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2024年07月21日

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成16

5 まとめ

 作家の執筆脳を探るシナジーメタファーの研究は、花村(2018)でも記したように、@LのストーリーやAデータベースの作成、さらにB論理計算やC統計によるデータ処理が必要になる。しかし、最初のうちは、一つの小説について全てを揃えることが難しいため、4つのうちとりあえず3つ(@、A、Bまたは@、A、C)を条件にして、作家の執筆脳の研究をまとめるとよい。ここでは、@、A、Cの条件を満たしているため、「川端康成と目的達成型の認知発達」というシナジーのメタファーは、成立していると考える。

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のDB化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会 2015
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 2019

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成15

【A、B、Cの相関係数の比較】

相関の特性
AとB 相関係数0.5 相関の特性 かなり正の相関
BとC 相関係数0.5 相関の特性 かなり正の相関
AとC 相関係数0.5 相関の特性 かなり正の相関

 この比較は、駒子が三味線の稽古をしている場面のカラムの相関の特性であり、Aの無と創造、Bの情報の認知1と顔の表情、Cの人工感情と認知発達それぞれの相関の特性を表している。購読脳と想定している無と創造と目的達成型の認知発達と正の相関関係があることがわかる。

【解説】
脳内は、電気信号が縦横無尽に高速で回っている。川端康成の「雪国」執筆時の脳の活動として、人間一般のものではなく、特筆すべきこととして、駒子三味線の稽古の場面で見えてくる目的達成型の認知発達を取り上げた。この論文の実験を通して、正の相関があることが分かった。平たく意義としたい。

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成14

【AとCの相関係数】

◆ A、Cの偏差同士の積を計算する。
(Aの偏差)x(Cの偏差)=-0、4、0

◆ A、Cの偏差を2乗したものの合計を計算する。
Aの偏差の2乗したものの合計=4+4+0=8
Cの偏差の2乗したものの合計=0+4+4=8

◆ (Aの偏差)x(Cの偏差)の合計を計算する=0+4+0=4

計算表
A 4 0 2 合計6
偏差 2 -2 0 合計
偏差2 4 4 0 合計8
B 4 2 0 合計6
偏差 2 0 -2 合計0
偏差2 4 0 4 合計8
AB偏差の積 4 0 0 合計4

◆ 相関係数を求める

相関係数=[(A-Aの平均値)x(C-Cの平均値)]の和/
√(A-Aの平均値)2の和x(C-Cの平均値)2の和
上記計算表を代入すると、

相関係数= 4/√8 x 8= 4/√64= 4/8 = 0.5

従って、かなり正の相関がある。

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成13

【BとCの相関係数】

◆ B、Cの偏差同士の積を計算する。
(Bの偏差)x(Cの偏差)=-0、0、4
◆ B、Cの偏差を2乗したものの合計を計算する。
Bの偏差の2乗したものの合計=4+0+4=8
Cの偏差の2乗したものの合計=0+4+4=8
◆ (Bの偏差)x(Cの偏差)の合計を計算する=0+0+4=4

計算表
B 4 2 0 合計6
偏差 2 0 -2 合計0
偏差2 4 0 4 合計8
C 2 4 0 合計6
偏差 9 2 -2 合計0
偏差2 0 4 4 合計8
AB偏差の積 0 0 4 合計4


◆ 相関係数を求める
相関係数=[(B-Bの平均値)x(C-Cの平均値)]の和/
√(B-Bの平均値)2の和x(C-Cの平均値)2の和
上記計算表を代入すると、
相関係数= 4/√8x8=4/√64= 4/8 = 0.5
従って、かなり正の相関がある。

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成12

◆ A、B、Cそれぞれの偏差をそれぞれ2乗する。
Aの偏差の2乗=4、4、0
Bの偏差の2乗=4、0、4
Cの偏差の2乗=0、4、4

【AとBの相関係数】
◆ A、Bの偏差同士の積を計算する。
(Aの偏差)x(Bの偏差)=4、0、0
◆ A、Bの偏差を2乗したものの合計を計算する。
Aの偏差の2乗したものの合計=4+4+0=8
Bの偏差の2乗したものの合計=4+0+4=8
◆ (Aの偏差)x(Bの偏差)の合計を計算する=4+0+0=4
計算表
A 4 0 2 合計6
偏差 2 -2 0 合計0
偏差2 4 4 0 合計8
B 4 2 0 合計6
偏差 2 0 -2 合計0
偏差2 4 0 4 合計8
AB偏差の積 4 0 0 合計4


◆ 相関係数を求める
相関係数=[(A-Aの平均値)x(B-Bの平均値)]の和/
√(A-Aの平均値)2の和x(B-Bの平均値)2の和
上記計算表を代入すると、
相関係数= 4/√8x8=4/√64= 4/8 = 0.5
従って、かなり正の相関がある。

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成11

4.2 相関係数を求める−相関の実験

 表2のデータ分析に相関係数を求める統計処理を試みる。その際、データベースのそれぞれの値は、質量ではなく指標であるため、特性の個数を数えて計算できるようにしたい。数値変換により特性があるかないかで識別していく。抽出したカラム「無と創造」、「情報の認知1と顔の表情」、「人工感情と認知発達」からその特性として「ありあり」、「ありなし」、「なしあり」を置く。

A無と創造(4、0、2)B情報の認知1と顔の表情(4、2、0)C人工感情と認知発達(2、4、0)

 A、B、Cそれぞれの平均値を出す。その際、分子に違いを出すために、「ありあり」に0.1加算する。相関の強さは「ありあり」に出るからである。Aの平均(4+0+2)÷3=2、Bの平均(4+2+0)÷3=2 Cの平均(2+4+0)÷3=2

◆ A、B、Cそれぞれの偏差を計算する。偏差=各データ−平均値
Aの偏差(4-2)、(0-2)、(2-2)= 2、-2、0
Bの偏差(4-2)、(2-2)、(0-2)= 2、0、-2
Cの偏差(2-2)、(4-2)、(0-2)= 0、2、-2

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成10

4  統計処理−相関

4.1  川端康成の「雪国」のデータベースについて考察してみよう。

 花村(2019)では、データベースを伝わる信号の中で相関の組合せとして「無と創造」、「情報の認知1と顔の表情」、「人工感情と認知発達」を抽出し、「川端康成と認知発達」というシナジーのメタファーが作れるかどうか考察した。また、表6は、表1に一ライン加えた場面である。

表2 データベースからの抜粋
 三曲目に都鳥を弾きはじめた頃は、その曲の艶な柔らかさのせいもあって、島村はもう鳥肌たつような思いは消え、温かく安らいで、駒子の顔を見つめた。そうするとしみじみ肉体の親しみが感じられた。
無と創造 1、1
(五感)情報の認知1と顔の表情 1+2、2、11
人工感情と認知発達 1、2
 細く高い鼻は少し寂しいはずだけれども、頬が生き生きと上気しているので、私はここにいますという囁きのように見えた。
無と創造 1、1
(五感)情報の認知1と顔の表情 1、1、3
人工感情と認知発達 1、2
 あの美しく血の滑らかな脣は、小さくつぼめた時も、そこに写る光をぬめぬめ動かしているようで、そのくせ唄につれて大きく開いても、また可憐にすぐ縮まるという風に、彼女の体の魅力そっくりであった。
無と創造 1、1
(五感)情報の認知1と顔の表情 1、1、4
人工感情と認知発達 2、2
 粉はなく、都会の水商売で透き通ったところへ、山の色が染めたとでもいう、百合か玉葱みたいな球根を剥いた新しさの皮膚は、首までほんのり血の色が上がっていて、なによりも清潔だった。
無と創造 1、1
(五感)情報の認知1と顔の表情 1、1、10
人工感情と認知発達 2、2
 しゃんと坐り構えているのだが、いつになく娘じみて見えた。最後に、今稽古中のをと言って、譜を見ながら新曲浦島を引いてから、駒子は黙って撥を糸の下に挟むと、身体を崩した。
無と創造 2、1
(五感)情報の認知1と顔の表情 1+2、2、11
人工感情と認知発達 2、1
 急に色気がこぼれて来た。
島村はなんとも言えなかったが、駒子も島村の批評を気にする風はさらになく、素直に楽しげだった。
無と創造 2、1
(五感)情報の認知1と顔の表情 1、2、10
人工感情と認知発達 2、1

 表2は、駒子が三味線の稽古をしている場面である。駒子と島村は、やり取りをしている間に、お互いに気持ちの整理がついてきた。三曲目にもなれば、いつもの稽古の様子を体が覚えているし、聞き手にもそう聞こえてくる。新曲浦島を引いたところで駒子の目的は達成された。

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成9

3.2 標準偏差による分析

 グループA、グループB、グループC、グループDそれぞれの標準偏差を計算する。その際、場面1、場面2、場面3の特性1と特性2のそれぞれの値は、質量ではなく指標であるため、特性の個数を数えて算術平均を出し、それぞれの値から算術平均を引き、その2乗の和集合の平均を求め、これを平方に開いていく。(公式2)
 求められた各グループの標準偏差の数字は、何を表しているのだろうか。数字の意味が説明できれば、分析は、一応の成果が得られたことになる。 

◆グループA:五感(1視覚と2その他)
場面1(特性1、5個と特性2、0個)の標準偏差は、公式2により0となる。
場面2(特性1、5個と特性2、0個)の標準偏差は、公式2により0となる。
場面3(特性1、4個と特性2、1個)の標準偏差は、公式2により0.4となる。
【数字からわかること】
場面1、場面2、場面3を通して、視覚情報が多いため、「雪国」は、五感の中で視覚情報が鍵になる作品といえる。

◆グループB:ジェスチャー(1直示と2隠喩)
場面1(特性1、3個と特性2、2個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
場面2(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
場面3(特性1、4個と特性2、1個)の標準偏差は、公式2により0.4となる。
【数字からわかること】
「雪国」は、川端が当時の日本の世相を描くために何度も書き直した作品であり、場面1、場面2、場面3を通して、隠喩が少ないことがわかる。

◆グループC:情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)
場面1(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
場面2(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
場面3(特性1、0個と特性2、5個)の標準偏差は、公式2により0となる。
【数字からわかること】
場面1、場面2、場面3を通して、新情報の2が多いため、ストーリーがテンポよく展開していることがわかる。

◆グループD:情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)
場面1(特性1、1個と特性2、4個)の標準偏差は、公式2により0.4となる。
場面2(特性1、0個と特性2、5個)の標準偏差は、公式2により0となる。
場面3(特性1、1個と特性2、4個)の標準偏差は、公式2により0.4となる。
【数字からわかること】
「雪国」は、戦中戦後の日本のストーリーといえる作品のため、場面1、場面2、場面3を通して、問題未解決が多いことがわかる。

【解説】
 リレーショナル・データベースの数字及びそこから求めた標準偏差により、川端康成の「雪国」に関して部分的ではあるが、既存の分析例が説明できている。従って、この論文の分析方法、即ちデータベースを作成する文学研究は、データ間のリンクなど人の目には見えないものを提供してくれるため、これまでよりも客観性を上げることに成功している。

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成8

場面3 

駒子の叫びは島村の身内を貫いた。葉子の腓が痙攣するのといっしょに、島村の足先まで冷たい痙攣が走った。なにかせつない苦痛と悲哀とに打たれて、動悸が激しかった。
A2B1C2D2
葉子の痙攣は目にとまらぬほどかすかのもので、すぐに止んだ。
その痙攣よりも先きに、島村は葉子の顔と赤い矢絣の着物を見ていた。葉子は仰向けに落ちた。片膝の少し上まで裾がまくれていた。地上にぶつかっても、腓が痙攣しただけで、失心したままらしかった。
A1B1C2D2
島村はやはりなぜか死は感じなかったが、葉子の内生命が変形する、その移り目のようなものを感じた。
A1B2C2D2
葉子を落とした二階桟敷から骨組の木が二三本傾いて来て、葉子の顔の上で燃え出した。葉子はあの刺すように美しい目をつぶっていた。あごを突き出して、首の線が伸びていた。火明りが青白い顔の上を揺れ通った。
A1B1C2D2
幾年か前、島村がこの温泉場へ駒子に会いに来る汽車のなかで、葉子の顔のただなかに野山のともし火がともった時のさまをはっと思い出して、島村はまた胸が顫えた。
A1B1C1D1

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成7

場面2 東京

 「君が東京でさしずめ落ちつく先とか、なにをしたいとかいうことくらいきまってないと危ないじゃないか。」
「女一人くらいどうにでもなりますわ。」と、葉子は言葉尻が美しく吊り上がるように言って、島村を見つめたまま、
「女中に使っていただけませの?」
A1B1C2D2
「なあんだ、女中にか?」
「女中はいらんです。」
「この前東京にいた時は、なにをしてたんだ。」
「看護婦です。」
「病院か学校に入ってたの。」
「いいえ、ただなりたいと思っただけですわ。」
A1B1C1D2
島村はまた汽車のなかで師匠の息子を介抱していた葉子の姿を思い出して、あの真剣さのうちには葉子の志望も現れていたのか微笑まれた。
A1B2C1D2
 「それじゃ今度も看護婦の勉強がしたいんだね。」
「看護婦にはもうなりません。」
「そんな根なしじゃいけないね。」
「あら、根なしじゃいけないね。」
「あら、根なんて、いやだわ。」と、葉子は弾き返すように笑った。
A1B2C2D2
その笑い声も悲しいほど高くすんでいるので、白痴じみて聞こえなかった。しかし島村の心の殻を空しく叩いて消えてゆく。
「なにがおかしいんだ。」
「だって、私は一人の人しか看病しないんです。」
A1B2C2D2

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成6

3 統計処理−バラツキ

3.1 データの抽出

 作成したデータベースから特性が2つあるカラムを抽出し、標準偏差によるバラツキを調べてみる。例えば、A:五感(1視覚と2それ以外)、B:ジェスチャー(1直示と2隠喩)、C:情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D:情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。

場面1 三味線の稽古

三曲目に都鳥を弾きはじめた頃は、その曲の艶な柔らかさのせいもあって、島村はもう鳥肌たつような思いは消え、温かく安らいで、駒子の顔を見つめた。そうするとしみじみ肉体の親しみが感じられた。
A1B1C1D2
細く高い鼻は少し寂しいはずだけれども、頬が生き生きと上気しているので、私はここにいますという囁きのように見えた。
A1B2C1D2
あの美しく血の滑らかな脣は、小さくつぼめた時も、そこに写る光をぬめぬめ動かしているようで、そのくせ唄につれて大きく開いても、また可憐にすぐ縮まるという風に、彼女の体の魅力そっくりであった。
A1B1C2D2
白粉はなく、都会の水商売で透き通ったところへ、山の色が染めたとでもいう、百合か玉葱みたいな球根を剥いた新しさの皮膚は、首までほんのり血の色が上がっていて、なによりも清潔だった。
A1B2C2D2
しゃんと坐り構えているのだが、いつになく娘じみて見えた。
最後に、今稽古中のを言って、譜を見ながら新曲浦島を引いてから、駒子は黙って撥を糸の下に挟むと、身体を崩した。
A1B1C2D1

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成5

表2 場面の分析

A 愛を意味する表現があり人格形成もある(無と創造のカラム)。視覚と聴覚の情報は、グループ化とし、顔の表情は、中立にする((五感)情報の認知1と顔の表情のカラム)。AIの感情は愛情となる。しかし、目的は達成されない(人工感情と認知発達のカラム)。
B 愛を意味する表現があり人格形成もある。視覚の情報は、ベースとプロファイルで捉え、顔の表情は、頬を動かすにする。AIの感情は愛情となる。しかし、目的は達成されない。
C 愛を意味する表現があり人格形成もある。視覚の情報は、ベースとプロファイルで捉え、顔の表情は、唇を動かすにする。AIの感情は愛情となる。しかし、目的は達成されない。
D 愛を意味する表現があり人格形成もある。視覚の情報は、ベースとプロファイルで捉え、顔の表情は肌色にする。AIの感情は人格となる。しかし、目的は達成されない。
E 愛を意味する表現はなく人格形成がある。視覚と聴覚の情報は、グループ化とし、顔の表情は中立にする。AIの感情は人格となり、目的が達成される。 

 (1)の公式と表2の分析例から分かるように、駒子の三味線の稽古の場面でA、B、C、D、Eそれぞれの信号が購読脳から執筆脳へ流れていく中で、最後に目的が達成されているため、この場面では「川端康成と認知発達」というシナジーのメタファーが一応成立している。

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成4

 表1は、駒子が三味線の稽古をしている場面である。駒子と島村は、やり取りをしている間に、お互いに気持ちの整理がついてきた。三曲目にもなれば、いつもの稽古の様子を体が覚えているし、聞き手にもそう聞こえてくる。新曲浦島を引いたところで駒子の目的は達成された。
 データベースのセカンドのカラムの設定は、分析をさらに詳細にする効果がある。例えば、振舞いのカラム(直示と隠喩)の焦点を絞って、特に登場人物の顔の表情というジェスチャーについて調べながら、これが脳の信号の伝わり具合とどのように関連しているのか考えることが作者の執筆脳との関係を解き明かしてくれる。表1のカラムの要素を確認していこう。

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成3

表1 データベースからの抜粋

A 三曲目に都鳥を弾きはじめた頃は、その曲の艶な柔らかさのせいもあって、島村はもう鳥肌たつような思いは消え、温かく安らいで、駒子の顔を見つめた。そうするとしみじみ肉体の親しみが感じられた。
無と創造 1, 1
(五感)情報の認知1と顔の表情 (1+2) 2, 11
人工感情と認知発達 1, 2
B 細く高い鼻は少し寂しいはずだけれども、頬が生き生きと上気しているので、私はここにいますという囁きのように見えた。
無と創造 1, 1
(五感)情報の認知1と顔の表情 (1) 1, 3
人工感情と認知発達 1, 2
C あの美しく血の滑らかな脣は、小さくつぼめた時も、そこに写る光をぬめぬめ動かしているようで、そのくせ唄につれて大きく開いても、また可憐にすぐ縮まるという風に、彼女の体の魅力そっくりであった。
無と創造 1, 1
(五感)情報の認知1と顔の表情 (1) 1, 4
人工感情と認知発達 2, 2
D 粉はなく、都会の水商売で透き通ったところへ、山の色が染めたとでもいう、百合か玉葱みたいな球根を剥いた新しさの皮膚は、首までほんのり血の色が上がっていて、なによりも清潔だった。
無と創造 1, 1
(五感)情報の認知1と顔の表情 (1) 1, 10
人工感情と認知発達 2, 2
E しゃんと坐り構えているのだが、いつになく娘じみて見えた。最後に、今稽古中のをと言って、譜を見ながら新曲浦島を引いてから、駒子は黙って撥を糸の下に挟むと、身体を崩した。
無と創造 2, 1
(五感)情報の認知1と顔の表情 (1+2) 2, 11
人工感情と認知発達 2,1

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成2

2 データベースの作成と分析

 「雪国」のデータベースを作成する際、カラムが文理でリレーショナルになるように並べ方を工夫している。購読脳のカラムには、構文論として助詞、時制、態、様相を置き、意味論には、喜怒哀楽、五感(1視覚、2聴覚、3味覚、4臭覚、5触覚)、振舞い(直示、隠喩)、無と創造(其々1ある2なし)を置いている。
 次に、顔の表情については、情報の認知1(情報の捉え方 1ベースとプロファイル2グループ化))のセカンドのカラムとして数字を作りたい。例えば、1眉を動かす、2瞼を動かす、3頬を動かす、4唇を動かす、5口を開ける、6顎を動かす、7息を吐く、8鼻を動かす、9目を動かす(細目、薄目、ウインク、瞬き)、10肌色(赤らむ、青ざめる、日焼け、化粧)、11中立を置き、顔の表情の数字と五感及び情報の認知1を組みにする。
 さらに驚き、恐れ、怒り、嫌悪などといった感情の基本表現のうち、川端文学では愛情が重要となるため、人工感情の要素は、1原点(無+愛→愛情)と2創造(理想の型+加工→人格)にする。愛が無と組になって愛情となるか、または人格が形成されれば、認知発達でいう目的達成のときにシナジーのメタファーが成立する。

(2)データベースの各場面の信号の流れ

 「文法1(助詞)」→「文法2(時制、相)」→「文法3(態)」→「文法4(様相)」→「意味1(喜怒哀楽)」→「意味2(五感)」→「意味3(振舞い)」→「意味4(無)」→「意味5(創造)」→「意味6(数字)」(言語の認知の出力は「無と創造」、これが情報の認知の入力となる)→「医学情報」→「情報の認知1(情報の捉え方)」→「セカンド 顔の表情」→「情報の認知2(記憶と学習)」→「情報の認知3(問題解決)」→「人工感情(1愛情2人格)」→「認知発達(1目的達成2非ず)」(情報の認知の出力)

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成1

1 論文の方向性−Lのストーリー

 シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることを現状のレベルでまとめている。今後、統計処理など研究の技がさらに増えていくように日々精進していきたい。この論文では川端康成(1899−1972)の雪国を題材にする。
 「雪国」の購読脳を「無と創造」という組にする。無については、川端(1979)の中で高田瑞穂が次のように定義している。
 無は、孤児として育った川端の原点ともいえる感情であり、あらゆる存在よりも広くて大きい自由な実在である。無とはこの青空よりも大きい見たこともない父母に通じ、愛と死が融けあって康成の文学が誕生した。特に、雪国の中では、無が愛と組になると止揚の暗示、つまり愛情となり、愛と死が組になれば、天井へ飛躍したり、時には地下へ埋没する。二つの矛盾対立する概念は、止揚により相互に否定し合いながら、双方を包むより高次の統一体へ発展していく。
 また、創造についても、川端が作品を書きながら、動物の生命や生態をおもちゃにして、一つの理想の鋳型を定め、人工的に畸形的に育てているとする。「雪国」の中では、島村がふと思い、呟き、動く存在で、駒子については指で覚えている女、葉子も眼に火がついてる女として繰り返されるところに康成の創造がある。
 確かに孤独な生い立ちもあって、「雪国」のみならず川端の作品には、愛情に対して感謝の気持ちがあるといわれている。(川端康成1979: 153)愛とは、価値を認めて大切に思うこと、例えば、学問への愛とか男女や親子の抱擁であり、愛情とは、死んだ親とか恋人を慈しむ心である。「雪国」に記された島村と駒子が交わすやり取りの中に次のような一節がある。
 「でも、これが奉公かしらと思うことがあるくらい、うちの人はずいぶん大事にしてくれのよ。子供が泣いたりすると、おかみさんが遠慮して表へ負ぶって出て行くわ。なんの不足もないけれど、寝床の曲がってるのだけはいやね。帰りがおそいと敷いといてくれるのよ。敷布団がきちんと重なってなかったり、敷布がゆがんでたりでしょう。そんなのを見ると、情なくなって来るのよ。そうかって、自分で敷きなおすのは悪いわ。親切がありがたいから。」(川端康成1979: 84)
 おかみさんが子供を世話してくれることに対する駒子の感謝の気持ちと小さい注文が見え隠れする。奉公の身分にある駒子は、おかみさんの小さな親切がありがたい一方、布団もきれいに敷いといてもらえない自分の立場を考えもする。

花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできることー川端康成」より
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花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
プロフィール
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