2018年09月22日
2018/2019年シーズンのインフルエンザ・ワクチン接種プログラムと経鼻ワクチン
トロント公衆衛生局(Toronto Public Health: TPH)が2018/2019年シーズンのインフルエンザ・ワクチン接種プログラムについて情報を公開しました。気にされている方も少なくないと思いますので、ここに共有したいと思います。
A. 高用量3価不活化ワクチン(High-Dose Trivalent Inactivated Vaccine [HD-TIV])
HD-TIVは通常用量のワクチンに比べて効果が高いことが示されており、高齢の方でA型インフルエンザウイルスによる罹患率が高いことから、トロント公衆衛生局は65歳以上の方(強い副反応歴など接種を避けるべき理由がなければ)に推奨しています。
B.4価不活化ワクチン (Quadrivalent Inactivated Vaccine [QIV])
※2歳から17歳の子供はこのQIVではなく、経鼻ワクチン(鼻スプレータイプ)の4価弱毒化生ワクチン(Quadrivalent, Live Attenuated Influenza Vaccine [Q-LAIV])を選択することも可能。
以下はトロント公衆衛生局からの発表ではありませんが、少し鼻スプレータイプ(経鼻)ワクチンについて書いてみたいと思います。私の以前の仕事と若干関係があるので少し専門的かもしれませんが、なるべくかみ砕いて書きますので興味のある方はどうぞ。
経鼻(鼻スプレータイプの)ワクチン(FluMist)は2003年にアメリカで、2011年にヨーロッパで承認されていますが、日本では承認されていません。子供にとって注射はいやなものですし、また注射タイプの不活化ワクチンですと、インフルエンザの感染経路である上気道に十分免疫が誘導されないとされています。
事実、2009年新型インフルエンザウイルスの出現までは経鼻ワクチンの方が効果が高いとする研究が出ていました。ところが2013/2014シーズンからアメリカでFluMistの効果が低下していることが指摘されるようになりました。これはFluMistが2009年型新型インフルエンザウイルス類似のウイルス(influenza A(H1N1)pdm09-like virus)に効果が発揮できなかったことが原因とされています。そのため、米国疾病管理予防センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)は2016/17シーズン以降、同ワクチンを接種推奨リストから取り下げていました。
経鼻ワクチンが2009年新型インフルエンザウイルス類似のウイルスに効果が発揮できなかったのは、ワクチン製造に用いたウイルスの増殖能力が悪かったことが原因と考えられました。生ワクチンですから、鼻にスプレーした後、ウイルスが粘膜に感染して増殖しないと効果が出ないのです。
そこでワクチン製造会社はワクチンをつくるのに用いたウイルス株をより増殖能力が高いウイルスに変更しました。この改良型経鼻ワクチンは接種後の抗体価の上昇が良好なことが示されています。ただし2017/2018年シーズンは2009年新型インフルエンザの感染は広まらず、殆どがA(H3N2)型インフルエンザウイルスとB型インフルエンザウイルスだったため、この改良型経鼻ワクチンが本当に有効かどうかのデータはまだありません。
CDCの予防接種諮問委員会は総合的に考えて、この経鼻ワクチンを今シーズンから再度推奨リストに加えています。トロント公衆衛生局もこのような流れを受けているものと考えられます。
参考:
CDC > MMWR - Update: ACIP Recommendations for the Use of Quadrivalent Live Attenuated Influenza Vaccine (LAIV4) − United States, 2018–19 Influenza Season. June 8, 2018; 67(22): 643–645. (⇒ こちら)
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A. 高用量3価不活化ワクチン(High-Dose Trivalent Inactivated Vaccine [HD-TIV])
- 商品名Fluzone High Dose (HD)
- 公費負担です
- 65歳以上の方に推奨されています
- 医院または長期入居型の介護施設でのみ接種できます
HD-TIVは通常用量のワクチンに比べて効果が高いことが示されており、高齢の方でA型インフルエンザウイルスによる罹患率が高いことから、トロント公衆衛生局は65歳以上の方(強い副反応歴など接種を避けるべき理由がなければ)に推奨しています。
B.4価不活化ワクチン (Quadrivalent Inactivated Vaccine [QIV])
- 商品名 FluLaval Tetra, Fluzone Quadrivalent
- 6ヶ月齢以上の子供と全ての大人が対象
※2歳から17歳の子供はこのQIVではなく、経鼻ワクチン(鼻スプレータイプ)の4価弱毒化生ワクチン(Quadrivalent, Live Attenuated Influenza Vaccine [Q-LAIV])を選択することも可能。
経鼻ワクチンは注射嫌いとしては確かに惹かれますが...FluMist Quadrivalentのウェブサイトより。 (https://www.flumistquadrivalent.com/) |
以下はトロント公衆衛生局からの発表ではありませんが、少し鼻スプレータイプ(経鼻)ワクチンについて書いてみたいと思います。私の以前の仕事と若干関係があるので少し専門的かもしれませんが、なるべくかみ砕いて書きますので興味のある方はどうぞ。
経鼻(鼻スプレータイプの)ワクチン(FluMist)は2003年にアメリカで、2011年にヨーロッパで承認されていますが、日本では承認されていません。子供にとって注射はいやなものですし、また注射タイプの不活化ワクチンですと、インフルエンザの感染経路である上気道に十分免疫が誘導されないとされています。
事実、2009年新型インフルエンザウイルスの出現までは経鼻ワクチンの方が効果が高いとする研究が出ていました。ところが2013/2014シーズンからアメリカでFluMistの効果が低下していることが指摘されるようになりました。これはFluMistが2009年型新型インフルエンザウイルス類似のウイルス(influenza A(H1N1)pdm09-like virus)に効果が発揮できなかったことが原因とされています。そのため、米国疾病管理予防センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)は2016/17シーズン以降、同ワクチンを接種推奨リストから取り下げていました。
経鼻ワクチンが2009年新型インフルエンザウイルス類似のウイルスに効果が発揮できなかったのは、ワクチン製造に用いたウイルスの増殖能力が悪かったことが原因と考えられました。生ワクチンですから、鼻にスプレーした後、ウイルスが粘膜に感染して増殖しないと効果が出ないのです。
そこでワクチン製造会社はワクチンをつくるのに用いたウイルス株をより増殖能力が高いウイルスに変更しました。この改良型経鼻ワクチンは接種後の抗体価の上昇が良好なことが示されています。ただし2017/2018年シーズンは2009年新型インフルエンザの感染は広まらず、殆どがA(H3N2)型インフルエンザウイルスとB型インフルエンザウイルスだったため、この改良型経鼻ワクチンが本当に有効かどうかのデータはまだありません。
CDCの予防接種諮問委員会は総合的に考えて、この経鼻ワクチンを今シーズンから再度推奨リストに加えています。トロント公衆衛生局もこのような流れを受けているものと考えられます。
参考:
CDC > MMWR - Update: ACIP Recommendations for the Use of Quadrivalent Live Attenuated Influenza Vaccine (LAIV4) − United States, 2018–19 Influenza Season. June 8, 2018; 67(22): 643–645. (⇒ こちら)
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