2019年09月28日
家族の木 THE FOURTH STORY 真と梨央 <38 脳梗塞>
脳梗塞
義父と気まずい感じで別れた翌朝、朝一番に東京の梨央の実家に電話してから、自分の実家にも電話しようと思っていた。家の売り出し広告を中止させなければならなかった。俺は仕事上のお詫び電話は苦にならなかった。お詫びしながら相手に取り入る特技を持っていた。
ところが、プライベートでは、ぐずぐずした。ぐずぐずしているうちに梨央が電話をかけてくれた。
「おはよう、早くからごめんなさい。えっ、どうしたの、えっ、パパがどうしたの。」と大声を上げた。「あなた、パパがパパが入院したの。階段から落ちたんだって。」梨央の声が震えていた。
「変わりました。真です。お義父さん入院されたんですか?」相手は梨沙の夫の詩音だった。「今救急車で運ばれた。お義母さんと梨沙は付いていった。今電話しようと思ったところだ。意識がない。病院が分かったら連絡する。こっちへ向かってくれ。」といわれた。
梨央は、もう用意を始めていた。真也のミルクや食べ物、着替えのをカバンに詰め込んでいた。顔がこわばっていた。空港から電話したときには病院が決まっていた。明徳第二病院だった。あの近辺では大きな病院だった。原因は脳梗塞だった。階段から降りるときに意識を無くしたらしい。
家には寄らず病院へ直行した。義父は緊急手術を受けていた。詩音も病院にきていた。「意識がもどらん。」とだけ言った。手術室の前では梨沙ちゃんと義母がいた。二人とも目を泣きはらしていた。
義母は、「私がもっと気を付けていればよかった。」と言って泣いた。梨沙ちゃんと梨央が義母の背中を撫でながら、「ママが悪いんじゃない」となぐさめた。
梨央の目には涙がにじんでいた。真也は不安になったのかぐずぐず言い出した。梨央は真也の方を向いて、ニコッっと笑った。「ごめんね。おなかちゅいたね。ミルク飲もうね。」と話しかけた。真也は梨央の笑顔をみて落ち着いたようだ。母親の強さを見た。梨央は何があっても真也に悲しい顔は見せないだろう。立派な母親だった。
それでも俺には泣きそうな顔をして手を握ってきた。梨央の癖で握った俺の手を自分の瞼にあてる。手の甲が湿った。俺は心の中で「母さん、守ってください。気まずい別れ方をしたんだ。ちゃんとした返事をしてないんだ。どうか守ってください。」と祈った。
手術が終わっても義父は集中治療室からでられなかった。たくさんの管につながれている姿を見て心がふさがった。みんなで医師の説明を聞いた。生命の危険はない。歩行に影響が出るかもしれないということだった。「多少、高度機能障害も出るかもしれません。でも生活できないほどのことにはなりません。」ということだった。皆安堵した。ただ、歩行に障害ということは歩けないのか?高度機能障害ってどんなことなのか今一つよくわからなかった。
翌日には田原隆夫妻が見舞いに来た。「姉ちゃん、すまん。兄貴のオーバーワークの責任は僕にある。田原興産のこと任せっぱなしやから兄貴に無理さしてしもた。ほんまに申し訳ない。」と深く頭をさげた。奥さんという人も頭をさげた。「お姉さん、ほんまに申し訳ございません。お兄さんのご厚意に甘えてしもて。」とあやまった。
そのあとで、「おお、新田センセ、御立派なお仕事ぶりで親戚として名誉です。」と政治家らしい挨拶をした。詩音は梨沙ちゃんと結婚したころから急激に有名になっていた。
俺には、「浜野君結婚式のときも思ったけど、やっぱりおじいさんに似てるなあ。」といっただけだった。有名人でも何でもないのだから他にかける言葉もなかったのだろうけれど、差をつけられたようで少しさびしかった。俺は僻みっぽい。
続く
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ところが、プライベートでは、ぐずぐずした。ぐずぐずしているうちに梨央が電話をかけてくれた。
「おはよう、早くからごめんなさい。えっ、どうしたの、えっ、パパがどうしたの。」と大声を上げた。「あなた、パパがパパが入院したの。階段から落ちたんだって。」梨央の声が震えていた。
「変わりました。真です。お義父さん入院されたんですか?」相手は梨沙の夫の詩音だった。「今救急車で運ばれた。お義母さんと梨沙は付いていった。今電話しようと思ったところだ。意識がない。病院が分かったら連絡する。こっちへ向かってくれ。」といわれた。
梨央は、もう用意を始めていた。真也のミルクや食べ物、着替えのをカバンに詰め込んでいた。顔がこわばっていた。空港から電話したときには病院が決まっていた。明徳第二病院だった。あの近辺では大きな病院だった。原因は脳梗塞だった。階段から降りるときに意識を無くしたらしい。
家には寄らず病院へ直行した。義父は緊急手術を受けていた。詩音も病院にきていた。「意識がもどらん。」とだけ言った。手術室の前では梨沙ちゃんと義母がいた。二人とも目を泣きはらしていた。
義母は、「私がもっと気を付けていればよかった。」と言って泣いた。梨沙ちゃんと梨央が義母の背中を撫でながら、「ママが悪いんじゃない」となぐさめた。
梨央の目には涙がにじんでいた。真也は不安になったのかぐずぐず言い出した。梨央は真也の方を向いて、ニコッっと笑った。「ごめんね。おなかちゅいたね。ミルク飲もうね。」と話しかけた。真也は梨央の笑顔をみて落ち着いたようだ。母親の強さを見た。梨央は何があっても真也に悲しい顔は見せないだろう。立派な母親だった。
それでも俺には泣きそうな顔をして手を握ってきた。梨央の癖で握った俺の手を自分の瞼にあてる。手の甲が湿った。俺は心の中で「母さん、守ってください。気まずい別れ方をしたんだ。ちゃんとした返事をしてないんだ。どうか守ってください。」と祈った。
手術が終わっても義父は集中治療室からでられなかった。たくさんの管につながれている姿を見て心がふさがった。みんなで医師の説明を聞いた。生命の危険はない。歩行に影響が出るかもしれないということだった。「多少、高度機能障害も出るかもしれません。でも生活できないほどのことにはなりません。」ということだった。皆安堵した。ただ、歩行に障害ということは歩けないのか?高度機能障害ってどんなことなのか今一つよくわからなかった。
翌日には田原隆夫妻が見舞いに来た。「姉ちゃん、すまん。兄貴のオーバーワークの責任は僕にある。田原興産のこと任せっぱなしやから兄貴に無理さしてしもた。ほんまに申し訳ない。」と深く頭をさげた。奥さんという人も頭をさげた。「お姉さん、ほんまに申し訳ございません。お兄さんのご厚意に甘えてしもて。」とあやまった。
そのあとで、「おお、新田センセ、御立派なお仕事ぶりで親戚として名誉です。」と政治家らしい挨拶をした。詩音は梨沙ちゃんと結婚したころから急激に有名になっていた。
俺には、「浜野君結婚式のときも思ったけど、やっぱりおじいさんに似てるなあ。」といっただけだった。有名人でも何でもないのだから他にかける言葉もなかったのだろうけれど、差をつけられたようで少しさびしかった。俺は僻みっぽい。
続く
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