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2014年10月13日

晩酌の味方を“狙い撃ち”?「第3のビール」増税のピンチ


庶民の味方「第3のビール」に増税が忍び寄っている。
 ビール類飲料の中で最も価格が安い「第3のビール」が増税のピンチだ。節約志向の高まりを背景に市場の拡大が続いており、政府が増税でガッチリ税収を確保することを狙いに検討の俎上に載せたため。ただ、消費税増税で負担が増す中、晩酌の強い味方を“狙い撃ち”にした増税に「庶民いじめ」と反発の声が広がるのは必至。年末の与党の税制改正論議に向け議論紛糾は避けられない。

■350ミリリットル49円の税差が…

 「消費税増税後、ただでさえ妻から飲む本数を減らされたというのに…」。第3のビールで毎晩、晩酌するという東京都杉並区の自営業男性(72)は、第3のビールが増税の検討俎上に上がっていることに、ショックを隠さない。4月の消費税増税後、今までは500ミリリットル缶2本まで許されていた飲む本数を、1本に減らされた。さらに、酒税法が改正され第3のビールが増税されれば「家計防衛のため、350ミリリットル缶1本まで量を減らされてしまうかもしれない」と不安がる。

 だが、増税の足音は確実に大きくなっている。

 政府は、ビールと発泡酒、第3のビールの間で大きく異なる現在の税率格差を縮めることで、第3のビールに消費者が流れ、税収が減る現状に歯止めをかけたい考え。具体的には、税率が低い第3のビールを増税する一方、税率の高いビールは減税する案が有力だ。そうなれば、現在はビールと第3のビールの間にある49円の税差が縮まり、第3のビールの店頭価格は現在の145円程度から大幅な値上げになる可能性が高く、価格の魅力は大きく薄れる。

■繰り返される“いたちごっこ”

 ビール業界は少子化で市場が縮小する中、より税額の低い商品に着目して新たなジャンルを切り開いてきた。発泡酒、第3のビールの登場はいずれも業界努力のたまものだが、市場が大きくなれば、その都度、増税の標的にされ、税率が引き上げられるという、業界と財務省のいたちごっこが繰り返されてきた。第3のビールも、平成18年に350ミリリットル缶で3.8円増税され、その後も幾度となく増税対象にあがっては、業界の反発で立ち消えてきた。

 ただ今年は例年以上に増税機運が高まっている。きっかけは、6月のサッポロビールの一件。サッポロの第3のビール「極ZERO(ゴクゼロ)」について、製造方法上の問題を、国税当局が指摘した。調査の結果、同社は税率の高い発泡酒として再発売、差額分の酒税を修正申告する事態になり、改めて、発泡酒と第3のビールの境界線の複雑さが浮き彫りとなった。

 ビール類の酒税の見直しについては26年度税制改正大綱でも「格差を縮小する方向で見直しを行い、速やかに結論を得る」と明記されている。サッポロの件は税務当局に付けいる隙を与えた格好で、増税の名分に使われかねない状況だ。

■ビール税一本化で税収増える?

 財務省は早期にビール類の税額差を縮めて、将来的には、一本化させる青写真を描くが、問題は、税額をそろえた後、ビール類の販売と税収がどうなるかだ。

 参考になるのが、品質によって3つの税額があった日本酒(清酒)の前例だ。 昭和63年まで、特級、一級、二級と3分類に税率が分かれ、特級と二級では1.8リットルで800円もの税差があった。税額そのものは平成4年までに段階的に一本化されたが、一本化される前の昭和57年〜平成3年と、平成4年〜13年の10年間の平均値の比較でみると、数量は約16%減の約119万キロリットルに、税収も約40%減の1522億円まで落ち込んだ。バブル崩壊や消費税導入など複数の要因があるが、等級を見て、品質を判別できなくなったことも一因との指摘がある。

 こうした経緯があるだけに、麻生太郎財務相も、7月の会見でビール類の税金について「(清酒の税額について)『分けなくなった結果、どうなったかというのを少し思い出してみたらどうか』という話を(主税局には)してある」と述べた。

■消費税10%なら負担は500億円増

 ただ、歴史をひもとくと清酒は税額一本化後に市場減退を招いたのは事実だ。加えて、財務省を悩ませるのが、来年10月に消費税率を10%へ引き上げるかどうかの判断を年末に控え、負担が重なることに世論からの反発が高まることだ。

 ビール酒造組合の試算によれば、今年4月の消費税率8%への引き上げに伴いビール類の税負担は年800億円増加し、消費税率が予定通り10%になると税負担額はさらに500億円増えるという。消費増税分は、そのまま店頭価格の値上がりにつながりになり、そこで第3のビールが増税されれば、ますます、販売を直撃することになり、税収も落ち込みかねない。

 ビールの出荷数量は6年度の741万キロリットルから減少が続き、24年度は280万キロリットルと、3分の1程度にまで落ち込んだ。さらに消費税増税が追い打ちをかけ消費が一段と減り続けるなか、売れ筋の第3のビールに増税の網をかければ、販売がさらに縮小し、ビール会社の経営も圧迫しかねない。このため、ビール業界では「総需要を回復させるためにも、ビール類全体での大幅な減税が最重要の課題」(ビール酒造組合)とし、むしろ減税を求めて、徹底抗戦する構えだ。晩酌に迫る増税の危機は、現実となるのか、それとも−。来年度税制改正に向けた与党の議論は、今月からいよいよ本格化する。
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