2019年07月30日
家族の木 THE THIRD STORY純一と絵梨 <25 墓参>
墓参
梨央が歩けるようになったころ、絵梨が僕の実母の墓参りをしたいといった。
「母親になって初めて純の本当のお母様のことが気になってきたの。どんなに心残りだっただろうと思うと本当に胸が痛むの。自分だけで育てようと思って生んだ息子を残して逝くのは本当につらかったと思うのよ。今まで私たち自分のことに夢中になって、お母様のことがお留守になってたのよ。うちのママには内緒で叔父さんに聞いてみてよ。私たちは、お母様のお墓にお参りした方がいい。子供たちを見せて喜んでもらわなくちゃいけないよ。」と言ってくれた。
実の母のことは、僕が無理やり自分に目隠しをしていたことだった。今になって絵梨からその話が出たのはうれしかった。そうだ、その人にもこの二人の子供たちを見せてあげなければいけないと思った。
絵梨から実母の墓参りの話が出た翌日、大阪の叔父、僕の実父に母の墓の場所を教えてほしいと電話した。叔父は、くれぐれも東京の両親に内緒にするように念を押して墓の場所を教えてくれた。
意外にも墓所は東京だった。両親に内緒にするには都合がよかった。子供たちには買い物の帰りみたいにさりげなく墓参りをした。僕はこの墓参で初めて実の母の名前を知った。僕の母の名前は風羽田香織といった。珍しい名前だった。
なんとなく、その墓はさびれているだろうという予感を持って行った。しかし、きちんと手入れされていた。その家の人が落ち着いた暮らしをしているのが分かる墓だった。来てよかったと思った。
僕の母はかわいそうな人だった。でも、きちんと墓を手入れしている人がいる。僕の母は自分の家族に忘れられているわけではないのだ。それが分かっただけでもうれしかった。
その夜は絵梨と二人で一杯やった。絵梨は滅多に飲まなかったが、その夜はワインの乾杯に付き合ってくれた。二人で静かに「お母さん乾杯!」といった。その瞬間に涙があふれてきた。
僕は実母の墓参りの話が出てから一カ月ぐらい妙に緊張していた。それが、今日きれいに手入れされた母の墓にお参りして緊張の糸が切れてしまったようだ。孤独な寂しい人と思っていたが、ちゃんと見守ってくれる人がいた。心から感謝した。
「純、これからもお参りしよう。きっと、お母さんの身内の人も気が付くと思うよ。合わなくても純のお母さんの血筋の人と絆ができるんだよ。私のお姑さんだよ。きっと美人だったに違いないよ。大阪の叔父さんが愛していた人だもん。」といった。僕は、ただただ泣いていた。
続く
梨央が歩けるようになったころ、絵梨が僕の実母の墓参りをしたいといった。
「母親になって初めて純の本当のお母様のことが気になってきたの。どんなに心残りだっただろうと思うと本当に胸が痛むの。自分だけで育てようと思って生んだ息子を残して逝くのは本当につらかったと思うのよ。今まで私たち自分のことに夢中になって、お母様のことがお留守になってたのよ。うちのママには内緒で叔父さんに聞いてみてよ。私たちは、お母様のお墓にお参りした方がいい。子供たちを見せて喜んでもらわなくちゃいけないよ。」と言ってくれた。
実の母のことは、僕が無理やり自分に目隠しをしていたことだった。今になって絵梨からその話が出たのはうれしかった。そうだ、その人にもこの二人の子供たちを見せてあげなければいけないと思った。
絵梨から実母の墓参りの話が出た翌日、大阪の叔父、僕の実父に母の墓の場所を教えてほしいと電話した。叔父は、くれぐれも東京の両親に内緒にするように念を押して墓の場所を教えてくれた。
意外にも墓所は東京だった。両親に内緒にするには都合がよかった。子供たちには買い物の帰りみたいにさりげなく墓参りをした。僕はこの墓参で初めて実の母の名前を知った。僕の母の名前は風羽田香織といった。珍しい名前だった。
なんとなく、その墓はさびれているだろうという予感を持って行った。しかし、きちんと手入れされていた。その家の人が落ち着いた暮らしをしているのが分かる墓だった。来てよかったと思った。
僕の母はかわいそうな人だった。でも、きちんと墓を手入れしている人がいる。僕の母は自分の家族に忘れられているわけではないのだ。それが分かっただけでもうれしかった。
その夜は絵梨と二人で一杯やった。絵梨は滅多に飲まなかったが、その夜はワインの乾杯に付き合ってくれた。二人で静かに「お母さん乾杯!」といった。その瞬間に涙があふれてきた。
僕は実母の墓参りの話が出てから一カ月ぐらい妙に緊張していた。それが、今日きれいに手入れされた母の墓にお参りして緊張の糸が切れてしまったようだ。孤独な寂しい人と思っていたが、ちゃんと見守ってくれる人がいた。心から感謝した。
「純、これからもお参りしよう。きっと、お母さんの身内の人も気が付くと思うよ。合わなくても純のお母さんの血筋の人と絆ができるんだよ。私のお姑さんだよ。きっと美人だったに違いないよ。大阪の叔父さんが愛していた人だもん。」といった。僕は、ただただ泣いていた。
続く
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