2019年03月14日
家族の木 THE FIRST STORY 真一と梨花
聡の家
ある日、聡は「兄ちゃん、今度からこっちへ来るときには僕のうちで泊まれ。おかんも連れて来いって言ってる。」「おかんて聡、それ、人前で言うなよ。みっともない」「大阪では普通や。中学や高校でお父さんとかお母さんいうたら友達でけへん。そんなことはええねん。今度、うちへ来いよ。おかんもお姉も待ってる。ただし、お姉はオヤジみたいやで。」聡が強く勧めてくれるので、夕食をごちそうになることにした。
聡は新大阪駅に車で迎えに来ていた。驚いたことに車はベンツだった。そういえば聡の車を見るのは初めてだった。「いい車に乗ってるじゃないか。」というと「家車(イエシャ)や」と答えて、大阪の中心部から離れて、どんどん南の方へ行った。ぎりぎり大阪市内と思われる住宅街へ入っていった。古くからの住宅街らしく、邸宅がならんでいた。
おかんとオヤジみたいな姉が待っている家だ。食事はちゃぶ台で食べるものと思い込んでいた。しかし、聡の家は予想もしないような古い邸だった。門は昔風の冠木門でガレージは4台分だ。僕は心の中で「しまった!」とうめいた。場違いなところへ来てしまった。
聡は驚くほど良家のおぼっちゃんだったのだ。もう、付き合いは続かないだろう。自分とは違う世界の育ちだった。
聡は僕が思いもよらないような邸宅のお坊ちゃんだった。僕は少し慌てた。虚勢をはって落ち着いたフリをして門をくぐった。
「いらっしゃいませ。よう来てくれはったねえ。」人の好さそうなおばちゃんがカバンを持ってくれた。そして、すぐに落とした。「重い!ごめんね。落としてしもた。割れもん、入ってへんかった?」なんとなく、コメディイムードのおばちゃんだ。
ダイニングに通されると、大きなテーブルに鉄板焼きの用意がしてあった。「若い人は、こんなんの方が好きかなと思って、今日は鉄板焼きにしましたわ。」というと、オヤジ姉ちゃんがいないまま食事がはじまった。
結局のところ聡は家でも外でもあまり変わらず、いい奴だった。聡のおかんはなんとなく面白い人だった。不思議なことに聡は家ではおかんのことをママと呼んでいた。
僕は自分の出生や育ちにコンプレックスがあった。良家や名門というものにはアレルギーがあったのだ。そのせいで、聡ともなんとなく付き合いづらい気持ちが湧いていた。ああ、聡ともこれでおしまいだなあという思いが頭をもたげていた。
食事は和気あいあいとしたものだった。僕は、いつもの仮面をかぶり始めていた。ママは、鉄板焼きを焼きながら、時々面白いことを言って僕を笑わせた。こういう感覚は、僕の祖母と似ていた。東京の下町のおばさんも動作の合間合間に何かと面白い言葉を挟んでくるのだ。
ただ、この家は下町風ではなく、今まで知らなかった上流階級のものだった。僕は警戒心を解くことができなかった。食事が、終わると日本酒が出たが呑まなかった。何度も泊まっていくように説得されたが固辞した。
続く
ある日、聡は「兄ちゃん、今度からこっちへ来るときには僕のうちで泊まれ。おかんも連れて来いって言ってる。」「おかんて聡、それ、人前で言うなよ。みっともない」「大阪では普通や。中学や高校でお父さんとかお母さんいうたら友達でけへん。そんなことはええねん。今度、うちへ来いよ。おかんもお姉も待ってる。ただし、お姉はオヤジみたいやで。」聡が強く勧めてくれるので、夕食をごちそうになることにした。
聡は新大阪駅に車で迎えに来ていた。驚いたことに車はベンツだった。そういえば聡の車を見るのは初めてだった。「いい車に乗ってるじゃないか。」というと「家車(イエシャ)や」と答えて、大阪の中心部から離れて、どんどん南の方へ行った。ぎりぎり大阪市内と思われる住宅街へ入っていった。古くからの住宅街らしく、邸宅がならんでいた。
おかんとオヤジみたいな姉が待っている家だ。食事はちゃぶ台で食べるものと思い込んでいた。しかし、聡の家は予想もしないような古い邸だった。門は昔風の冠木門でガレージは4台分だ。僕は心の中で「しまった!」とうめいた。場違いなところへ来てしまった。
聡は驚くほど良家のおぼっちゃんだったのだ。もう、付き合いは続かないだろう。自分とは違う世界の育ちだった。
聡は僕が思いもよらないような邸宅のお坊ちゃんだった。僕は少し慌てた。虚勢をはって落ち着いたフリをして門をくぐった。
「いらっしゃいませ。よう来てくれはったねえ。」人の好さそうなおばちゃんがカバンを持ってくれた。そして、すぐに落とした。「重い!ごめんね。落としてしもた。割れもん、入ってへんかった?」なんとなく、コメディイムードのおばちゃんだ。
ダイニングに通されると、大きなテーブルに鉄板焼きの用意がしてあった。「若い人は、こんなんの方が好きかなと思って、今日は鉄板焼きにしましたわ。」というと、オヤジ姉ちゃんがいないまま食事がはじまった。
結局のところ聡は家でも外でもあまり変わらず、いい奴だった。聡のおかんはなんとなく面白い人だった。不思議なことに聡は家ではおかんのことをママと呼んでいた。
僕は自分の出生や育ちにコンプレックスがあった。良家や名門というものにはアレルギーがあったのだ。そのせいで、聡ともなんとなく付き合いづらい気持ちが湧いていた。ああ、聡ともこれでおしまいだなあという思いが頭をもたげていた。
食事は和気あいあいとしたものだった。僕は、いつもの仮面をかぶり始めていた。ママは、鉄板焼きを焼きながら、時々面白いことを言って僕を笑わせた。こういう感覚は、僕の祖母と似ていた。東京の下町のおばさんも動作の合間合間に何かと面白い言葉を挟んでくるのだ。
ただ、この家は下町風ではなく、今まで知らなかった上流階級のものだった。僕は警戒心を解くことができなかった。食事が、終わると日本酒が出たが呑まなかった。何度も泊まっていくように説得されたが固辞した。
続く
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