2019年10月26日
家族の木 THE FOURTH STORY 真と梨央 <66 父の告白>
父の告白
俺が50になった年に父の体調が悪化した。長い間、不仲の息子は本当に余命何カ月という状態になるまで、そのことを知らなかった。連絡をくれたのは恵美だった。大腸がんだった。
なんだか不思議な気持ちで見舞いに行った。悲しくないこともなかったが、涙が出るほどのこともなかった。縁の薄い親子だと痛感した。父は息をつぎつぎ長いおしゃべりをした。
「真は母さんの恋人の子供だよ。婚約したときにはもう妊娠していた。それを承知で結婚したんだ。本気で母さんが好きだった。生まれる子供を大事に育てようと思ってた。でも人間って難しいもんだ。周囲の人間が財産目当てだと爺さんや母さんに告げ口した。
最初は母さんは父さんを信じてくれていたんだ。でも、父さんが仕事で東京へ家を構えたのが間違いの素だった。母さんはだんだん疑心暗鬼になって、そのうち爺さんが父さんを疑うようになった。だんだん関係がこじれたよ。
そのうちに美也子と関係ができた。ここが父さんの甘いところだ。だから本当は浜野興産の社長なんかできる立場じゃなかったし、お前の財産を使って商売をしていい立場でもなかった。浜野興産はお前のものだ。恵美や郁美に気を使わなくてもいいんだ。家を貰ってありがとう。あれで十分だ。
ああ、お前の父親は榊島の前の市長だ。あの人はお前が生まれたことを知らないんじゃないかな。榊島グランドホテルの社長はお前の弟だ。恵美の相手が榊島に居ると聞いたときには驚いて言葉も出なかった。人間の縁は不思議なものだ。風羽田がホテルに就職していたらどうしようかと思った。老人ホームでよかった。」といった。
それから一度も見舞いに行かなかった。梨央にも行かせなかった。恵美は俺が一度父と会っているのを知っていた。だから、また見舞いに行けとは言わなかった。
俺は腹が立っていた。やっぱり覚悟の足りない男だと思った。なんで墓まで持って行けない?なんで、死の床でまで、つまらないおしゃべりをした?足元がぐらつく感じがしていた。
梨央は俺が父の見舞いに行って帰ったその夜に異常を察知していた。「何か嫌なこと言われた?」と聞いた。勘が鋭い。「あなた、すぐ顔に出るんだもの。」といわれた。俺は自分ではポーカーフェイスのつもりだった。
情けないことに、その夜は梨央の胸で声を出して泣いてしまった。「可愛い真君、誰の子供でも浜野真は浜野真よ。梨央のたった一人の男よ。他に誰もいないのよ。私はあなただけ。真也も由梨もあなたの子供。パパはあなただけ。それで足りない?」と言って何度も頭をなでてくれた。
しばらくはそのことを忘れようとした。今頃になってお前は他人の子だといわれても、なかなか切り替えの利くものではなかった。最近になって愛情を感じ始めていた妹たちが他人だといわれて、なんだか嫌な肩すかしにあった気がした。
足元がぐらぐらする思いがあった。嫌いな奴だと思っていても、ずっと父だと思って暮らした。あんなにけなし倒していたのも、肉親としての甘えだということを思い知らされた。全くの他人なら曲がりなりにも育ててくれた恩人かもしれなかった。
父が亡くなった。浜野興産の会長だ。葬儀は一応社葬になった。喪主は俺だった。ほとんどの手配は郁美の夫がしてくれた。遺産相続はスムーズだった。俺は父からもらうものはほとんどなかった。というより、父は自分名義の不動産をほとんど持っていなかった。
会社のものはほとんど俺の名義だった。父は、俺の資産を使って増えた資産は自分名義にはしなかったのだ。筋を通したということだろう。考えてみれば父も可愛そうな立場だったのかもしれない。
父が亡くなって半年もたつと、実父がどんな人か、自分の実弟がどんな男か気になって仕方がなかった。梨央が「深刻に考えなくても軽い気持ちであえばいいじゃない。先方はご存じないんでしょ。なら、知らん顔してお話してくればいいじゃない。今度一緒に旅行に行きましょう。軽く考えてもいいんじゃない?」という。
梨央の胸でピーピー泣いてからというもの、梨央は時々姉さん女房になった。顔と物言いがアンバランスで笑いそうになるのをこらえた。
続く
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俺が50になった年に父の体調が悪化した。長い間、不仲の息子は本当に余命何カ月という状態になるまで、そのことを知らなかった。連絡をくれたのは恵美だった。大腸がんだった。
なんだか不思議な気持ちで見舞いに行った。悲しくないこともなかったが、涙が出るほどのこともなかった。縁の薄い親子だと痛感した。父は息をつぎつぎ長いおしゃべりをした。
「真は母さんの恋人の子供だよ。婚約したときにはもう妊娠していた。それを承知で結婚したんだ。本気で母さんが好きだった。生まれる子供を大事に育てようと思ってた。でも人間って難しいもんだ。周囲の人間が財産目当てだと爺さんや母さんに告げ口した。
最初は母さんは父さんを信じてくれていたんだ。でも、父さんが仕事で東京へ家を構えたのが間違いの素だった。母さんはだんだん疑心暗鬼になって、そのうち爺さんが父さんを疑うようになった。だんだん関係がこじれたよ。
そのうちに美也子と関係ができた。ここが父さんの甘いところだ。だから本当は浜野興産の社長なんかできる立場じゃなかったし、お前の財産を使って商売をしていい立場でもなかった。浜野興産はお前のものだ。恵美や郁美に気を使わなくてもいいんだ。家を貰ってありがとう。あれで十分だ。
ああ、お前の父親は榊島の前の市長だ。あの人はお前が生まれたことを知らないんじゃないかな。榊島グランドホテルの社長はお前の弟だ。恵美の相手が榊島に居ると聞いたときには驚いて言葉も出なかった。人間の縁は不思議なものだ。風羽田がホテルに就職していたらどうしようかと思った。老人ホームでよかった。」といった。
それから一度も見舞いに行かなかった。梨央にも行かせなかった。恵美は俺が一度父と会っているのを知っていた。だから、また見舞いに行けとは言わなかった。
俺は腹が立っていた。やっぱり覚悟の足りない男だと思った。なんで墓まで持って行けない?なんで、死の床でまで、つまらないおしゃべりをした?足元がぐらつく感じがしていた。
梨央は俺が父の見舞いに行って帰ったその夜に異常を察知していた。「何か嫌なこと言われた?」と聞いた。勘が鋭い。「あなた、すぐ顔に出るんだもの。」といわれた。俺は自分ではポーカーフェイスのつもりだった。
情けないことに、その夜は梨央の胸で声を出して泣いてしまった。「可愛い真君、誰の子供でも浜野真は浜野真よ。梨央のたった一人の男よ。他に誰もいないのよ。私はあなただけ。真也も由梨もあなたの子供。パパはあなただけ。それで足りない?」と言って何度も頭をなでてくれた。
しばらくはそのことを忘れようとした。今頃になってお前は他人の子だといわれても、なかなか切り替えの利くものではなかった。最近になって愛情を感じ始めていた妹たちが他人だといわれて、なんだか嫌な肩すかしにあった気がした。
足元がぐらぐらする思いがあった。嫌いな奴だと思っていても、ずっと父だと思って暮らした。あんなにけなし倒していたのも、肉親としての甘えだということを思い知らされた。全くの他人なら曲がりなりにも育ててくれた恩人かもしれなかった。
父が亡くなった。浜野興産の会長だ。葬儀は一応社葬になった。喪主は俺だった。ほとんどの手配は郁美の夫がしてくれた。遺産相続はスムーズだった。俺は父からもらうものはほとんどなかった。というより、父は自分名義の不動産をほとんど持っていなかった。
会社のものはほとんど俺の名義だった。父は、俺の資産を使って増えた資産は自分名義にはしなかったのだ。筋を通したということだろう。考えてみれば父も可愛そうな立場だったのかもしれない。
父が亡くなって半年もたつと、実父がどんな人か、自分の実弟がどんな男か気になって仕方がなかった。梨央が「深刻に考えなくても軽い気持ちであえばいいじゃない。先方はご存じないんでしょ。なら、知らん顔してお話してくればいいじゃない。今度一緒に旅行に行きましょう。軽く考えてもいいんじゃない?」という。
梨央の胸でピーピー泣いてからというもの、梨央は時々姉さん女房になった。顔と物言いがアンバランスで笑いそうになるのをこらえた。
続く
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