2014年09月18日
iPS細胞使い治療薬の候補の物質特定
骨を形づくる元となる軟骨ができず、手足などが成長しない難病の患者から作ったiPS細胞を使い、治療薬の候補となる物質を特定することに京都大学の研究グループが成功したと発表しました。
2年以内に臨床試験を始める計画で、iPS細胞を使った治療薬の開発が具体的な成果に結びつくのではないかと期待されています。
研究を行ったのは、京都大学iPS細胞研究所の妻木範行教授のグループです。
研究グループは、全身の骨を形づくる元となる軟骨ができず、手足などがあまり成長しない「軟骨無形成症」という難病の患者からiPS細胞を作り、それを軟骨の細胞に変化させたところ、細胞があまり増えないという病気の状態を再現できたということです。
そのうえで、「スタチン」という物質を加えると細胞が増殖し、軟骨の組織を作り始めることを突き止めました。
この病気のマウスにスタチンを投与した場合も、骨がほぼ正常な長さに伸びたということです。
スタチンは血液に含まれるコレステロールの合成を抑える薬として広く服用されていますが、子どもに投与した場合の安全性は確認されていないということで、研究グループは適正な量や投与の方法などを調べたうえで2年以内に臨床試験を始めることにしています。
妻木教授は「できるだけ早く臨床試験を始め、新たな治療薬を患者に届けたい。安全な方法が確立されるまで、勝手に服用することは絶対にやめてほしい」と話しています。
iPS細胞を使った治療薬の開発で、臨床試験の具体的な計画が明らかになったのは国内で初めてです。
iPS細胞を巡っては、目の網膜の組織を作り重い目の病気の患者に移植する世界で初めての手術も先週行われ、iPS細胞を使った医療への応用に弾みがつくものと期待されています。
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山中教授「治療薬開発への貢献に期待」
今回の研究成果について、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授は「患者由来のiPS細胞を使うことで、すでに薬となっている既存薬が、他の病気にも効果がある可能性を明らかにした重要な成果だ。同様の手法が他の多くの病気でも使われ、治療薬の開発に貢献することを期待している」とするコメントを出しました。
iPS細胞を使って新薬の開発などを進めるJST=科学技術振興機構のプロジェクトでアドバイザー役を務める吉松賢太郎さんは「これまで動物実験で効くと思われた薬の候補が実際の患者では効かないことが多くあったため、iPS細胞から変化させたヒトの細胞が薬作りに使えるのは、効果や安全性を見るのに非常に強い味方になると思う」と話しています。
そのうえで、「早い時期に薬が臨床の場で試せる可能性が見えてきたことは、非常に喜ばしいことだ。他の多くの病気でも治療薬が生まれる可能性を示したといえる」と評価しています。
一方、今後の課題については、「細胞が病気になるまで10年、20年かかるようなものもあり、まだまだ難しい部分もある。また、薬の候補となるさまざまな物質を試すためには品質のよい細胞を大量に用意する必要があり、さらに研究が必要だ」と話しています。
「軟骨無形成症」とその患者は
「軟骨無形成症」は、全身の骨を形づくる元となる軟骨ができず、手足などがあまり成長しない難病で、国内に4000人以上の患者がいるとみられています。
子どもの間に体の成長が止まり、身長が低いことから、日常生活で大きな支障が出ます。
さらに、背骨や頭の骨も十分に発達しないことから、背骨の中の神経に障害が出たり、脳の中に髄液がたまる「水頭症」になったりすることも少なくありません。
これまで、成長ホルモンを注射する治療法のほか、手や足の骨をいったん切断し、徐々に引き伸ばす治療などが行われていますが、効果は限られ、根本的な治療法がないのが実情です。
「軟骨無形成症」の患者と家族は、不自由な生活を送りながら新たな治療薬の開発を待ち望んでいます。
岡山市南区の小学1年生、安達大起くん(7)は、「軟骨無形成症」のため腕や太ももが短く、身長はおよそ1メートルと、同じ年の子どもより低くなっています。
自宅では洗面台の下に踏み台を置き、蛇口に手を伸ばして手を洗えるようにしています。
また、トイレの明かりは、壁のスイッチのところまで飛び上がらなくてもつけたり消したりできるようひもが取り付けられ、生活しやすいように工夫されています。
大起くんは、3歳のときから毎日、成長ホルモンの注射を受けています。
やがては、手や足の骨をいったん切断し、徐々に引き伸ばすという治療を受けることも考えていますが、苦痛が少なく根本的に治せる治療法を待ち望んでいます。
大起くんは「給食のとき、手が届く手洗い場が学校に1か所しかないのが困ります。背の高さを比べられるのがちょっと悔しいです。みんなと同じようになりたいです」と話していました。
母親の詩乃さんは「毎日注射を打っているのが本人には苦痛だと思います。薬を飲んで苦しまずに治るものが出来てくれればうれしいです」と話していました。
iPS細胞と治療薬開発
ヒトのiPS細胞は、今から7年前、京都大学の山中伸弥教授が作製に成功しました。
体の細胞に特定の遺伝子を入れることで作られ、さまざまな組織や臓器の細胞に変化することから、病気やけがで傷ついた部分を再生する「再生医療」に役立つと期待されています。
神戸市にある理化学研究所などの研究チームは、今月12日、iPS細胞から作った目の網膜の組織を重い目の病気の患者に移植する世界で初めての手術を行いました。
このほかにも、パーキンソン病や心臓病、血液の病気など、さまざまな病気の患者をiPS細胞を使った再生医療で治療しようという研究が進められています。
この一方で、iPS細胞を医療に役立てるもう1つの方法として期待されているのが、「治療薬の開発」です。
患者から作ったiPS細胞は遺伝子を引き継いでいるため、病気の部分の組織に変化させると病気の状態を細胞レベルで再現できるとされています。
そこにさまざまな物質を加えると、治療薬の候補を突き止めることができると考えられています。
これまでの研究では、ALS=筋萎縮性側索硬化症や、アルツハイマー病などについて、iPS細胞を使って病気の状態が一部再現できたと報告されています。
中には、治療効果が期待できる物質が見つかったという報告もありますが、臨床試験の具体的な計画が明らかになったのは今回が国内で初めてです。
今月、「再生医療」と「治療薬の開発」の両面で具体的な進展があったことで、医療への応用を目指す研究に弾みがつくものと期待されています。
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