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冷たい北風が街を吹き抜け、街灯の光が凍えるアスファルトに反射していた。冬の夜は早く、夕方にはすでに闇が広がる。この街は、昼間の賑わいとは裏腹に、夜になると静寂が支配する。
篠田は仕事帰りの道を歩いていた。いつも通りだが、なぜか今日はいつもより疲れを感じる。重い工具箱を片手に持ちながら、吐く息が白く広がるのをぼんやり眺めていた。
帰り道の途中にある小さな公園を通り過ぎようとしたとき、不意に視界の隅に何かが動いた。振り返ると、ベンチに少女が一人、座っていた。彼女は薄いコートを羽織り、膝に小さなノートを広げている。
「こんな寒い中、何をしてるんだ?」
気になって篠田は声をかけた。少女は驚いた様子もなく、ゆっくりと顔を上げた。彼女の瞳は深い闇を湛えた湖のように静かで、何かを悟っているような雰囲気があった。
「星を待ってるんです。」
「星?今日は雲が多いし、見えないだろう。」
「そうかもしれません。でも、見えるかどうかは関係ないんです。」
不思議な答えに篠田は首をかしげた。彼女はノートを閉じると、立ち上がり篠田に微笑みかけた。
「あなたも、何かを待っているんじゃないですか?」
「俺が?いや、待つようなものは何もないさ。ただ、毎日仕事をして帰るだけだ。」
「それでも、きっと何かが待っていますよ。」
そう言うと、少女は篠田の横をすり抜け、公園の出口へと消えていった。篠田はしばらくその場に立ち尽くし、彼女が言った言葉を反芻していた。
待つもの。俺が?
その夜、ふと空を見上げた篠田は、雲間から覗く一つの星を見つけた。冷たい空気に包まれながらも、心の奥に何か温かいものが灯るのを感じた。
それは、まだ名前も形もない、小さな希望だった。
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