判断力・直観力
脳の情報処理@
コンピューターは、一つずつ順番に情報を処理する
脳は、莫大な情報を絶えず処理している。
例えば、あなたの脳は今、体温を調節し、心臓や胃腸を動かすための処理を行っている。
この記事を読むために、目や手や指の筋肉をうまく動かし、文字を追って日本語を理解している。
この大量の情報を、脳はどのような方法で処理しているのだろうか?
「りんごを見て、その形を記憶する」という処理を例に、
コンピューターと比較しながら、脳がどのように情報を処理するかを考えてみよう。
コンピューターは、デジタルカメラなどで撮影されたりんごの画像を、細かいドット(点)に分けて認識する。
その処理は『CPU』という高速な計算装置が、“一つずつ順番”に計算をこなすことで行われる。
CPUは記録する機能を持たないので、『メモリ』や『ハードディスク』といった記録装置に途中経過を保存しながら情報を処理する。
そして画像は最終的にハードディスクに保存される。
コンピューターの情報処理
コンピューターでは『CPU』という計算装置が、
一時的な情報記憶装置『メモリ』や『ハードディスク』などの記録装置とやりとりしながら、様々な情報を一つずつ順番に処理している。
コンピューターが扱う情報は、全て『0』か『1』で表現されるデジタル情報である。
情報処理は早く、正確で、『適当さ』や『あいまいさ』はない。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
判断力・直観力
脳の情報処理@
コンピューターは、一つずつ順番に情報を処理する
脳は、莫大な情報を絶えず処理している。
例えば、あなたの脳は今、体温を調節し、心臓や胃腸を動かすための処理を行っている。
この記事を読むために、目や手や指の筋肉をうまく動かし、文字を追って日本語を理解している。
この大量の情報を、脳はどのような方法で処理しているのだろうか?
「りんごを見て、その形を記憶する」という処理を例に、
コンピューターと比較しながら、脳がどのように情報を処理するかを考えてみよう。
コンピューターは、デジタルカメラなどで撮影されたりんごの画像を、細かいドット(点)に分けて認識する。
その処理は『CPU』という高速な計算装置が、“一つずつ順番”に計算をこなすことで行われる。
CPUは記録する機能を持たないので、『メモリ』や『ハードディスク』といった記録装置に途中経過を保存しながら情報を処理する。
そして画像は最終的にハードディスクに保存される。
コンピューターの情報処理
コンピューターでは『CPU』という計算装置が、
一時的な情報記憶装置『メモリ』や『ハードディスク』などの記録装置とやりとりしながら、様々な情報を一つずつ順番に処理している。
コンピューターが扱う情報は、全て『0』か『1』で表現されるデジタル情報である。
情報処理は早く、正確で、『適当さ』や『あいまいさ』はない。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
2019年03月16日
判断力・直観力
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
判断力・直観力
『直感』ではなく『直観』です
私たちは日々の生活の中で、様々な『判断』をする必要がある。
それらの判断は意識的にされるものもあれば、直観的にされるものもある。
一体このような判断は、脳内でどのように作られているのでしょうか?
また、直観力は、訓練で鍛えられるものなのでしょうか?
脳の情報処理@〜A
社会的判断@〜A
好き嫌いの判断
意思決定@〜A
損得勘定
直観の仕組み
直観と訓練
小脳と直観@〜A
コラム 絵画を“見る目”は脳で養われる?
コラム 脳の活動を透視する技術「fMRI」
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
判断力・直観力
『直感』ではなく『直観』です
私たちは日々の生活の中で、様々な『判断』をする必要がある。
それらの判断は意識的にされるものもあれば、直観的にされるものもある。
一体このような判断は、脳内でどのように作られているのでしょうか?
また、直観力は、訓練で鍛えられるものなのでしょうか?
脳の情報処理@〜A
社会的判断@〜A
好き嫌いの判断
意思決定@〜A
損得勘定
直観の仕組み
直観と訓練
小脳と直観@〜A
コラム 絵画を“見る目”は脳で養われる?
コラム 脳の活動を透視する技術「fMRI」
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
2019年03月15日
まだまだ知りたい記憶の不思議―続き
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
記憶と脳のQ&AA
まだまだ知りたい記憶の不思議―続き
Q6 記憶を長期記憶として覚えてしまえば、二度と忘れることはないのですか?
A6 そんなことはありません。
PP1(3月9日『記憶力の増強』)という酵素には、記憶を忘れさせる働きがあります。
さらに近年、非常に興味深い発見がありました。
記憶は一度固定されてしまえばそのまま安定すると考えがちです
が、実は、思い出すたびに一時的に不安定な状態になっているというのです。
ラットに警告音を聞かせて電気ショックを流すと、ラットはそのことを記憶し、
次回以降は警告音を聞かせただけですくみあがります。
さて、警告音と電気ショックの関係を記憶させたラットの脳に、ある物質を与えます。
このラットに警告音を聞かせると、その時は正常なラットと同様に、すくみあがります。
しかしその後ある程度の時間が経つと、警告音を機聞かせてもすくみあがることはありません。
つまり、警告音と電気ショックの関係を忘れたのです。
一方、この物質を与えたものの、物質の効果が続いている間に警告音をきかせなかった
(電気ショックのことを思い出させなかった)ラットは、
その後も警告音を聞くとすくみあがりました。
ある物質を与えただけでは記憶を忘れることはないが、
物質を与えて記憶を思い出させると、その記憶を忘れるという不思議なことが起きたのです。
ある物質とは「アニソマイシン」と呼ばれる抗生物質で、タンパク質の合成を阻害する働きがあります。
これらのことから推測できるのは、
『記憶を思い出した後にそれをもう一度固定するには、タンパク質の合成が必要不可欠』だということです。
この過程は『再固定』と呼ばれており、多くの研究者が注目している現象です。
Q7 記憶を消すことはできますか?
A7 例えばA6で説明した記憶の再固定の話は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療に応用できると期待されています。
PTSDとは、衝撃的な出来事で心に傷を負い、のちに様々なストレス障害を引き起こす病気です。
記憶が再固定される際に一度不安定になることを利用し、
PTSDの原因となっている記憶を消したり、弱めたりすることができるかもしれません。
Q8 記憶などの脳の活動は、電気信号によって作られているといいます。
しかしどうして電気信号から意識が生まれてくるのですか?
A8 非常に難しい質問です。
意識や心がなぜ生まれるのかについては、現代の脳科学でも答えられません。
この解明が脳科学の最終ゴールだと考えている研究者もいます。
Q9 記憶や脳の研究は、今後どうなっていくと予想されているのですか?
A9 これについては、理化学研究所脳科学総合研究センター特別顧問の伊藤正男(いとう まさお)博士がワクワクするような話を聞かせてくれました。
「脳研究はこれまで、イオンチャンネルや受容体を見つけたり、遺伝子を検索したりといった具合に、
細胞分子レベルの要素を次々と明らかにしてきました。
そのおかげで『活動電位』や『シナプスでの信号伝達』、『シナプス可塑性』など、
ニューロンの働く仕組みがかなりわかってきました。
しかし、膨大な神経回路網である脳の働きは、まだわかりません。
これまでは動物の脳の働きを中心に研究が進められてきましたが、これからはヒトの脳に肉薄していかなければならないと考えています。
意識や心の問題は、10年前は遠い目標で、手が届かないと思っていました。
しかし細胞分子レベルの研究が進んだことに加え、
ヒトの脳を傷つけることなく脳の働きを見ることができる画像法(fMRIなど)ができたこと、
脳の回路網の理論研究が進歩したこと、
コンピューターの性能が大幅に上がったことなど、
近年では色々な研究の条件が揃いつつあります。
活動している脳の中の膨大な数のニューロンの活動を洗いざらい調べ上げるような新しい技術を開発して、
意識や心の解明に本格的に挑戦する時代がやってきたようです」。
記憶と脳のQ&AA
まだまだ知りたい記憶の不思議―続き
Q6 記憶を長期記憶として覚えてしまえば、二度と忘れることはないのですか?
A6 そんなことはありません。
PP1(3月9日『記憶力の増強』)という酵素には、記憶を忘れさせる働きがあります。
さらに近年、非常に興味深い発見がありました。
記憶は一度固定されてしまえばそのまま安定すると考えがちです
が、実は、思い出すたびに一時的に不安定な状態になっているというのです。
ラットに警告音を聞かせて電気ショックを流すと、ラットはそのことを記憶し、
次回以降は警告音を聞かせただけですくみあがります。
さて、警告音と電気ショックの関係を記憶させたラットの脳に、ある物質を与えます。
このラットに警告音を聞かせると、その時は正常なラットと同様に、すくみあがります。
しかしその後ある程度の時間が経つと、警告音を機聞かせてもすくみあがることはありません。
つまり、警告音と電気ショックの関係を忘れたのです。
一方、この物質を与えたものの、物質の効果が続いている間に警告音をきかせなかった
(電気ショックのことを思い出させなかった)ラットは、
その後も警告音を聞くとすくみあがりました。
ある物質を与えただけでは記憶を忘れることはないが、
物質を与えて記憶を思い出させると、その記憶を忘れるという不思議なことが起きたのです。
ある物質とは「アニソマイシン」と呼ばれる抗生物質で、タンパク質の合成を阻害する働きがあります。
これらのことから推測できるのは、
『記憶を思い出した後にそれをもう一度固定するには、タンパク質の合成が必要不可欠』だということです。
この過程は『再固定』と呼ばれており、多くの研究者が注目している現象です。
Q7 記憶を消すことはできますか?
A7 例えばA6で説明した記憶の再固定の話は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療に応用できると期待されています。
PTSDとは、衝撃的な出来事で心に傷を負い、のちに様々なストレス障害を引き起こす病気です。
記憶が再固定される際に一度不安定になることを利用し、
PTSDの原因となっている記憶を消したり、弱めたりすることができるかもしれません。
Q8 記憶などの脳の活動は、電気信号によって作られているといいます。
しかしどうして電気信号から意識が生まれてくるのですか?
A8 非常に難しい質問です。
意識や心がなぜ生まれるのかについては、現代の脳科学でも答えられません。
この解明が脳科学の最終ゴールだと考えている研究者もいます。
Q9 記憶や脳の研究は、今後どうなっていくと予想されているのですか?
A9 これについては、理化学研究所脳科学総合研究センター特別顧問の伊藤正男(いとう まさお)博士がワクワクするような話を聞かせてくれました。
「脳研究はこれまで、イオンチャンネルや受容体を見つけたり、遺伝子を検索したりといった具合に、
細胞分子レベルの要素を次々と明らかにしてきました。
そのおかげで『活動電位』や『シナプスでの信号伝達』、『シナプス可塑性』など、
ニューロンの働く仕組みがかなりわかってきました。
しかし、膨大な神経回路網である脳の働きは、まだわかりません。
これまでは動物の脳の働きを中心に研究が進められてきましたが、これからはヒトの脳に肉薄していかなければならないと考えています。
意識や心の問題は、10年前は遠い目標で、手が届かないと思っていました。
しかし細胞分子レベルの研究が進んだことに加え、
ヒトの脳を傷つけることなく脳の働きを見ることができる画像法(fMRIなど)ができたこと、
脳の回路網の理論研究が進歩したこと、
コンピューターの性能が大幅に上がったことなど、
近年では色々な研究の条件が揃いつつあります。
活動している脳の中の膨大な数のニューロンの活動を洗いざらい調べ上げるような新しい技術を開発して、
意識や心の解明に本格的に挑戦する時代がやってきたようです」。
2019年03月14日
まだまだ知りたい記憶の不思議
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
記憶と脳のQ&A@
まだまだ知りたい記憶の不思議
記憶について知れば知るほど、新たに疑問が出てきた読者もいるだろう。
ここで、記憶と脳にまつわる様々な疑問を取り上げ、Q&A形式で答えていこう。
Q1 ニューロンは体の他の細胞と異なり、増殖することはないと聞きましたが?
A1 ニューロンは、通常、増殖能力はありません。
神経細胞が増殖して生まれ変わると、人格まで変わってしまうからです。
ヒトの高度な脳の働きは、記憶によって支えられていると言っても過言ではありません。
もし記憶を作っているニューロンが増殖してどんどん生まれ変わるとしたら、どうなるでしょうか?
せっかく作ったニューロンの回路は、ニューロンが生まれ変わるたびにズタズタになり、記憶は消えてしまうでしょう。
あなたがあなたで居られるのも、安定した記憶が維持されているからです。
ただし、海馬の中にあるニューロンの一種『顆粒細胞』は、増殖して増えることが近年わかってきました。
ニューロンは増えないという常識が覆されたのです。
海馬では、新たに増えたニューロンも記憶に使われているという説が出されています。
Q2 赤ちゃんの頃の記憶を覚えていないのはなぜですか?
A2 脳の成長と関係があります。
海馬が十分に機能し始めるのは3歳くらいになってからだと言われています。
つまりそれまで海馬が働かないわけですから、出来事の記憶、エピソード記憶を上手に作ることができないのです。
Q3 脳の記憶とコンピューターの記憶は何が違うのですか?
A3 コンピューターの記憶は、ありのままを全て覚えています。
あえて例えれば、写真のように視野の隅から隅まで記憶するわけです。
一方、脳の場合はコンピューターとは違い、重要なカギとなる部分を覚えます。
記憶を思い出すときには、覚えたものをそのまま読みだすのではありません。
カギとなる部分を手掛かりに、それまでの知識体系を引っ張り出しながら、これらを上手に組み合わせて記憶を作り出しているのです。
もう一つ、脳とコンピューターには大きな違いがあります。
コンピューターの場合は、記憶を作る際に自らの電子回路網が変化することはありません。
しかし脳の場合は、記憶をするたびにニューロンの回路網が変化していくのです。
Q4 記憶違いはどうして起こるのですか?
A4 脳は記憶を思い出すとき、手掛かりをもとに記憶を作り直す作業を行っています。
脳の各領域から記憶の“部品”を拾い集めてくるのです。
その過程で“部品”を集め損なったり、あるいは間違った“部品”が届けられたりすることがあると考えられています。
記憶違いが起きるのは、ある意味では当然と言えるのかもしれません。
Q5 例えば学校のそばを通るとチャイムの音が頭に思い浮かぶといったように、二つのことが結びついて記憶されていることが多いように感じます。
これはなぜですか?
A5 これについては、以下のような仮説があります。
あるAという印象的なことがあったとします。
このとき信号が流れたニューロンXでは、遺伝子の働きでタンパク質が合成されてL-LTP(後期長期増強)が発生し、長期記憶が作られているとします。
さて、このときに別のニューロンYから、Bということに対する関する信号入力がニューロンXにあったとします。
すでにニューロンXでは、Aということの信号を受けて、L-LTPによるタンンパク質の合成が進んでいます。
仮説では、Bの信号を受けたシナプスでも、このタンパク質が使われると考えられています。
この結果A、Bともに長期記憶となり、二つの記憶が結びつけられるというわけです。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
記憶と脳のQ&A@
まだまだ知りたい記憶の不思議
記憶について知れば知るほど、新たに疑問が出てきた読者もいるだろう。
ここで、記憶と脳にまつわる様々な疑問を取り上げ、Q&A形式で答えていこう。
Q1 ニューロンは体の他の細胞と異なり、増殖することはないと聞きましたが?
A1 ニューロンは、通常、増殖能力はありません。
神経細胞が増殖して生まれ変わると、人格まで変わってしまうからです。
ヒトの高度な脳の働きは、記憶によって支えられていると言っても過言ではありません。
もし記憶を作っているニューロンが増殖してどんどん生まれ変わるとしたら、どうなるでしょうか?
せっかく作ったニューロンの回路は、ニューロンが生まれ変わるたびにズタズタになり、記憶は消えてしまうでしょう。
あなたがあなたで居られるのも、安定した記憶が維持されているからです。
ただし、海馬の中にあるニューロンの一種『顆粒細胞』は、増殖して増えることが近年わかってきました。
ニューロンは増えないという常識が覆されたのです。
海馬では、新たに増えたニューロンも記憶に使われているという説が出されています。
Q2 赤ちゃんの頃の記憶を覚えていないのはなぜですか?
A2 脳の成長と関係があります。
海馬が十分に機能し始めるのは3歳くらいになってからだと言われています。
つまりそれまで海馬が働かないわけですから、出来事の記憶、エピソード記憶を上手に作ることができないのです。
Q3 脳の記憶とコンピューターの記憶は何が違うのですか?
A3 コンピューターの記憶は、ありのままを全て覚えています。
あえて例えれば、写真のように視野の隅から隅まで記憶するわけです。
一方、脳の場合はコンピューターとは違い、重要なカギとなる部分を覚えます。
記憶を思い出すときには、覚えたものをそのまま読みだすのではありません。
カギとなる部分を手掛かりに、それまでの知識体系を引っ張り出しながら、これらを上手に組み合わせて記憶を作り出しているのです。
もう一つ、脳とコンピューターには大きな違いがあります。
コンピューターの場合は、記憶を作る際に自らの電子回路網が変化することはありません。
しかし脳の場合は、記憶をするたびにニューロンの回路網が変化していくのです。
Q4 記憶違いはどうして起こるのですか?
A4 脳は記憶を思い出すとき、手掛かりをもとに記憶を作り直す作業を行っています。
脳の各領域から記憶の“部品”を拾い集めてくるのです。
その過程で“部品”を集め損なったり、あるいは間違った“部品”が届けられたりすることがあると考えられています。
記憶違いが起きるのは、ある意味では当然と言えるのかもしれません。
Q5 例えば学校のそばを通るとチャイムの音が頭に思い浮かぶといったように、二つのことが結びついて記憶されていることが多いように感じます。
これはなぜですか?
A5 これについては、以下のような仮説があります。
あるAという印象的なことがあったとします。
このとき信号が流れたニューロンXでは、遺伝子の働きでタンパク質が合成されてL-LTP(後期長期増強)が発生し、長期記憶が作られているとします。
さて、このときに別のニューロンYから、Bということに対する関する信号入力がニューロンXにあったとします。
すでにニューロンXでは、Aということの信号を受けて、L-LTPによるタンンパク質の合成が進んでいます。
仮説では、Bの信号を受けたシナプスでも、このタンパク質が使われると考えられています。
この結果A、Bともに長期記憶となり、二つの記憶が結びつけられるというわけです。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
2019年03月13日
訓練と脳のサイズA
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
記憶力
訓練と脳のサイズA
ロンドンのタクシードライバーの海馬は一般人と違う?
実は、ヒトの脳も、訓練によって大きさが変わることが知られている。
その場所は『海馬』だ。
海馬はこれまで見てきたように、エピソード記憶を作ると言う重要な役割を持つ。
その記憶の中には、空間(場所)の情報も含まれ、道順を覚えたりする時には、この海馬が働く。
場所の記憶が生存に大きく関わる鳥などの動物を使った実験では、その動物がこの記憶をもっとも必要になる季節になると、海馬の体積が大きくなることもわかっている。
ではヒトでも、場所の情報をたくさん記憶すればするほど、海馬が大きくなるのではないか?
こう考えたイギリス、ロンドン大学のエレノア・マグワイア博士らは、ロンドンのタクシードライバーの脳の大きさを調べてみることにした。
ロンドンのタクシードライバーの資格をとるのは、他の国や地域のタクシードライバーよりもはるかに大変だ。ロンドン市の何千と言う場所を迷わず進まなければならず、資格の習得には平均して約2年かかる。
つまり彼らは、一般の人たちよりも、多くの場所情報を記憶している職業集団なのである。
マグワイア博士らは、VBX(voxel-based morphometry)と言う方法(MRI画像の信号強度を元に脳の部分ごとの体積を比較検討する手法)を使って、ロンドンのタクシードライバーたちの脳と、そうでない一般の人たちの脳の体積を調べた。
その結果、海馬全体の体積にあまり違いはなかったが、海馬後部については、タクシードライバーたちの海馬の方が、一般の人たちより大きいことがわかった。
タクシードライバーは、ドライバーとしての経験が長くなるほど、それぞれの場所や道筋を互いに関連させて覚えようとしているため、記憶の量は多くなる。
マグワイア博士らの実験では、タクシードライバーとしての経験が長くなる人ほど、右脳の海馬後部が大きい傾向が見られた。
このことから、タクシードライバーの海馬は生まれつき大きいわけではなく、たくさんの場所情報を記憶することで、大きくなったことがわかる。
また、タクシードライバーの海馬は、一般の人よりも後部が大きい一方で、前部は小さい。
そして、経験の長いタクシードライバーほど、この傾向は強くなる。
このことから、単に海馬は大きくなるだけでなく、内部で神経細胞の分布が変わっているのではないか、とマグワイア博士は考える。
これまでに報告された研究成果によると、海馬後部は、以前に記憶した場所や道順の情報を思い出したり、使用したりするときに働く場所だという。
また、海馬後部を損傷した患者は、損傷前に記憶していた道順を思い出せなくなるという。
これらの報告と自身の研究成果を合わせて、マグワイア博士は、海馬後部と前部では役割が異なっており、後部は主に以前に記憶した場所や道順を日常生活で使用するときに働く一方で、海馬前部は新しく場所や道順を覚える(学習する)ときに働くのではないか、と考えている。
この研究により、健康な大人のヒトの脳でも、外界からの刺激によって、この構造が部分的に柔軟に変化することが示された。
この発見は、脳のけがや病気で苦しむ患者のリハビリテーションに影響を与えるかもしれない。
そして、今後の研究によって、海馬に限らず、脳の他の領域でも、外界からの刺激によって同じように構造の変化が起こることが明らかにされる日がくるかもしれない、とマグワイア博士は期待する。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
記憶力
訓練と脳のサイズA
ロンドンのタクシードライバーの海馬は一般人と違う?
実は、ヒトの脳も、訓練によって大きさが変わることが知られている。
その場所は『海馬』だ。
海馬はこれまで見てきたように、エピソード記憶を作ると言う重要な役割を持つ。
その記憶の中には、空間(場所)の情報も含まれ、道順を覚えたりする時には、この海馬が働く。
場所の記憶が生存に大きく関わる鳥などの動物を使った実験では、その動物がこの記憶をもっとも必要になる季節になると、海馬の体積が大きくなることもわかっている。
ではヒトでも、場所の情報をたくさん記憶すればするほど、海馬が大きくなるのではないか?
こう考えたイギリス、ロンドン大学のエレノア・マグワイア博士らは、ロンドンのタクシードライバーの脳の大きさを調べてみることにした。
ロンドンのタクシードライバーの資格をとるのは、他の国や地域のタクシードライバーよりもはるかに大変だ。ロンドン市の何千と言う場所を迷わず進まなければならず、資格の習得には平均して約2年かかる。
つまり彼らは、一般の人たちよりも、多くの場所情報を記憶している職業集団なのである。
マグワイア博士らは、VBX(voxel-based morphometry)と言う方法(MRI画像の信号強度を元に脳の部分ごとの体積を比較検討する手法)を使って、ロンドンのタクシードライバーたちの脳と、そうでない一般の人たちの脳の体積を調べた。
その結果、海馬全体の体積にあまり違いはなかったが、海馬後部については、タクシードライバーたちの海馬の方が、一般の人たちより大きいことがわかった。
タクシードライバーは、ドライバーとしての経験が長くなるほど、それぞれの場所や道筋を互いに関連させて覚えようとしているため、記憶の量は多くなる。
マグワイア博士らの実験では、タクシードライバーとしての経験が長くなる人ほど、右脳の海馬後部が大きい傾向が見られた。
このことから、タクシードライバーの海馬は生まれつき大きいわけではなく、たくさんの場所情報を記憶することで、大きくなったことがわかる。
また、タクシードライバーの海馬は、一般の人よりも後部が大きい一方で、前部は小さい。
そして、経験の長いタクシードライバーほど、この傾向は強くなる。
このことから、単に海馬は大きくなるだけでなく、内部で神経細胞の分布が変わっているのではないか、とマグワイア博士は考える。
これまでに報告された研究成果によると、海馬後部は、以前に記憶した場所や道順の情報を思い出したり、使用したりするときに働く場所だという。
また、海馬後部を損傷した患者は、損傷前に記憶していた道順を思い出せなくなるという。
これらの報告と自身の研究成果を合わせて、マグワイア博士は、海馬後部と前部では役割が異なっており、後部は主に以前に記憶した場所や道順を日常生活で使用するときに働く一方で、海馬前部は新しく場所や道順を覚える(学習する)ときに働くのではないか、と考えている。
この研究により、健康な大人のヒトの脳でも、外界からの刺激によって、この構造が部分的に柔軟に変化することが示された。
この発見は、脳のけがや病気で苦しむ患者のリハビリテーションに影響を与えるかもしれない。
そして、今後の研究によって、海馬に限らず、脳の他の領域でも、外界からの刺激によって同じように構造の変化が起こることが明らかにされる日がくるかもしれない、とマグワイア博士は期待する。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
2019年03月12日
訓練と脳のサイズ@
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
記憶力
訓練と脳のサイズ@
道具の使い方を学習したサルの脳が膨張!
筋力トレーニングによって筋肉が大きくなるように、
学習によって脳も膨張する。
理科学研究所の入來篤史(いりき あつし)チームリーダーは、サルが道具の使い方を学習した時、脳の構造にどのような変化が起きるかを、高性能なMRI装置を使って詳しく分析した。
すると、大脳で、かつてないほどの劇的な変化が検出されたのだ。
入來チームリーダーらは、野生では道具を使わないニホンザルに、熊手を使って遠くのエサをとる訓練を施した。
20日ほどで道具の使い方を学習したサルたちの脳を分析すると、特定の部位で、脳の体積の膨張を示す信号が検出された。
ある個体では、信号の強さは最大で17%上昇しており、これほど短期間に急な上昇が見られた例は初めてだという。
入來チームリーダーは、「神経細胞のつながり方や大きさが少し変化したくらいでは、説明が難しいほどの劇的な変化です。
道具の使用という、サルがまったく経験したことのないことを学習したことが、短期間での変化につながったのでしょう」と語る。
今回の研究が行われた本来の目的は、『人ならではの知性』の探求である。
道具を使えることは、人の知性の重要な要素の一つである。
道具の使用でサルの脳に起きた変化は、人が知性を獲得し始めた時に起きた脳の変化と似た状況を示している可能性があるという。
サルの脳で変化した部位は、人では、道具使用、言語や概念など、高度な機能に関わると言われている部位に対応していた。
今回のサルの脳の変化がどのようなメカニズムによって起きたのかなど、詳細の解明はまだこれからだが、ダイナミックに変化する脳を通して、ヒトが知性を獲得していった過程が、明らかになるかもしれない。
道具の使い方を学習したサルの脳に現れた変化
道具の使い方を学習した前後で、ニホンザルの大脳皮質の3カ所に構造の変化を示す信号が検出された。
これらの部位は、視覚や触覚などの感覚情報をまとめ、行動を制御する部位だ。
大脳皮質のほか、『小脳脚部』という脳の内部にある部位にも変化が現れた。
この部位は、小脳と大脳をつなく軸索が多く通る”連絡通路”のような場所だ。
大脳皮質などの神経細胞の本体が集まる場所(灰白質)ではなく、小脳脚部のように軸索が多く通る場所(白質)に、学習による変化が観察された例は初めてだった。
サルの脳の変化は、ヒトの脳の進化に対応?
変化が見られたサルの脳の部位と対応するヒトの脳の部位を示した(赤い部位)。
これらの部位は、道具の使用や、概念(物事に対する一般的なイメージ)、言語など、ヒトならではの高度な機能に関わっている。
この部位は、ヒトが進化の過程で特に発達させた部位の一部である。
今回、道具の使用によって、サルのこの部位が変化したということは、この部位の発達がヒトの知性の発達に深く関わっていた可能性を示している。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
記憶力
訓練と脳のサイズ@
道具の使い方を学習したサルの脳が膨張!
筋力トレーニングによって筋肉が大きくなるように、
学習によって脳も膨張する。
理科学研究所の入來篤史(いりき あつし)チームリーダーは、サルが道具の使い方を学習した時、脳の構造にどのような変化が起きるかを、高性能なMRI装置を使って詳しく分析した。
すると、大脳で、かつてないほどの劇的な変化が検出されたのだ。
入來チームリーダーらは、野生では道具を使わないニホンザルに、熊手を使って遠くのエサをとる訓練を施した。
20日ほどで道具の使い方を学習したサルたちの脳を分析すると、特定の部位で、脳の体積の膨張を示す信号が検出された。
ある個体では、信号の強さは最大で17%上昇しており、これほど短期間に急な上昇が見られた例は初めてだという。
入來チームリーダーは、「神経細胞のつながり方や大きさが少し変化したくらいでは、説明が難しいほどの劇的な変化です。
道具の使用という、サルがまったく経験したことのないことを学習したことが、短期間での変化につながったのでしょう」と語る。
今回の研究が行われた本来の目的は、『人ならではの知性』の探求である。
道具を使えることは、人の知性の重要な要素の一つである。
道具の使用でサルの脳に起きた変化は、人が知性を獲得し始めた時に起きた脳の変化と似た状況を示している可能性があるという。
サルの脳で変化した部位は、人では、道具使用、言語や概念など、高度な機能に関わると言われている部位に対応していた。
今回のサルの脳の変化がどのようなメカニズムによって起きたのかなど、詳細の解明はまだこれからだが、ダイナミックに変化する脳を通して、ヒトが知性を獲得していった過程が、明らかになるかもしれない。
道具の使い方を学習したサルの脳に現れた変化
道具の使い方を学習した前後で、ニホンザルの大脳皮質の3カ所に構造の変化を示す信号が検出された。
これらの部位は、視覚や触覚などの感覚情報をまとめ、行動を制御する部位だ。
大脳皮質のほか、『小脳脚部』という脳の内部にある部位にも変化が現れた。
この部位は、小脳と大脳をつなく軸索が多く通る”連絡通路”のような場所だ。
大脳皮質などの神経細胞の本体が集まる場所(灰白質)ではなく、小脳脚部のように軸索が多く通る場所(白質)に、学習による変化が観察された例は初めてだった。
サルの脳の変化は、ヒトの脳の進化に対応?
変化が見られたサルの脳の部位と対応するヒトの脳の部位を示した(赤い部位)。
これらの部位は、道具の使用や、概念(物事に対する一般的なイメージ)、言語など、ヒトならではの高度な機能に関わっている。
この部位は、ヒトが進化の過程で特に発達させた部位の一部である。
今回、道具の使用によって、サルのこの部位が変化したということは、この部位の発達がヒトの知性の発達に深く関わっていた可能性を示している。
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行