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2019年03月06日
海馬と記憶A
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
記憶力
海馬と記憶A
場所細胞の発火のタイミングが出来事の順番を記憶する
海馬がないと新しい出来事の記憶ができない!
海馬ではどのような情報処理が行われているのだろうか?
海馬で作られるのは、出来事の記憶『エピソード記憶』である。
出来事というものは、それを経験した順番(時間)や場所(空間)がその通りに記憶されなければならない。
あべこべになっては、記憶としての意味がなくなる。
実際に、時間と空間の流れを正確に記憶する仕組みが『海馬』にあることが、ラットの研究で明らかになりつつある。
ラットの海馬には『場所細胞』と名付けられたニューロンがある。
これはある場所の中で、ラットが特定の場所にいるときにだけ興奮(発火)する細胞である。
つまり、ある空間の中で自分がどこにいるのかを認識する細胞である。
海馬の中に部屋の地図を描いているようなものだ。
さて、場所細胞は、ラットがその場所にいる間は興奮し、繰り返し発火し続ける。
1秒間に8回程度のリズムを刻む(8Hz)。
さらに、ひとつのひとつの場所細胞の発火活動のタイミングは、シータ波(10Hz)という脳波によって精細に決められていることが分かった。
シータ波が、オーケストラにおける指揮者のように、全員の活動するタイミングを決める役割をしている。
さらに面白いことに、ひとつの場所細胞の発火活動パターンは、シータ波に完全に同期しているわけではなく、シータ波に対して場所細胞の発火タイミングの位相が少しずつ前進していく(8Hzだから)というもので、オキーフ博士(2014年度ノーベル生理学・医学賞受賞)はこれを位相前進(Phase precession)と名付けた。
場所細胞の法則的な位相のずれのために、
シータ波の1サイクルの中でもそれぞれの場所細胞の相対的位置関係が分かってしまう。
つまり、空間表現が0.1秒ぐらいのシータ波1サイクルに圧縮されていることになる。
いままで歩いてきた過去の道筋と、これから歩いて行く未来の道筋の両方が、脳の海馬のなかでは0.1秒の一瞬で表現されている。
ラットの海馬とヒトの海馬を比べると、回路の構造に大きな違いは見られない。
ラットの海馬の『どの順番(時間)でどの場所(空間)を移動したか、つまり出来事の記憶にとって欠かすことのできない”時間”と”空間”の流れを整理している仕組みは、ヒトの海馬でも使われている可能性がある。
海馬にできた記憶は、最終的には側頭葉などの大脳皮質に固定されるはずである。
しかしその具体的な仕組みについては、残念ながら現在のところわかっていない。
ただしヒントはある。
ラットの場所細胞が、”眠っている間”にも発火していることが確かめられた。
しかも発火の順番は、ラットが起きているときに測定された発火の順番と同じだった。
ラットは眠りながら、起きている間に経験した出来事を再現しているらしい。
理科学研究所脳科学研究センター神経情報基盤センターの山口陽子(やまぐち ようこ)センター長は次のように語る。
『このときラットはおそらく夢を見ているのでしょう。海馬は、起きている間に経験して記憶した出来事を、眠りながら再生し、必要なものだけを大脳皮質に送っているのかもしれません』。
海馬への信号は、海馬傍回から入ってくる
海馬への信号入力は、必ず海馬傍回を通る。
そして『歯状回』から『CA3』、『CA1』と言う領域を経て、再び海馬傍回から出力される。
エピソード記憶は、海馬の中をこのような経路で信号が流れる間に作られる。
CA3やCA1には『錐体細胞』と呼ばれるニューロンが多数あり、盛んにLTP(長期増強 Long Term Potentiation)
を発生させて記憶を作る。
01:大脳縦裂、02:脳梁、03:脳弓、04:中心前回、05:中心溝、06:中心後回、07:尾状核、08:視床、09:被殻、10:淡蒼球、11:前障、12:扁桃体[扁桃核複合]、13:視床下部、14:漏斗、15:視索、16:外側窩、17:大脳外側溝、18:視床下核、19:乳頭体、20:黒質、21:海馬、22:横側頭回
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行
記憶力
海馬と記憶A
場所細胞の発火のタイミングが出来事の順番を記憶する
海馬がないと新しい出来事の記憶ができない!
海馬ではどのような情報処理が行われているのだろうか?
海馬で作られるのは、出来事の記憶『エピソード記憶』である。
出来事というものは、それを経験した順番(時間)や場所(空間)がその通りに記憶されなければならない。
あべこべになっては、記憶としての意味がなくなる。
実際に、時間と空間の流れを正確に記憶する仕組みが『海馬』にあることが、ラットの研究で明らかになりつつある。
ラットの海馬には『場所細胞』と名付けられたニューロンがある。
これはある場所の中で、ラットが特定の場所にいるときにだけ興奮(発火)する細胞である。
つまり、ある空間の中で自分がどこにいるのかを認識する細胞である。
海馬の中に部屋の地図を描いているようなものだ。
さて、場所細胞は、ラットがその場所にいる間は興奮し、繰り返し発火し続ける。
1秒間に8回程度のリズムを刻む(8Hz)。
さらに、ひとつのひとつの場所細胞の発火活動のタイミングは、シータ波(10Hz)という脳波によって精細に決められていることが分かった。
シータ波が、オーケストラにおける指揮者のように、全員の活動するタイミングを決める役割をしている。
さらに面白いことに、ひとつの場所細胞の発火活動パターンは、シータ波に完全に同期しているわけではなく、シータ波に対して場所細胞の発火タイミングの位相が少しずつ前進していく(8Hzだから)というもので、オキーフ博士(2014年度ノーベル生理学・医学賞受賞)はこれを位相前進(Phase precession)と名付けた。
場所細胞の法則的な位相のずれのために、
シータ波の1サイクルの中でもそれぞれの場所細胞の相対的位置関係が分かってしまう。
つまり、空間表現が0.1秒ぐらいのシータ波1サイクルに圧縮されていることになる。
いままで歩いてきた過去の道筋と、これから歩いて行く未来の道筋の両方が、脳の海馬のなかでは0.1秒の一瞬で表現されている。
ラットの海馬とヒトの海馬を比べると、回路の構造に大きな違いは見られない。
ラットの海馬の『どの順番(時間)でどの場所(空間)を移動したか、つまり出来事の記憶にとって欠かすことのできない”時間”と”空間”の流れを整理している仕組みは、ヒトの海馬でも使われている可能性がある。
海馬にできた記憶は、最終的には側頭葉などの大脳皮質に固定されるはずである。
しかしその具体的な仕組みについては、残念ながら現在のところわかっていない。
ただしヒントはある。
ラットの場所細胞が、”眠っている間”にも発火していることが確かめられた。
しかも発火の順番は、ラットが起きているときに測定された発火の順番と同じだった。
ラットは眠りながら、起きている間に経験した出来事を再現しているらしい。
理科学研究所脳科学研究センター神経情報基盤センターの山口陽子(やまぐち ようこ)センター長は次のように語る。
『このときラットはおそらく夢を見ているのでしょう。海馬は、起きている間に経験して記憶した出来事を、眠りながら再生し、必要なものだけを大脳皮質に送っているのかもしれません』。
海馬への信号は、海馬傍回から入ってくる
海馬への信号入力は、必ず海馬傍回を通る。
そして『歯状回』から『CA3』、『CA1』と言う領域を経て、再び海馬傍回から出力される。
エピソード記憶は、海馬の中をこのような経路で信号が流れる間に作られる。
CA3やCA1には『錐体細胞』と呼ばれるニューロンが多数あり、盛んにLTP(長期増強 Long Term Potentiation)
を発生させて記憶を作る。
01:大脳縦裂、02:脳梁、03:脳弓、04:中心前回、05:中心溝、06:中心後回、07:尾状核、08:視床、09:被殻、10:淡蒼球、11:前障、12:扁桃体[扁桃核複合]、13:視床下部、14:漏斗、15:視索、16:外側窩、17:大脳外側溝、18:視床下核、19:乳頭体、20:黒質、21:海馬、22:横側頭回
参考文献:ニュートン別冊 脳力のしくみ 2018年7月15日発行