2019年08月02日
THE THIRD STORY純一と絵梨 <28 不思議>
不思議
祖父と僕は同じような出生だった。そして、田原の娘と縁ができて結婚して、その家の家業を継ぐ立場になっていた。考えれば父も同じようなものだった。寄る辺ない立場から田原家の娘と結婚して今は田原家の幹になっている。
僕が知っている祖父は大人しい感じだったが一人で会社を興し育てた。家では妻と娘にいいようにおだてられていつもニコニコしていた。妻にかまわれるのが大好きだったのは、きっと母親恋しさだったのかもしれない。
若い時には年上の女のヒモだったこともあるようだった。まさに、祖母に出会わなかったら、どんな死に方をしていたかもわからない生き方だった。「じいちゃんよかったね。ばあちゃんに惚れられて人生変わったんだね。」と心の中でつぶやいた。
それにしても、なぜ浅田隆一は祖父のことにそんなに興味があったのだろう?父もそのことには違和感を感じたらしい。
実は僕はこの時、もっと気なることに気づいていた。祖父の若いころに祖父をヒモにしていた女の名前だ。風羽田真由美、僕の実母は風羽田香織だ。余りの偶然に愕然とした。父には言えないことだった。もちろん、単なる同姓とも考えられる。しかし、珍しい姓だ。
もしも、この風羽田真由美と祖父の間に子供が出来ていたら?もしも母の真梨がそちらの血筋だったら?そう思うと足元が揺らぐような不安に襲われた。
母が間違いなく祖母の子供だということを確かめなければならなかった。いや、確かめてもしょうがない。僕たちは、もうそれから代を重ねてしまっている。確かめても取り返しがつかない。
僕は、この思いにふたをしたかった。自分が特別養子だったことと考えあわせた。でも、母の真梨は祖母梨花とよく似た顔立ちだ。
僕達は浅田隆一が丁寧に保管していた鎌倉彫の文箱を家に持ち帰った。母の真梨に文箱を見せると、自分の写真があまりにも大切に保管されていることに感激していた。ただ、名前が呼び捨てに書かれていたことには違和感があったようだ。
浅田隆一は物腰の柔らかい人で、「真一君、梨花さん、真理ちゃん」と呼んだそうだ。それに、祖父真一の身上調査を浅田隆一が引き受けていること、曾祖母が祖母梨花のことを浅田隆一に頼んでいるのも不思議だと言っていた。地元出身の代議士ならこういった頼み事もされたのだろうか?と思うほかなかった。
翌朝、父から美奈子叔母さんに報告をした。家の中を調べたが資産につながるようなものがなかったこと。もう、屋敷を壊さないと危険だということ。それと、例の鎌倉彫の文箱の件だった。結局、叔父夫婦はその文箱を口実にしてこちらへ遊びに来ることになった。
続く
祖父と僕は同じような出生だった。そして、田原の娘と縁ができて結婚して、その家の家業を継ぐ立場になっていた。考えれば父も同じようなものだった。寄る辺ない立場から田原家の娘と結婚して今は田原家の幹になっている。
僕が知っている祖父は大人しい感じだったが一人で会社を興し育てた。家では妻と娘にいいようにおだてられていつもニコニコしていた。妻にかまわれるのが大好きだったのは、きっと母親恋しさだったのかもしれない。
若い時には年上の女のヒモだったこともあるようだった。まさに、祖母に出会わなかったら、どんな死に方をしていたかもわからない生き方だった。「じいちゃんよかったね。ばあちゃんに惚れられて人生変わったんだね。」と心の中でつぶやいた。
それにしても、なぜ浅田隆一は祖父のことにそんなに興味があったのだろう?父もそのことには違和感を感じたらしい。
実は僕はこの時、もっと気なることに気づいていた。祖父の若いころに祖父をヒモにしていた女の名前だ。風羽田真由美、僕の実母は風羽田香織だ。余りの偶然に愕然とした。父には言えないことだった。もちろん、単なる同姓とも考えられる。しかし、珍しい姓だ。
もしも、この風羽田真由美と祖父の間に子供が出来ていたら?もしも母の真梨がそちらの血筋だったら?そう思うと足元が揺らぐような不安に襲われた。
母が間違いなく祖母の子供だということを確かめなければならなかった。いや、確かめてもしょうがない。僕たちは、もうそれから代を重ねてしまっている。確かめても取り返しがつかない。
僕は、この思いにふたをしたかった。自分が特別養子だったことと考えあわせた。でも、母の真梨は祖母梨花とよく似た顔立ちだ。
僕達は浅田隆一が丁寧に保管していた鎌倉彫の文箱を家に持ち帰った。母の真梨に文箱を見せると、自分の写真があまりにも大切に保管されていることに感激していた。ただ、名前が呼び捨てに書かれていたことには違和感があったようだ。
浅田隆一は物腰の柔らかい人で、「真一君、梨花さん、真理ちゃん」と呼んだそうだ。それに、祖父真一の身上調査を浅田隆一が引き受けていること、曾祖母が祖母梨花のことを浅田隆一に頼んでいるのも不思議だと言っていた。地元出身の代議士ならこういった頼み事もされたのだろうか?と思うほかなかった。
翌朝、父から美奈子叔母さんに報告をした。家の中を調べたが資産につながるようなものがなかったこと。もう、屋敷を壊さないと危険だということ。それと、例の鎌倉彫の文箱の件だった。結局、叔父夫婦はその文箱を口実にしてこちらへ遊びに来ることになった。
続く
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