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2024年09月12日

論理文法に見るファジィらしさ3

 Montague の PTQ に代表されるように、量化の問題 は、論理文法においてこれまで頻繁に扱われてきた。 例えば、パージングとシュガーリング、断片的なドイツ語の文法および直感主義論理によるドイツ語の文法などである。ここでは、HPSG が採用する状況意味論に基づいた量化に関する平易な意味分析を紹介する。
 HPSG が採用しているAVM (attribute-value matrix) を使用して、量化の意味分析の例を紹介する。例文 “Ich erkläre einen Roman”(長編小説を説明する)には、素性構造と同様に統語情報として範疇や数または人称の一致などが存在し、そこに意味情報として文脈に依存する要素が重なっていく。
 まず注目したいことは、意味の原理とAVM が矛盾している点である。SのCONTENT値が、主要部の娘(VP)の値と一 致しないためである。そこで、QSTORE値とCONTENT値を関連づける原理を改訂しなければならない。BACKGROUND の素性値である psoa (parametrized state of affairs) の素性構造の表記を再度検討してみよう。内部構造を持つ psoa と古い psoa および qpsoa を交換する。 違いは、量化の情報が非量化のNUCLEUS から分離している点である。 QUANTS の値は、数量詞のリストであり、NUCLEUSの値は、量化自由 の psoa (qfpsoa) と呼ばれるものである。“Ich erkläre einen Roman” の CONTENTは、次のように分析され、タグ [4] は、数量詞となる。

QUANT[4]
NUCLEUS RELATION erkläre / ERKLAERER [2] [1st, sing] / ERKLAERT [3]
qfpsoa
psoa

 QSTOREとQUANTS 間の関係に制約を加える原理は、数量詞に対してスコープの割り当てを保証してくれる。タグ[4] は数量詞で、数量詞を他のアスペクトから切り離すと、残りの情報は、主要部の娘の NUCLEUS値と一致する。
 主要部一付加語構造では、付加語の娘が親の CONTENT 値を決定し、それ以外の場合は、主要部の娘が決定することになる。例えば、意味の主要部の CONTENT が psoa かどうかによって二分されると、親と意味の主要部間で NUCLEUS だけが特定される点が鍵になる。RETRIEVED-QUANTIFIERS と呼ばれる新しい属性が導入されると、検索された数量詞が正確に調べられるといった効果が出る。これらは、数量詞継承の原理、解釈範囲の原理と呼ばれている。こうして、矛盾があった意味の原理は、修復される。
 Pollard and Sag (1994) は、次のような例文を引いて、数量詞に関する制約をさらに課していく(数量詞束縛条件)。 これは、CONTENT値に関する広範な適格条件であり、次のように定義される。

a. One or her i students approached [each teacher] i.
b. The picture of himself i in his office delighted [each director] i.
c. [Each man] i talks to a friend of his i.

 定義:CONTENT値内に含まれた数量詞を前提として、数量詞の指標の CONTENT 値における都度の出現が、その数量詞によって捉えられなければならない。
 ここで注意すべきことは、数量詞が CONTENT 値内で出現する場所だけを、QUANTSリスト上に示していることである。但し、QUANTS リスト上にある数量詞は、指標の出現が、1) 数量詞の制限内にある、2) 同じQUANTSリスト上にある問題の数量詞の右側に現れる他の数量詞内にある、3) 問題となっている psoa のNUCLEUS 内にあるという条件付きとなる。つまり、論理形式の統語論によって意味の一般化を捉えようとする。それは、モデル理論の CONTENT 値の解釈が、制約の必要性を削減してくれるからである。条件を満たさない数量詞を含む CONTENTは、HPSG において単に解釈の対象外となっている。

花村嘉英(2005)「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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