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2019年03月15日
まだまだ知りたい記憶の不思議―続き
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
記憶と脳のQ&AA
まだまだ知りたい記憶の不思議―続き
Q6 記憶を長期記憶として覚えてしまえば、二度と忘れることはないのですか?
A6 そんなことはありません。
PP1(3月9日『記憶力の増強』)という酵素には、記憶を忘れさせる働きがあります。
さらに近年、非常に興味深い発見がありました。
記憶は一度固定されてしまえばそのまま安定すると考えがちです
が、実は、思い出すたびに一時的に不安定な状態になっているというのです。
ラットに警告音を聞かせて電気ショックを流すと、ラットはそのことを記憶し、
次回以降は警告音を聞かせただけですくみあがります。
さて、警告音と電気ショックの関係を記憶させたラットの脳に、ある物質を与えます。
このラットに警告音を聞かせると、その時は正常なラットと同様に、すくみあがります。
しかしその後ある程度の時間が経つと、警告音を機聞かせてもすくみあがることはありません。
つまり、警告音と電気ショックの関係を忘れたのです。
一方、この物質を与えたものの、物質の効果が続いている間に警告音をきかせなかった
(電気ショックのことを思い出させなかった)ラットは、
その後も警告音を聞くとすくみあがりました。
ある物質を与えただけでは記憶を忘れることはないが、
物質を与えて記憶を思い出させると、その記憶を忘れるという不思議なことが起きたのです。
ある物質とは「アニソマイシン」と呼ばれる抗生物質で、タンパク質の合成を阻害する働きがあります。
これらのことから推測できるのは、
『記憶を思い出した後にそれをもう一度固定するには、タンパク質の合成が必要不可欠』だということです。
この過程は『再固定』と呼ばれており、多くの研究者が注目している現象です。
Q7 記憶を消すことはできますか?
A7 例えばA6で説明した記憶の再固定の話は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療に応用できると期待されています。
PTSDとは、衝撃的な出来事で心に傷を負い、のちに様々なストレス障害を引き起こす病気です。
記憶が再固定される際に一度不安定になることを利用し、
PTSDの原因となっている記憶を消したり、弱めたりすることができるかもしれません。
Q8 記憶などの脳の活動は、電気信号によって作られているといいます。
しかしどうして電気信号から意識が生まれてくるのですか?
A8 非常に難しい質問です。
意識や心がなぜ生まれるのかについては、現代の脳科学でも答えられません。
この解明が脳科学の最終ゴールだと考えている研究者もいます。
Q9 記憶や脳の研究は、今後どうなっていくと予想されているのですか?
A9 これについては、理化学研究所脳科学総合研究センター特別顧問の伊藤正男(いとう まさお)博士がワクワクするような話を聞かせてくれました。
「脳研究はこれまで、イオンチャンネルや受容体を見つけたり、遺伝子を検索したりといった具合に、
細胞分子レベルの要素を次々と明らかにしてきました。
そのおかげで『活動電位』や『シナプスでの信号伝達』、『シナプス可塑性』など、
ニューロンの働く仕組みがかなりわかってきました。
しかし、膨大な神経回路網である脳の働きは、まだわかりません。
これまでは動物の脳の働きを中心に研究が進められてきましたが、これからはヒトの脳に肉薄していかなければならないと考えています。
意識や心の問題は、10年前は遠い目標で、手が届かないと思っていました。
しかし細胞分子レベルの研究が進んだことに加え、
ヒトの脳を傷つけることなく脳の働きを見ることができる画像法(fMRIなど)ができたこと、
脳の回路網の理論研究が進歩したこと、
コンピューターの性能が大幅に上がったことなど、
近年では色々な研究の条件が揃いつつあります。
活動している脳の中の膨大な数のニューロンの活動を洗いざらい調べ上げるような新しい技術を開発して、
意識や心の解明に本格的に挑戦する時代がやってきたようです」。
記憶と脳のQ&AA
まだまだ知りたい記憶の不思議―続き
Q6 記憶を長期記憶として覚えてしまえば、二度と忘れることはないのですか?
A6 そんなことはありません。
PP1(3月9日『記憶力の増強』)という酵素には、記憶を忘れさせる働きがあります。
さらに近年、非常に興味深い発見がありました。
記憶は一度固定されてしまえばそのまま安定すると考えがちです
が、実は、思い出すたびに一時的に不安定な状態になっているというのです。
ラットに警告音を聞かせて電気ショックを流すと、ラットはそのことを記憶し、
次回以降は警告音を聞かせただけですくみあがります。
さて、警告音と電気ショックの関係を記憶させたラットの脳に、ある物質を与えます。
このラットに警告音を聞かせると、その時は正常なラットと同様に、すくみあがります。
しかしその後ある程度の時間が経つと、警告音を機聞かせてもすくみあがることはありません。
つまり、警告音と電気ショックの関係を忘れたのです。
一方、この物質を与えたものの、物質の効果が続いている間に警告音をきかせなかった
(電気ショックのことを思い出させなかった)ラットは、
その後も警告音を聞くとすくみあがりました。
ある物質を与えただけでは記憶を忘れることはないが、
物質を与えて記憶を思い出させると、その記憶を忘れるという不思議なことが起きたのです。
ある物質とは「アニソマイシン」と呼ばれる抗生物質で、タンパク質の合成を阻害する働きがあります。
これらのことから推測できるのは、
『記憶を思い出した後にそれをもう一度固定するには、タンパク質の合成が必要不可欠』だということです。
この過程は『再固定』と呼ばれており、多くの研究者が注目している現象です。
Q7 記憶を消すことはできますか?
A7 例えばA6で説明した記憶の再固定の話は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療に応用できると期待されています。
PTSDとは、衝撃的な出来事で心に傷を負い、のちに様々なストレス障害を引き起こす病気です。
記憶が再固定される際に一度不安定になることを利用し、
PTSDの原因となっている記憶を消したり、弱めたりすることができるかもしれません。
Q8 記憶などの脳の活動は、電気信号によって作られているといいます。
しかしどうして電気信号から意識が生まれてくるのですか?
A8 非常に難しい質問です。
意識や心がなぜ生まれるのかについては、現代の脳科学でも答えられません。
この解明が脳科学の最終ゴールだと考えている研究者もいます。
Q9 記憶や脳の研究は、今後どうなっていくと予想されているのですか?
A9 これについては、理化学研究所脳科学総合研究センター特別顧問の伊藤正男(いとう まさお)博士がワクワクするような話を聞かせてくれました。
「脳研究はこれまで、イオンチャンネルや受容体を見つけたり、遺伝子を検索したりといった具合に、
細胞分子レベルの要素を次々と明らかにしてきました。
そのおかげで『活動電位』や『シナプスでの信号伝達』、『シナプス可塑性』など、
ニューロンの働く仕組みがかなりわかってきました。
しかし、膨大な神経回路網である脳の働きは、まだわかりません。
これまでは動物の脳の働きを中心に研究が進められてきましたが、これからはヒトの脳に肉薄していかなければならないと考えています。
意識や心の問題は、10年前は遠い目標で、手が届かないと思っていました。
しかし細胞分子レベルの研究が進んだことに加え、
ヒトの脳を傷つけることなく脳の働きを見ることができる画像法(fMRIなど)ができたこと、
脳の回路網の理論研究が進歩したこと、
コンピューターの性能が大幅に上がったことなど、
近年では色々な研究の条件が揃いつつあります。
活動している脳の中の膨大な数のニューロンの活動を洗いざらい調べ上げるような新しい技術を開発して、
意識や心の解明に本格的に挑戦する時代がやってきたようです」。