【リスボンへの夜行列車】
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物語の主人公は定年間近のギムナジウム教師・グレゴリウス。
古典文献学を教えていて、ギリシア語、ラテン語、ヘブライ語に精通し、
聖書や古典に対する深い知識から、皆に「ムンドゥス(世界)」と敬意を込めた異名で呼ばれる男だ。
まるで古典の中に生きているように、「現代語」の会話さえ苦手な彼が、
偶然であった女性が残したただ一つの言葉「ポルトゥゲーシュ(ポルトガル語)」の響きに導かれて、一冊の本にたどり着く。
リスボンの医者アマデウ・デ・プラドが書いたという本、『言葉の金細工師』。
文字通りその本の虜になった彼は、押さえきれない衝動に突き動かされて、
すべてを投げ捨ててあてもないままにリスボン行きの夜行列車に乗りこみ、
行き当たりばったりにプラドへとつながる道を探っていく。
プラドの肉親、友人、恋人を訪ね、プラドの足跡を追ううちに、
神学論やかつての独裁政権下での抵抗運動に触れ、
生と死、生きることの意味、自分とは何か……と、
本が投げかけるあらゆる問いかけについて考察していくことになる。
プラドを知るための旅は同時に、グレオリウスが自分自身を探す旅となり、
読者にも旅に出ることを促すものでもあった。