2018年02月13日
Receiving a request for the abolition of deficit bus 31 route by Ryobi Holdings - 両備ホールディングスによる赤字バス31路線廃止申請を受けて
2018年2月8日に両備ホールディングスより発表された赤字バス31路線の廃止により、周辺自治体及び沿線住民から驚きの声が上がったとの報道があった。
この報道に関するYahoo!ニュースの記事に関する一般のコメントでは、利用者のみならず遠く離れた人々から両備ホールディングスへの非難が相次いだ。
翌2月9日、両備ホールディングスの小嶋光信代表は声明を発表した。
その内容によると、両備ホールディングスの黒字路線に競合会社の低い運賃での参入が認可された。この結果収益の低下が予想され赤字路線を支えることができなくなるため、このような措置を行ったと述べられている。
「両備バスは3割の黒字路線で7割の赤字路線を、岡電バスでは4割の黒字路線で6割の赤字路線を支えている(両備ホールディングス「代表メッセージ(2018年2月9日)」より)」と小嶋氏は述べている。
ここまでならば、ただ単に地方の交通事業者の自己都合で利用者を貶めているだけという意見が出るだろう。しかし、小嶋氏は以下のように続けている。
「この届出については、既に各種報道でも大きく取り上げられておりますが、これを機に、全国の路線バス事業者が抱える窮境を知ってもらいたいと思います。このことで地域公共交通の実態が分かれば、全国で路線維持に苦しんでいる交通事業者や地方自治体も必ず呼応してくれるものと信じています。そして、その声が全国であがることによって、地域公共交通をサステイナブルに維持することができるよう、正常化に向かう機運が高まることを願っています。
道路運送法で需給調整規制が廃止され、路線バス事業の申請が許可制になって以降、バス路線の申請は、過去の訴訟を踏まえた紛争リスクから許可条件のみを形式的に審査することにより許可されてきました。しかしながら、その結果として安全管理体制の不備による重大死亡事故の発生や、賃金水準の低下による慢性的乗務員不足等の深刻な弊害が生じています。これらの弊害については、道路運送法の規制緩和による供給過剰と過当競争の影響が大きいと思われます。
一方で、少子高齢化の影響により人口が長期的に減少している地域においては、如何に交通路線網を維持するかが喫緊の社会的課題となっています。地方消滅が危惧され、地方創生が叫ばれる中で、需給調整規制の廃止に対する反省から、交通政策基本法や地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律等が制定されており、これらをはじめとする公共交通関連法令の解釈も、従来の「事業者間の競争による利用者利益の確保」の考え方から「地域公共交通の維持による利用者利益の確保」を主軸とする方向への転換が必要とされており、社会通念上、大きな変革が求められています。(両備ホールディングス「代表メッセージ(2018年2月9日)」より)」
先進国において地域公共交通機関の運営を完全に民間に任せきっている国は日本だけということは、少しでも交通政策に触れた者ならばある種常識的な考え方である。そんな中で小嶋氏はこれまで公設民営、信託経営を軸に和歌山鐵道、中国バス、津エアポートラインなど全国規模で地方交通事業者の再生と維持を行ってきた。近年では「エコ公共交通大国おかやま構想」の提案を行い、岡山市中心部のモーダルシフトを推進している。
その矢先、岡山市が競合会社の新規路線に認可を出したのである。本来ならば企業、行政が一体となって作成していくべき交通ネットワークに規制緩和によって“競争”が取り込まれ、現状すら維持できなくなると今回両備ホールディングスは判断したのである。
小嶋氏との対談を記した著書に、次の記述がある。「マイカー時代の恐ろしさは、働き盛りの社会人が公共交通の必要性を感じないところにある。これは公共交通中心の生活が当たり前の大都会の人には理解できない重大な現実なのです。高齢化社会が本格化すれば、誰でもいずれは公共交通に依存することになるのですが、地方では本当に公共交通を必要とする人たちの声が小さく、世論を形成しにくくなっています。(小嶋・森(2014)、pp.159-160)」「残念なことに、全国的にも市民の皆さんの公共交通に対する危機感は、目の前の鉄道会社やバス会社が路線を廃止したり、倒産してからでないと生まれません。日本人は深刻な問題が起こらないと危機意識を持たないことがよく分かりました(小嶋・森 (2014) 、p.170)」
まさに今回、これと同じ状況が、小嶋氏の足元で小嶋氏の手によって起こされたのである。今回の1件は利益を独占したいがための強硬手段と見られてしまうかもしれない。しかし、ここまでしなければ地方の公共交通機関は維持できないレベルにまで達してしまっている。超高齢化社会を控えた日本で潜在的に進んでいた問題にこの時点で一石を投じた小嶋氏の英断に私は拍手を送りたい。
【参考文献・引用 - References & Citations】
この報道に関するYahoo!ニュースの記事に関する一般のコメントでは、利用者のみならず遠く離れた人々から両備ホールディングスへの非難が相次いだ。
翌2月9日、両備ホールディングスの小嶋光信代表は声明を発表した。
その内容によると、両備ホールディングスの黒字路線に競合会社の低い運賃での参入が認可された。この結果収益の低下が予想され赤字路線を支えることができなくなるため、このような措置を行ったと述べられている。
「両備バスは3割の黒字路線で7割の赤字路線を、岡電バスでは4割の黒字路線で6割の赤字路線を支えている(両備ホールディングス「代表メッセージ(2018年2月9日)」より)」と小嶋氏は述べている。
ここまでならば、ただ単に地方の交通事業者の自己都合で利用者を貶めているだけという意見が出るだろう。しかし、小嶋氏は以下のように続けている。
「この届出については、既に各種報道でも大きく取り上げられておりますが、これを機に、全国の路線バス事業者が抱える窮境を知ってもらいたいと思います。このことで地域公共交通の実態が分かれば、全国で路線維持に苦しんでいる交通事業者や地方自治体も必ず呼応してくれるものと信じています。そして、その声が全国であがることによって、地域公共交通をサステイナブルに維持することができるよう、正常化に向かう機運が高まることを願っています。
道路運送法で需給調整規制が廃止され、路線バス事業の申請が許可制になって以降、バス路線の申請は、過去の訴訟を踏まえた紛争リスクから許可条件のみを形式的に審査することにより許可されてきました。しかしながら、その結果として安全管理体制の不備による重大死亡事故の発生や、賃金水準の低下による慢性的乗務員不足等の深刻な弊害が生じています。これらの弊害については、道路運送法の規制緩和による供給過剰と過当競争の影響が大きいと思われます。
一方で、少子高齢化の影響により人口が長期的に減少している地域においては、如何に交通路線網を維持するかが喫緊の社会的課題となっています。地方消滅が危惧され、地方創生が叫ばれる中で、需給調整規制の廃止に対する反省から、交通政策基本法や地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律等が制定されており、これらをはじめとする公共交通関連法令の解釈も、従来の「事業者間の競争による利用者利益の確保」の考え方から「地域公共交通の維持による利用者利益の確保」を主軸とする方向への転換が必要とされており、社会通念上、大きな変革が求められています。(両備ホールディングス「代表メッセージ(2018年2月9日)」より)」
先進国において地域公共交通機関の運営を完全に民間に任せきっている国は日本だけということは、少しでも交通政策に触れた者ならばある種常識的な考え方である。そんな中で小嶋氏はこれまで公設民営、信託経営を軸に和歌山鐵道、中国バス、津エアポートラインなど全国規模で地方交通事業者の再生と維持を行ってきた。近年では「エコ公共交通大国おかやま構想」の提案を行い、岡山市中心部のモーダルシフトを推進している。
その矢先、岡山市が競合会社の新規路線に認可を出したのである。本来ならば企業、行政が一体となって作成していくべき交通ネットワークに規制緩和によって“競争”が取り込まれ、現状すら維持できなくなると今回両備ホールディングスは判断したのである。
小嶋氏との対談を記した著書に、次の記述がある。「マイカー時代の恐ろしさは、働き盛りの社会人が公共交通の必要性を感じないところにある。これは公共交通中心の生活が当たり前の大都会の人には理解できない重大な現実なのです。高齢化社会が本格化すれば、誰でもいずれは公共交通に依存することになるのですが、地方では本当に公共交通を必要とする人たちの声が小さく、世論を形成しにくくなっています。(小嶋・森(2014)、pp.159-160)」「残念なことに、全国的にも市民の皆さんの公共交通に対する危機感は、目の前の鉄道会社やバス会社が路線を廃止したり、倒産してからでないと生まれません。日本人は深刻な問題が起こらないと危機意識を持たないことがよく分かりました(小嶋・森 (2014) 、p.170)」
まさに今回、これと同じ状況が、小嶋氏の足元で小嶋氏の手によって起こされたのである。今回の1件は利益を独占したいがための強硬手段と見られてしまうかもしれない。しかし、ここまでしなければ地方の公共交通機関は維持できないレベルにまで達してしまっている。超高齢化社会を控えた日本で潜在的に進んでいた問題にこの時点で一石を投じた小嶋氏の英断に私は拍手を送りたい。
2018年2月13日 日の丸鉄道
【参考文献・引用 - References & Citations】
- KSB瀬戸内放送(2018年2月8日)「両備バスと岡電バス 31路線を廃止へ 背景に何が? 岡山」Yahoo!ニュースhttps://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180208-00010007-ksbv-l33(2018年2月13日閲覧)
- 小嶋 光信・森 彰英(2014)『地方交通を救え!再生請負人・小嶋光信の処方箋』(交通新聞社新書070)交通新聞社
- 小嶋 光信(2018年2月9日)「緊急発表(平成30年2月8日午前) 全国の地域公共交通を守るために、敢えて問題提起として赤字路線廃止届を出しました。」両備ホールディングスhttps://www.ryobi.gr.jp/message/4726/(2018年2月13日閲覧)
- 山陽新聞デジタル(2018年2月8日)「バス廃止届「通勤通学の足なくなる」 岡山の自治体や市民に驚きと困惑」Yahoo!ニュースhttps://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180209-00010001-sanyo-l33(2018年2月13日閲覧)
- 山陽新聞デジタル(2018年2月8日)「岡山の両備系バス31路線廃止届 背景に岡山市中心部の過当競争」Yahoo!ニュースhttps://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180208-00010001-sanyo-l33(2018年2月13日閲覧)
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