2020年05月14日
都会は孤独なのか?スーツという最小公倍数に癒される!
都会に住むようになって、電車を使うようになった。
そして気がつくと、スーツ姿の男性の股間に目がいっている自分がいる。
そして気がつくと、スーツ姿の男性の股間に目がいっている自分がいる。
向かいの座席に座っているスーツ姿の男性の、スラックスの膨らみを目で追っている。無意識だった。自分でもおかしいと思うけれども、どうしても目が追ってしまう。目をぎゅっとつぶって、寝たふりをしても、まぶたの奥でさっきの残像が頭に再生されてしまう。
膨らみ具合が大きいとか、小さいとかではなく、なんだろう。
見ると、安心するのだ。
犬や猫が、お互いの匂いを嗅ぎ合うような、そんな感じなのだろうか。
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「 いらっしゃいませ。 」
店のドアが開いて、スーツ姿の男性が入ってきた。
僕は学生の頃、コンビニバイトをしていた。夕方5時から夜の11時までだった。週3回。
「 いらっしゃいませ。 」
僕はもう一度、声を出した。別のスーツ姿の男性が入店したからだ。
僕は学生時代はまじめだったからか、それが普通なのか、お客が一人入店する度に、挨拶をしていた。
僕はもう一度、声を出した。別のスーツ姿の男性が入店したからだ。
僕は学生時代はまじめだったからか、それが普通なのか、お客が一人入店する度に、挨拶をしていた。
声を出すのが、気持ちよかった。
初めに入店したスーツ姿の男性は、からあげ弁当とペットボトルのお茶を持ってきた。よく見かける、30代くらいのがっちりした体格のサラリーマンだった。
「 お弁当、温めますか? 」
僕は、聞いた。
僕は、聞いた。
温めないことを、僕は知っている。いつも、そうだったから。
「 あっ、大丈夫です。 」
そのサラリーマンは答えた。
そのサラリーマンは答えた。
やっぱりだ。
そして、いつものように会計にはクレジットカードを出すんだ。
ほら、やっぱり。
週に3回のこのバイトで、1度は見かけるこのサラリーマンも、僕の中では 赤の他人 なのだろうか。僕はそんなことを 考える。年に1度も実家に帰らないで顔を合わせなくなった親たちは、どうなんだろう。
「 ありがとうございました。 」
そのサラリーマンが、店を出ていった。
夜の8時。
夜の8時。
僕は、レジの時計をぼんやり見ていた。
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気がつくと、また 向かいのサラリーマンのスラックスの膨らみに目がいっていた。
それぞれの毎日があって、それぞれの思い出があるのだろう。みんな、家ではそれぞれの格好をして過ごし、朝になるとスーツを着て、家を出る。帰宅をすれば、スーツを脱いで、またそれぞれの自分に戻るのだ。
そんな当たり前のことなんだけど、そんな当たり前のことが、あの膨らみの中に凝縮されているようで、とても愛おしい感じがした。
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週末の金曜日のバイトの日だった。
あのサラリーマンは、いつものようにやってきた。
定番の弁当と、お茶。ーーーと、コンドームだった。
僕の、少しの沈黙に気づかれただろうか、すぐにいつものように
「 お弁当 温めますか ? 」
と、聞いた。
「 お弁当 温めますか ? 」
と、聞いた。
温めないことを、知っているのに。
「 お願いします 」
彼は、そう答えた。いつもの、スーツ姿だった。
彼は、そう答えた。いつもの、スーツ姿だった。
そうか、今日は温めるんだ。
僕は、ただそう思った。
僕は、ただそう思った。
後ろを向いて弁当をレンジに入れて、ボタンを押した。ヴ―ンん という低い音が鳴りだした。
コンドームを紙袋に入れて、その紙袋をドリンクと一緒にビニール袋に入れた。
手が、少し震えていたのに気づかれないように。
手が、少し震えていたのに気づかれないように。
渡されたクレジットカードを返す。
チン。
と、レンジが 温めの終わりを告げた。
ーーー そうか。
やっぱり、僕らは赤の他人だったんだ。
なぜか、そう思った。
初めから 他人だったくせに。
初めから 他人だったくせに。
サラリーマンが商品を受け取り、店を出ていく。
僕は、彼の後ろ姿を見送りながら、
僕は、彼の後ろ姿を見送りながら、
「 ありがとうございました。 」
と、いつものように見送った。
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自分が社会人になって、スーツを着るようになって、他人の膨らみが気になっていると自覚し始めて、、、、少したった頃。思ったことが、あった。
あの学生の頃。コンビニのバイトで、店を訪れるサラリーマンの人たちの股間の膨らみを、僕は気にしていただろうか。思い出そうとしても、思い出せない。思い出せないということは、気にしてはいなかったということだろう。
自分が社会人になって、スーツを着るようになってからなのだ。気になりだしたのは。
スーツ姿には不思議なフェロモンのような、サプリメントのような、引き寄せられるような、元気にさせてくれるような力がある。
どれも似たり寄ったりのスーツだけど、あの膨らみだけは指紋のように、個性を感じる。その人らしさを感じて、一人きりじゃない、って元気づけてくれるのだ。
スーツ は本当にすごいと思う。
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「 お世話になりました。 」
大学4年の春。僕はコンビニバイトを辞めた。就職活動に専念するためだ。
桜が、もうすぐ満開になろうとしていた。
あのサラリーマンも、もう姿を見なくなった。会社の異動で引っ越しをしたのかもしれなかった。
通い慣れた、店から駅までの道を歩いていた。バイトをするためだけに通った道だった。
何でもないどこにでもあるような、幹線道路沿いの道だった。
何でもないどこにでもあるような、幹線道路沿いの道だった。
最寄りの駅に着くと、最後になるかもしれない改札をくぐる。ホームに電車が着いて、人が降りてきた。
あのサラリーマンだ。
一瞬で、目に捉えた。あの頃のいつものスーツ姿の、彼だった。
いつもは温めなかった、彼の弁当を初めて温めた日。
あの日の 僕が よみがえった。
あの日の 僕が よみがえった。
ーーー 赤の他人なんだ。
僕の中で、そのリフレインが鳴り止まなかった。
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タグ:プリケツ
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