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2018年06月11日
懐かしい人
まだ小学一年生の頃、真夜中に突然の喘息の発作に見舞われた。
苦しくて声をあげようにも声にならず呼吸もままならない。
両親は襖を隔てて隣の部屋で就寝しているらしく寝息が聞こえている。
苦しくて
(もう駄目だ)
小さな私にも『死』が頭をよぎった。
その瞬間、寝ている私の頭を包み込むように畳から人間の手が現れた。
まるで畳から手が生えていると言う表現が一番しっくりくるんだろうか。
その手が、優しくひんやりと私の額を撫で胸の辺りに手が置かれた瞬間に
吸う事しか出来ずに苦しかった呼吸が、まるで魔法の様に楽になった。
不思議に思いながら、うっすらと目を開けると日本髪を結った黒い着物を着た女の人が、
私の枕元に正座して座り、仕切りに私の頭を撫でている。優しくて冷たいひんやりとした手。
その左手には金の指輪が2つ光っていた。
朝に目を覚ますと女の人は消えていた。
それから暫くして、小学校三年生の時に曾祖父が亡くなり、
遺影を飾る際にだだっ広い和室に曾祖父の遺影が一つだけでは寂しくて可哀想だからと、
祖母が早くに亡くなった曾祖母の遺影も一緒に飾る事にした。
その写真を見て、びっくりしたあの女性だった。
話に聞くと、結核で入院していた曾祖母はよく、結核で苦しい時に
「私の子供や孫にはこんな苦しい思いをさせたくないねえ。」
と仕切りに言っていたらしい。
それから、程なくして実際は結核ではなく医療ミスで亡くなったらしい。
曾祖父は生前曾祖母に頭が下がる様な手厚い看病をして頂いたと病院を訴えなかった。
曾祖母が死んで、半月後に私は産まれた。
生前、曾祖母は私の誕生をとても楽しみにしていたらしい。
私は産まれる直前までずっと、産婦人科医に男の子に違いないと宣告されていた。
母も男の子が産まれるものだと思っていた時、曾祖母が私の母の夢枕にたち
「由美ちゃん、子供が産まれたんだって?良かったねえ!私にも抱かしとくれ。
元気な子だねえ。あら、由美ちゃんこの子は男の子なんかじゃないよ。女の子だよ。」
産まれてきた私は曾祖母の言葉通り女の子だった。
時を超えて、まだ見ぬひ孫の私を曾祖母が救ってくれたのだと思う。
あの時、曾祖母の手に光っていた2つの指輪は銀婚式と金婚式の金の指輪だった。
その一つは、形見分けで貰った母の指で今も輝いている。
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