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静まり返った工場の隅、古びた機械が一台、ぽつんと佇んでいた。明らかに時代遅れの外見に、すべてを諦めたような錆びついた姿。しかし、それでもどこか誇らしげに見えるのは、数十年もの間、この町の人々を支えてきたからだろう。
亮介はその機械の前に立っていた。若い頃から設備の修理を生業にしてきた彼は、こういった「歴戦の勇者」たちと幾度となく向き合ってきた。だが、今回の依頼は特別だった。工場の閉鎖が決まり、この機械を最後に動かすための点検と修理を頼まれたのだ。
「もう動かせるかどうかも怪しいですね……」
亮介の背後から声をかけたのは、工場長の老齢の男性だった。彼もまた、機械と共に長い歳月を歩んできた一人だ。
「大丈夫ですよ、まだいけます。こういうのは諦めないやつが多いですから」
亮介は小さく笑い、工具箱を開いた。錆びついたボルトを一本ずつ外し、内部を覗き込む。回路は劣化していたが、基盤には微かに現役だった頃の力が宿っているように見えた。
作業は夜に及んだ。ネジを締め直し、新しい部品を取り付け、動力を確認する。古い配線を見て亮介は、かつての技術者たちの丁寧な仕事ぶりに感心した。これは単なる機械ではなく、彼らの魂そのものだった。
「さあ、これでどうだ」
亮介がスイッチを押すと、機械は一瞬静止したかのように思えた。しかし、次の瞬間――轟音と共に動き始めたのだ。周囲に響き渡る音は、まるで「まだ終わっていない」と叫ぶようだった。
工場長の目に涙が浮かんでいるのが、亮介にも見えた。
「動きましたね。これで最後の仕事ができます」
その日、工場は予定通り稼働を終えた。亮介が修理した機械が最後の製品を作り上げたのだ。亮介はその光景を見届け、機械にそっと手を置いた。
「よく頑張ったな、相棒」
その後、機械は解体され、部品は新たな場所で再利用されることとなった。しかし亮介には確信があった。あの機械の魂は、どこかでまた新しい物語を紡いでいくのだと。
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